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謎の天体「リトル・レッド・ドット」やはり正体はブラックホール? 国立天文台のスパコンで分析

マックス・プランク天体物理学研究所(ドイツ)の鄭昇明氏を筆頭とする研究チームは、初期宇宙の謎めいた天体「リトル・レッド・ドット(Little Red Dot: LRD)」の正体について、生まれて間もない巨大なブラックホールである可能性をシミュレーションで示した研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Nature」に掲載されています。

国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイIII」による、ガスに包まれたブラックホールが急成長する姿。温度が高い場所ほど赤い色で示されている(Credit: 鄭昇明、武田隆顕、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)
【▲ 国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイIII」による、ガスに包まれたブラックホールが急成長する姿。温度が高い場所ほど赤い色で示されている(Credit: 鄭昇明、武田隆顕、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)】

“小さな赤い点”が突きつけた謎

リトル・レッド・ドットとは、2022年にジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測を開始してまもなく数多く見つかるようになった天体です。約138億年前のビッグバンから数億年後という初期の宇宙に集中して出現し、宇宙誕生から15億年ほど経つと急激に姿を消してしまいます。

非常に遠方の天体であるため、もともとは紫外線や可視光線としてリトル・レッド・ドットから放たれた光は、宇宙の膨張にともなって波長が引き伸ばされ、赤外線として届きます。

ウェッブ宇宙望遠鏡の観測装置「NIRCam(近赤外線カメラ)」が捉える赤外線の波長域の中でも比較的波長が長い(可視光線を捉える私たちの目になぞらえて表現すれば“赤い”)こと、そしてコンパクトな天体であることから、「小さな赤い点」を意味するこの名前が付けられました。

リトル・レッド・ドットの正体はまだはっきりとはわかっていませんが、国立天文台によれば、銀河の中心で大量のガスを取り込みながら急成長するブラックホールだとする説が有力視されています。

ただ、正体がブラックホールだとすれば、リトル・レッド・ドットに含まれる星から予想される質量を大きく上回る、非常に巨大な「過大質量ブラックホール」が存在したことになるといいます。それほど重いブラックホールがどうやって誕生したのか、その起源が新たな謎として浮かび上がっていました。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測したリトル・レッド・ドットの例(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, D. Kocevski (Colby College))
【▲ ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測したリトル・レッド・ドットの例(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, D. Kocevski (Colby College))】

過大質量ブラックホールの誕生プロセスを模擬宇宙でシミュレート

研究チームは今回、シミュレーション上の模擬宇宙のデータから巨大なブラックホールの形成に適した60の領域を抽出。そのなかから最も成長が速いものを選び出し、ブラックホールの存在を最初から仮定することなく、ガス雲の収縮に始まる天体形成のプロセスを追跡しました。

今回の研究では、国立天文台の天文学専用スーパーコンピューター「アテルイIII」が使用されています。研究チームによる計算の結果、以下のようなプロセスが示されました。

星は低温のガス雲の特に高密度な部分が収縮することで形成されますが、近くの明るい銀河から放たれた強い紫外線によって冷却がさまたげられることで、ガスは星を形成することなく集まり続けます。ようやく星が形成され始めると、今度は誕生したばかりの星が急速に成長し、最大で太陽の50万~90万倍という非常に重い「超大質量星」に進化しました。

こうした超大質量星たちが進化することで誕生するブラックホールの質量は、太陽の100万倍程度に達します。研究チームによると、超大質量ブラックホールへと成長する前の段階にあたる「種ブラックホール」として従来想定されていた質量を、この値は1桁ほど上回るといいます。

ブラックホールの成長速度には、落下(降着)するガスが光の圧力に押し返されることで生じる「エディントン限界」と呼ばれる上限があります。ところが、シミュレーション上の宇宙で誕生した種ブラックホールは濃く厚いガスの円盤に包まれており、光が外側へ逃げていくよりも速くガスが内側に運ばれたことで、一時的ながらも限界の数倍~数十倍ものペースで成長する「超エディントン降着」も起こりました。

最終的に、約138億年前のビッグバンから約6億年後までに、シミュレーション上のブラックホールの質量は太陽の約3000万倍に到達しました。母銀河に対するブラックホールの質量の比率は、現在の宇宙における超大質量ブラックホールの場合(約0.1%)と比べて1桁大きく、過大質量ブラックホールの誕生が計算上再現されたことになるといいます。

【▲ 今回の研究におけるシミュレーションを可視化した動画(Credit: 鄭昇明、武田隆顕、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)】

リトル・レッド・ドットはブラックホールの急成長を支えた環境そのもの?

また、急成長を遂げたブラックホールの周囲にあるガスからは光が放たれますが、その光は外側に広がる濃いガスで吸収・散乱されることで、本来よりも赤みが強くなります。さらに、水素が放った光は電子による散乱の影響を受けることになります(輝線の幅が広くなる)。国立天文台によると、こうした特徴はリトル・レッド・ドットの特徴によく一致します。

つまり今回の研究では、重い種ブラックホールの誕生と過大質量ブラックホールへの急速な成長や、ブラックホールの成長を支えた環境そのものがリトル・レッド・ドットとして観測される可能性を、一つのプロセスで結びつけたことになります。

研究チームは、過大質量ブラックホールが濃いガスに覆われる期間は数十万年ほどで終わると推定しており、リトル・レッド・ドットとは過大質量ブラックホールが成長する過程で一時的に現れる姿だと位置づけています。ただし、今回の計算ではブラックホールが噴き出させるジェットなどの効果は含まれておらず、成長速度の上限を示した形です。このシナリオで説明できるリトル・レッド・ドットがどれくらいあるのかは今後の検証に委ねられることになります。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典