広告
広告
白亜紀末期の天体衝突で生じた塵の層が地球規模の森林火災を引き起こした可能性

今から約6600万年前、直径約10kmの天体が地球に衝突し、現在のユカタン半島に「チクシュルーブ・クレーター」を形成しました。この衝突は恐竜をはじめ多くの生物種を死滅させた大量絶滅(K-Pg境界の大量絶滅)の主な要因とされていますが、具体的にどのような過程で陸上生物が死に至ったのかについては、長年議論が続いてきました。

パデュー大学のBrandon Johnson氏を筆頭とする研究チームは、この衝突が引き起こした熱と森林火災の規模について再検証を行った研究成果を発表しました。衝突で生じた極めて細かい塵が大気を覆う「蓋」のように働いたことで、地表に降り注ぐ熱量を大幅に増幅させた可能性があるといいます。研究チームの成果をまとめた論文はAGU(アメリカ地球物理学連合)の学術誌「Journal of Geophysical Research: Biogeosciences」に掲載されています。

2023年1月にISS(国際宇宙ステーション)で撮影されたユカタン半島(Credit: NASA)
【▲ 2023年1月にISS(国際宇宙ステーション)で撮影されたユカタン半島(Credit: NASA)】

スフェルールだけでは説明できなかった火災

チクシュルーブ衝突では、蒸発した岩石が気体となって大気圏外まで到達し、冷えて凝縮した後に直径250μm程度のスフェルール(岩石の粒)となって世界各地に降り注いだことが知られています。

従来の研究では、このスフェルールが大気との摩擦で生む熱は隠れ場所のない動物を死に至らしめるには十分でも、世界規模で森林火災引き起こすには不十分だと指摘されていました。

ところが、2023年に北アメリカで行われた地層の調査において、スフェルールの層の上に極めて細かい塵の層が堆積していることが明らかになりました。この発見が、凝縮しきれなかった残りの岩石の行方に研究チームの関心を向けさせたといいます。

大気中の塵が熱を閉じ込めて放射熱を増幅させた?

Johnson氏らの計算によると、チクシュルーブ衝突で蒸発した岩石のうち44%は凝縮しきれず、気体のままで大気圏に戻ってくることになりました。この気体とスフェルールは大気圏突入時の減速度合いに差があったため分離していき、気体の大部分は微細な塵(中央粒径2.88μmほど)となって地球全体に広がったと研究チームは考えています。

この塵の層には光をほぼ完全に遮るほどの密度があり、地表から宇宙へ逃げていくはずの熱(赤外線)を閉じ込める「蓋」のような役割も果たしたとみられています。AGUによると、スフェルールに加えて塵の層が形成された場合に地表が受け取る放射熱の強さは、スフェルールのみの場合と比べて約3.5倍に達するといいます。

論文では、塵の層によって強められた地表の熱量は、草、地衣類、松の葉などが発火するのに必要な水準を大きく上回ったと試算されています。一方、木材の着火に必要とされるより厳しい基準に対しては、放射熱だけでは届かない可能性があるとしています。

ただし研究チームは、この試算では塵そのものが持つ熱や、飛散物の分布の偏りによる局所的な熱量の増加を考慮していないため、実際よりも控えめな見積もりになっていると指摘しています。

研究チームの試算が正しければ、チクシュルーブ衝突直後の地球では空を塵に覆われた暗闇の下、少なくとも草木を発火させるのに十分な熱量に見舞われ、そこから大規模な森林火災へと拡大していった可能性があるのです。

塵を考慮した場合(赤)と考慮しない場合(青)における、地表が受け取る放射熱の強さの時間変化を示したシミュレーション結果。黒色の水平線は、上が人体における致死量、下が草・地衣類・松の葉の発火に必要な熱量の目安を示している。左上の灰色の帯は木材の着火に至る範囲。論文から引用(Credit: Johnson et al. (2026), Journal of Geophysical Research: Biogeosciences)
【▲ 塵を考慮した場合(赤)と考慮しない場合(青)における、地表が受け取る放射熱の強さの時間変化を示したシミュレーション結果。黒色の水平線は、上が人体における致死量、下が草・地衣類・松の葉の発火に必要な熱量の目安を示している。左上の灰色の帯は木材の着火に至る範囲。論文から引用(Credit: Johnson et al. (2026), Journal of Geophysical Research: Biogeosciences)】

また、チクシュルーブ衝突のように大規模な天体衝突では、塵が長期間にわたって太陽光を遮ることで寒冷化を招く現象、いわゆる「衝突の冬」が起こると考えられています。地球規模の森林火災と寒冷化は一見矛盾しているように思えますが、火災が収まった後には同じ塵の層が寒冷化をもたらした可能性があると研究チームは指摘しています。

大量絶滅の主因は熱と森林火災か

今回の成果について研究チームは、「熱と森林火災が陸上生物の主要な死因だった」とする仮説を強く裏付けるものだとしています。実際、これまでの研究で示されている、地中や水中に逃れられた生物だけが生き延びたとされる痕跡とも整合的です。

一方、絶滅の引き金として「デカン高原の大規模な火山活動」を重視する説については、少なくとも陸上生物に関しては影響が限定的だったとの立場を研究チームは示しています。

研究チームは今後、より多くの場所で塵の分布を調べることで、今回示した仮説の検証を進めていきたいということです。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

関連記事

参考文献・出典