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土星の新衛星「S/2009 S 2」を土星の環の中で発見 公式な衛星の定義がないことによる “発見” か?

「土星」は多数の衛星を従えていることで知られており、2023年にはその数は3桁を超えています。2026年6月17日、太陽系の天体に関する情報の収集と提供を行っている国際機関「小惑星センター」は、土星の衛星のリストに新たに「S/2009 S 2」を追加したことを公表しました。この発見で土星の衛星は293個となりました(不確実な例を除く)。

しかし今回のS/2009 S 2は、いくつかの点で特殊です。特に、S/2009 S 2が位置するのは土星の環の中であり、実質的に土星の環の中の大きな塊が衛星としてカウントされた形になります。このような状況の背景には、現在の天文学コミュニティが保留し続けてきた「公式な衛星の定義が存在しない」という問題の実例と言えるかもしれません。

土星の環の中に新衛星「S/2009 S 2」を発見

図1: 木星と土星の衛星数の推移グラフ。今回の追加で、土星の衛星数は293個となります。(Credit: 彩恵りり)
【▲ 図1: 木星と土星の衛星数の推移グラフ。今回の追加で、土星の衛星数は293個となります。(Credit: 彩恵りり)】

太陽系で2番目に大きな惑星である「土星」は、多数の衛星を従えています。特に2000年以降は、土星探査機による接近観測や、望遠鏡の性能向上、観測データの処理技術の向上により、それまで18個しかなかった衛星数は急激に増加しました。2023年には3桁の大台を突破し、2025年には一気に128個追加されるなど、衛星数だけで注目される出来事も増えてきています。その大半は、土星から数千万km離れたところを、数年かけて公転する衛星です。

2026年6月17日、小惑星センターは土星の衛星を新たに1個追加したことを電子回報上で公表しました。これで土星の衛星は293個となりました。ただし今回の発見報告は、近年の発見報告と比べるといくつかの点で特殊です。

前提として、新衛星の発見を報じる電子回報には、衛星が夜空のどの位置で発見されたのかを示すデータや、公転周期などの軌道のデータ、発見者の詳しい情報などが示されています。冒頭の定型文以外は文章らしいものもないため、見方が分からなければ、よくわからない数字が長々と羅列されているだけのようにも見えるでしょう。

図2: 土星の新たな衛星としてS/2009 S 2を登録したことが書かれた電子回報。通常の電子回報では衛星名の下にデータの項目がありますが、今回は文章のみが書かれています。(Credit: Minor Planet Center)
【▲ 図2: 土星の新たな衛星としてS/2009 S 2を登録したことが書かれた電子回報。通常の電子回報では衛星名の下にデータの項目がありますが、今回は文章のみが書かれています。(Credit: Minor Planet Center)】

しかし、今回発見が公表された新衛星「S/2009 S 2」の電子回報には、そのような詳細なデータ欄が存在せず、以下の文があるだけです。この形式は珍しいものです。

The Minor Planet Center has received reports from J. Spitale of the discovery of a regular satellite of Saturn within the B ring, orbiting at a distance of approximately 117059 km. This satellite is visible in 4 Cassini images from 2009. The Minor Planet Center has assigned this object the provisional designation S/2009 S 2.

(小惑星センターは、J. Spitale氏から、土星のB環内、約11万7059kmの距離を公転する規則衛星を発見したとの報告を受けました。この衛星は、2009年にカッシーニが撮影した4枚の画像に映っています。小惑星センターはこの天体にS/2009 S 2という仮符号を割り当てました。)

J. Spitale氏とは、NASAとESAによって運用された土星探査機「カッシーニ」のミッションにおいて、撮影画像の処理・分析を行ったJoseph Spitale氏のことです。Spitale氏が率いる画像分析のチームは、土星の環の様々な変化を発見しています。

図3: 画像中央にある白い点がS/2009 S 2。背景の筋のようなものは土星のB環。(Credit: NASA, JPL-Caltech & Space Science Institute / 衛星を強調するためにトリミングおよび丸囲みを追加)
【▲ 図3: 画像中央にある白い点がS/2009 S 2。背景の筋のようなものは土星のB環。(Credit: NASA, JPL-Caltech & Space Science Institute / 衛星を強調するためにトリミングおよび丸囲みを追加)】
図4: S/2009 S 2が写っている4枚の画像によるアニメーション。赤丸で囲まれた部分中央の白い点がS/2009 S 2。(Credit: NASA, JPL-Caltech & Space Science Institute / Animation & Processing: Nrco0e))
【▲ 図4: S/2009 S 2が写っている4枚の画像によるアニメーション。赤丸で囲まれた部分中央の白い点がS/2009 S 2。(Credit: NASA, JPL-Caltech & Space Science Institute / Animation & Processing: Nrco0e))】

