カナダで隕石の衝突の音と映像が偶然記録される 両方同時は世界初

地球に落下する天体は、大気で発光する火球が撮影されることがあり、また屋根や車などの人工物に隕石が衝突したことが記録されています。しかし、隕石が衝突する瞬間の映像と音声が両方とも同時に記録された事例はこれまでありませんでした。

2024年7月25日17時を少し過ぎたころ(※1)、カナダのプリンスエドワード島に天体が落下しました。この時、個人宅の玄関先に小粒の隕石が衝突する様子が、玄関に設置されたドアカメラに偶然記録されていました。「シャーロットタウン隕石」と名付けられたこの隕石は、衝突の瞬間の映像と音声が両方同時に撮影された世界初の事例であると見られています。

※1…以下断りの無い限り、日時は落下地点の現地時間である大西洋夏時間で記述します。世界時への変換はプラス3時間、日本時間への変換はプラス12時間となります。

図1: 玄関タイルに放射状に広がる塵の跡が隕石によるものであると分かったのは、玄関に設置されたドアカメラの録画を見た後でした。(Credit: Laura Kelly)
【▲ 図1: 玄関タイルに放射状に広がる塵の跡が隕石によるものであると分かったのは、玄関に設置されたドアカメラの録画を見た後でした。(Credit: Laura Kelly)】

隕石衝突の瞬間を捉えることは難しい

地球に天体が落下し、燃え尽きずに地表へ落下した場合、その破片は「隕石」と呼ばれます。隕石を残すほどの大きさの天体衝突は1日に10~50回起きていると推定されていますが、大半は海や人口の希薄な地域に落下するため、全ての落下が記録されるわけではありません。しかしそれでも、防犯カメラやスマートフォンの普及により、落下の様子が映像として残される頻度は上がっています。

ごくまれな出来事として、隕石の衝突地点に人家や車があり、近くにいる人にニアミスすることもあり、人体に衝突した事例も確実なものとして1例記録されています。しかし、リアルタイムで衝突を目撃する人がいることはあっても、落下の瞬間が映像と音声の両方で記録された事例はこれまでのところありませんでした(※2)

※2…月などの地球外の天体に衝突する瞬間の映像は複数ありますが、当然ながら音声はありません。また落下中に発する音の記録も複数ありますが、こちらは衝突音ではありません。

玄関先のカメラが隕石衝突の瞬間を捉えた!

【▲ 映像: ドアカメラがとらえた隕石衝突の瞬間。録画と録音の両方で残された隕石衝突は世界初であると見られます。(Credit: Laura Kelly)】

2024年7月25日、カナダのプリンスエドワード島にある都市、シャーロットタウンに住むLaura Kelly氏は、パートナーのJoe Velaidum氏、およびペットの犬と共に夕方の散歩に出かけた後、自宅に帰宅しました。その時、玄関先の歩道のタイルに、放射状に広がる灰色の塵を見つけました。当初それが何なのか分からず、箒で払い落しました。

しかし、すぐに玄関に設置されたドアカメラの映像を確認すると、信じられない映像が残されていました。同日17時2分20秒に、何かの粒が高速で地面に落下し、氷が砕けるような音の後、粉塵が舞う様子が記録されていたのです。Velaidum氏は、わずか数分前にこの場所に立っており、隕石を受けたタイルには直径約2cmの “クレーター” が残されていました。

図2: 玄関タイルに残された直径約2cmの “クレーター” 。(Credit: Laura Kelly)
【▲ 図2: 玄関タイルに残された直径約2cmの “クレーター” 。(Credit: Laura Kelly)】

近くに住むLaura Kelly氏の父親は、偶然にもその衝突音を聞いていました。落下した物体が写っていたのはほんの2~3フレームであり、父親はその速さから、写っていたのは隕石の可能性があると考えました。

Kelly氏らは玄関先を捜索し、すぐに草むらの中から約7gの小さな破片を回収しました。また数日後には掃除機と磁石を使い、追加で合計約88gの破片を採集することができました。そして衝突の瞬間をとらえた映像を、カナダの大学としては最大の隕石コレクションを持つアルバータ大学の隕石報告システムに送信し、同大学の隕石の専門家であるChris Herd氏にも連絡を取りました。

隕石衝突の瞬間の録音・録画は世界初

図3: 落下直後に回収されたシャーロットタウン隕石の破片。(Credit: University of Alberta Meteorite Collection)
【▲ 図3: 落下直後に回収されたシャーロットタウン隕石の破片。(Credit: University of Alberta Meteorite Collection)】

Kelly氏らは当初、この落下した物体が隕石であることに懐疑的でした。Herd氏も実際に週に10件前後の報告を受けるものの、そのほとんどは隕石とは関係ないものです(※3)。しかし今回は、破片の分析により本物の隕石であることが確認されました。これは同時に、玄関先の映像も、隕石衝突の瞬間を録画・録音したものであることが確定したことになります。

※3…プレスリリースでは「99.9%隕石とは無関係」と表現していますが、実際の統計的な数値なのか、それとも比喩表現なのかは定かではないため、本文ではこのようにさせていただきました。

これは余談となりますが、Herd氏は偶然にも、隕石落下の10日後に家族と共にプリンスエドワード島に旅行する計画があり、Kelly氏らの自宅に寄り道することが可能な旅程でした。このため、破片の回収と落下地点の調査、および聞き取りをスムーズに行うことができました。

隕石は落下地点に因み「シャーロットタウン隕石」と名付けられ、これはプリンスエドワード島で初めて報告された隕石となりました。それだけでなく、映像と音声の両方で隕石衝突の瞬間が記録された世界初の出来事であると見られます。Herd氏曰く、同様の事例は聞いたことがないとのことです。

シャーロットタウン隕石そのものは、隕石の33.4%を占めるHコンドライトに分類されました。Hコンドライトは小惑星帯に起源を持ち、おそらく200km/h以上の速度でタイルに衝突したと見られています。岩石学的に言えば、シャーロットタウン隕石にはHコンドライトとして典型的なコンドリュール(隕石に見られる球状の組織)が多数含まれています。また、落下から数日後に新たに見つかった破片には、表面に溶融した跡や鉄の酸化物が見られます。溶融した跡は大気を移動する際の断熱圧縮による熱の作用、鉄の酸化物は回収までの数日間に受けた酸素や雨による作用とみられます。

 

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文/彩恵りり 編集/sorae編集部