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冥王星表面の不思議な模様は液体窒素の流出跡? スプートニク平原は現在も更新され続けている可能性

SwRI(サウスウエスト研究所)のAlan Stern氏を筆頭とする研究チームは、冥王星の“ハート模様”の一部として知られる広大な窒素の氷床「スプートニク平原(Sputnik Planitia)」において、液体窒素が地下から地表近くまで上昇し、(地質学的なタイムスケールで)ごく最近流れ出た痕跡が見つかったとする研究成果を発表しました。

今回の成果はNASA(アメリカ航空宇宙局)の探査機「ニュー・ホライズンズ(New Horizons)」が2015年に取得した観測データを新たに解析して得られたもので、冥王星表面における液体の活動を示す初めての証拠だとされています。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「The Planetary Science Journal」に掲載されています。

NASAの探査機「ニュー・ホライズンズ(New Horizons)」が観測した冥王星。中央の白いなめらかな領域がスプートニク平原(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/SwRI)
【▲ NASAの探査機「ニュー・ホライズンズ(New Horizons)」が観測した冥王星。中央の白いなめらかな領域がスプートニク平原(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/SwRI)】

対流セルの縁を彩る2種類の暗色模様

ニュー・ホライズンズが冥王星のフライバイ探査を行った時、スプートニク平原の北部に並ぶ多角形の対流セルが捉えられました。

SwRIによれば、1つ1つが都市ほどの大きさに匹敵するセルの境界に沿って延びる幅の狭い暗色の筋「Discrete Dark Narrow Features(DNF)」と、その周りを取り囲むより淡い暗色の縁取り「Diffuse Dark Aprons(DDA)」が、今回の研究では特に注目されました。研究チームによると、これらの模様は地球のグリーンランド氷床で見られる融解水の水路や池がつくる暗色のパターンと、驚くほどよく似ているといいます。

また、スプートニク平原ではこれまで1つもクレーターが発見されていません。この領域における表面の年齢はわずか50万~100万年程度と地質学的には非常に若く、現在も活発に更新され続けていると考えられています。

NASAの探査機「ニュー・ホライズンズ(New Horizons)」が観測した冥王星のスプートニク平原。赤みを帯びた他の地域とは異なり、クレーターがみられない(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/SwRI)
【▲ NASAの探査機「ニュー・ホライズンズ(New Horizons)」が観測した冥王星のスプートニク平原。赤みを帯びた他の地域とは異なり、クレーターがみられない(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/SwRI)】
冥王星のスプートニク平原北端部分の拡大図。白っぽい色合いの氷床にみられる対流セルを取り囲むようにして、2種類の特徴「DNF(※暗色の細い筋)」と「DDA(※DNFの周囲に広がる淡い暗色の部分)」が存在する(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/SwRI)
【▲ 冥王星のスプートニク平原北端部分の拡大図。白っぽい色合いの氷床にみられる対流セルを取り囲むようにして、2種類の特徴「DNF(※暗色の細い筋)」と「DDA(※DNFの周囲に広がる淡い暗色の部分)」が存在する(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/SwRI)】
NASAの地球観測衛星「ランドサット9」が観測したグリーンランドの氷床。氷や雪が溶けて水になることで生じた地形と、冥王星のスプートニク平原北端にみられる特徴が類似している(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/SwRI)
【▲ NASAの地球観測衛星「ランドサット9」が観測したグリーンランドの氷床。氷や雪が溶けて水になることで生じた地形と、冥王星のスプートニク平原北端にみられる特徴が類似している(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/SwRI)】

氷床の底で溶けた窒素が地表まで運ばれる?

研究チームはDNFとDDAが液体窒素によって形成された可能性を検討し、氷床の底で溶けた窒素が表面まで上昇する可能性がある複数のプロセスについて比較・検討しました。

まず、氷床が北へゆっくり流動する際に生じる摩擦(せん断発熱)を要因として試算しましたが、得られる熱量は融解を起こすには不十分だったといいます。次に、氷床の下に横たわる水の氷でできた地殻の間隙に閉じ込められた窒素が、亀裂の発生や上に載る氷の減少にともなう圧力低下をきっかけに溶け出す可能性も検討されました。

そのうえで研究チームが特に詳しく検証を試みたのは、窒素の氷床内部における対流の弱まりです。窒素の氷が昇華することで氷床が少しずつ薄くなり、対流が弱まることで氷床下部の温度がじわじわと上昇した結果、氷床の底で窒素が融解して液体になる、という仮説です。液体窒素は窒素の氷よりも密度が低いため、浮力が生じて上昇し、幅数十cm~1mほどの細い隙間を通って地表まで到達し得ると見積もられています。

ただし、液体が地表まで安定して到達するのに必要な最小限の流量は、氷床内部で見込まれる窒素の融解速度を大きく上回ることも明らかになりました。そのため、あたかも地球の火山活動におけるマグマ溜まりのように、液体窒素は地下の貯留槽へ一旦蓄えられた後に、間欠的に噴出しているのではないかと研究チームは推測しています。

冥王星の“素顔”はまだ半分も見えていない

今回の成果は、冥王星が今もなお地質学的な変化を続けている可能性を示すものとなりました。冥王星は表面の半分しか高解像度観測が行われておらず、詳細がわかっていないもう半分の地域にも同様の地形が存在するかもしれません。

Stern氏は「冥王星は私たちを驚かせ続けている」と述べたうえで、冥王星に時間変化する新たな種類の地形が存在する可能性を示すものだとコメントしています。氷床の底で融けた窒素が浮力で地表まで運ばれるというプロセスは冥王星に限った現象ではない可能性があることから、海王星の衛星トリトンの間欠泉や、窒素の氷に覆われた準惑星エリスの表面活動を説明する手がかりにもなりうると研究チームは指摘しています。

一方、氷の対流モデルを担当したSETI研究所のOrkan Umurhan氏は、極低温下における固体窒素の応力とひずみに関する実験室での検証不足を挙げており、今後の検証にも注目です。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典