このような簡素な報告であるため、S/2009 S 2の詳しい性質は不明です。はっきりと分かるのは、土星の中心から約11万7059kmを公転しているという点だけです。これは土星の衛星の中で内側から2番目にあることを示しています。またこの公転半径から、公転周期は約11時間21分であると計算されます。

そして、S/2009 S 2はB環の中で見つかったとありますが、このような衛星には前例があります。それは枝番違いとも言える衛星「S/2009 S 1」です。S/2009 S 1は2009年に発見が報告され、S/2009 S 2と比べてわずかに内側、土星の中心から約11万6914kmの距離を公転しています。つまりS/2009 S 2は、B環内を公転する衛星として17年ぶりに発見されたことになります。

本当に衛星の “発見” と言えるのか?

さて、ここまで読んだ人の中には「S/2009 S 2は本当に衛星と言えるのか?」と疑問を持った方もいるかもしれません。

土星の環が、無数の氷や岩石の粒の集合体であるということを知っている方は多いでしょう。S/2009 S 2が公転しているB環は、まさにそうした環の1つです。このような背景を踏まえれば「S/2009 S 2は単に環の構成物の1つでしかないのではないか?」「S/2009 S 2を衛星と数えるなら、土星の環の無数の構成物も衛星であり、もはや土星の衛星は数えることができないのではないか?」と感じた方もいるかと思います。

実際のところ、これは筆者も同じ考えです。そしてこの問題の背景には、公式な衛星の定義が存在しないことが関連していると言えます。

例えば「惑星」という用語は長らく定義が存在しませんでしたが、2006年に国際会議を通じて正式な定義が決定されました。一方で「衛星」という用語に対する正式な定義はありません。2006年の惑星の定義の制定時、衛星の定義の議論は保留されたためです。このため、衛星は明文化されていない “事実上の定義” でカウントされています。

衛星の事実上の定義とは、「太陽以外の天体の周りを長期間公転していることが、観測によって証明できた天体」となります。今回の件で特に重要なのは観測による証明です。その天体が別の天体の周りを公転していると証明するには、何枚か写真を撮り、公転軌道を計算する必要があります。1~2枚の写真だけでは公転軌道を計算できませんし、もちろん見失ってしまってもダメです。

土星の環の場合、無数の氷や岩石の粒の集合体であることは分かっていますが、大半の粒は小さいため、1個1個を識別することはできません。一方で、今回発見されたS/2009 S 2や、前例となったS/2009 S 1は、B環の中の光る点としてはっきりと映っており、その存在を追跡することができました。

図5: 土星のA環(S/2009 S 2が発見されたのとは別の環)には、一時的な塊(ムーンレット)が多数観測されます(白丸の中にある縦線のような構造)。これらは寿命が短く、すぐに崩壊してしまうため、衛星とはカウントされません。(Credit: NASA, JPL-Caltech & Space Science Institute)
【▲ 図5: 土星のA環(S/2009 S 2が発見されたのとは別の環)には、一時的な塊(ムーンレット)が多数観測されます(白丸の中にある縦線のような構造)。これらは寿命が短く、すぐに崩壊してしまうため、衛星とはカウントされません。(Credit: NASA, JPL-Caltech & Space Science Institute)】

また土星の環には、出現後にすぐに消滅する一時的な塊(ムーンレット)が現れることがありますが、S/2009 S 2やS/2009 S 1は十分に大きく密度の高い塊であり、すぐには消滅しないと推定されます。このような事情から、S/2009 S 2は衛星の事実上の定義を満たしていると主張されます。

もっとも、これでは納得できないと思う方もいるかもしれません。観測技術が向上すれば、環のもっと小さな粒でも追跡可能となり、衛星の事実上の定義を満たすかもしれない、と考えることもできるでしょう。もちろん、当面の間はそのような心配をする必要はないでしょうが、将来的にはあり得る話です。理屈上は、土星の衛星は文字通り無数ということになってしまい、衛星のイメージからかけ離れてしまうと考えるのも無理もないでしょう。

また、一時的に生じてすぐ消滅する塊と、すぐには消滅しないと考えられる衛星との境目も曖昧であり、はっきりとした数値や定義がないことを問題と感じる方もいるでしょう。消滅する時間を定義しなければ、すぐに消滅する・すぐには消滅しないということは言えないからです。

今まで挙げたような問題は、衛星の正式な定義が定まらない限りは解決しないでしょう。S/2009 S 2の “発見” は、現在の天文学コミュニティが解決を保留してきた衛星の定義の未決着によって生じている問題の実例と言えるかもしれません。

ひとことコメント

S/2009 S 2の “発見” が、衛星の定義を正式に決定することを促すのに繋がるといいね。(筆者)

 

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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参考文献・出典