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約6600万年前に起きた天体衝突の様子を描いた想像図(Credit: Chase Stone)
【▲ 約6600万年前に起きた天体衝突の様子を描いた想像図(Credit: Chase Stone)】

グラスゴー大学のAnnemarie Pickersgill氏らの研究グループは、ウクライナ中部にある「Boltysh」(以下「ボルティシュ」)と呼ばれるクレーターが形成された年代に関する研究成果を発表しました。研究グループによると、このクレーターを形成した天体衝突は、気候変動から回復しつつあった地球環境に影響を及ぼした可能性があるようです。

■割り出された形成年代は白亜紀末期の大量絶滅から65万年後

直径約24kmのボルティシュ・クレーターは、ユカタン半島の「チクシュルーブ・クレーター」(直径約150km、約6604万年前)が形成された年代に近い、中生代白亜紀末期から新生代古第三紀暁新世にかけての時代に形成されたと推定されているクレーターです。現在は森に覆われているものの、一時はクレーター内に湖が形成されていたと考えられています。

この時代はチクシュルーブ・クレーターの形成だけでなくインドのデカン・トラップ(デカン高原を覆う洪水玄武岩)を作り出した約100万年間に渡る大規模な火山活動が起きており、天体衝突や火山からの温室効果ガス放出によって気候変動大量絶滅が発生しました。研究グループは、この重要な時代を総合的に理解する上で、天体衝突や火山活動が起きた正確な年代を特定することが肝心だと指摘します。

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研究グループによると、過去に実施された堆積物の分析結果から、ボルティシュ・クレーターはチクシュルーブ・クレーター形成のわずか2000~5000年前に形成された可能性が示されていたといいます。ただ、アルゴン・アルゴン法(※)を用いたボルティシュ・クレーターの年代測定では6580万年前(±64万/68万年)という結果が得られており、ボルティシュ・クレーターを形成した天体衝突が気候変動や大量絶滅に影響するタイミングで発生したかどうかは疑問が残っていたといいます。

※…放射性元素のカリウム40が崩壊してアルゴン40に変化することを利用した年代測定法の一つ

研究グループは今回、天体衝突時に形成された岩石および衝突後のクレーターにできた湖の堆積物のサンプルをボルティシュ・クレーターで採取した2つの岩石コアから選出し、改めてアルゴン・アルゴン法による年代測定を行いました。

Pickersgill氏によると、世界中の研究者の尽力により、アルゴン・アルゴン法はここ数年でますます正確になっているといいます。年代測定の結果、ボルティシュ・クレーターが形成されたのは6539万年前(±14万/16万年)と割り出されました。これはチクシュルーブ・クレーターの形成から約65万年後のことであり、恐竜をはじめ当時地球に生息していた動植物の約4分の3が死滅した大量絶滅にボルティシュ・クレーターを形成した天体衝突が関与していない可能性を示しています。

そのいっぽうで、この天体衝突は大量絶滅後の地球環境に影響を及ぼした可能性があるといいます。研究グループによると、新たに割り出されたより正確なボルティシュ・クレーターの形成年代は、古第三紀暁新世に起きたことがすでに知られている気候の極端な温暖化(Lower C29n hyperthermal)とクレーターを形成した天体衝突が関係していた可能性を示唆するといいます。

研究グループは、比較的小規模な天体衝突が極端な温暖化を引き起こす可能性は低いとしつつも、今回示された時期的な一致に注目。ボルティシュ・クレーターを形成した天体衝突と温暖化に因果関係があった場合、今回のデータは全球規模の壊滅的な出来事から回復しつつある気候の脆弱性を強調するものだと言及しており、今後の検証に期待を寄せています。

 

関連:白亜紀末に起きた天体衝突由来のイリジウム、クレーターの内部で発見

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Source: グラスゴー大学
文/松村武宏

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