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国立天文台野辺山の観測成果 「オリオン座分子雲の進化地図」を世界初作成

国立天文台野辺山宇宙電波観測所の立松健一・前所長や西村淳・現所長を中心とする国際的な研究チームは、世界で初めて「オリオン座分子雲の進化地図」を作成したとする研究成果を発表しました。

同観測所によると、この観測では45m電波望遠鏡に新たに搭載された「7BEE(セブン・ビー)受信機」が使用されました。この新開発の受信機によって、星の誕生の場である宇宙の雲が、どのような進化の段階にあるのかを広域にわたって可視化することに成功したということです。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「The Astrophysical Journal Supplement Series」に掲載されています。

国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡に搭載された「7BEE受信機」(左)と、オリオン座分子雲の進化地図(右)(Credit: 国立天文台野辺山宇宙電波観測所)
【▲ 国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡に搭載された「7BEE受信機」(左)と、オリオン座分子雲の進化地図(右)(Credit: 国立天文台野辺山宇宙電波観測所)】

星の誕生を測る時計としての「重水素」

宇宙空間に漂うガスや塵(ダスト)が集まった分子雲は、新たな星が誕生する現場であることから、“星のゆりかご”と表現されることもあります。

数十万年~数百万年という長い時間をかけて進化していく過程で、分子雲ではガスがさらに密集した「分子雲コア」と呼ばれる塊が形成され、やがてその中で新たな星(原始星)が生み出されます。しかしこれまでは、分子雲の進化の度合い(年齢)を広域にわたって詳細に論じることができる地図が存在していなかったといいます。

今回、研究チームが分子雲の年代を測る時計として着目したのは、水素の同位体である「重水素」です。重水素は水素の原子核である陽子に中性子が1つ追加されたもので、通常の水素の約2倍の質量があります。

研究チームによると、マイナス260℃程度という極低温の分子雲内部では、DNC(※)などの分子に取り込まれる重水素の割合が、化学反応によって高くなる傾向があります。一方、星が誕生して周囲の温度が上昇すると、重水素の割合は減少に転じます。

※…DNC:イソシアン化水素(HNC)という分子のうち、水素(H)が重水素(D)に置き換わったもの。

つまり、重水素の割合が高い場所は(宇宙のタイムスケールで)近い将来に星の誕生が期待できる“若い”領域であり、重水素の割合が低い場所は星形成が進んだ“古い”領域である、と判断できることになります。野辺山宇宙電波観測所はこの手法について、放射性同位元素の半減期を利用して岩石や化石の年代を測定する手法にたとえています。

浮かび上がった若き領域とコア内部の均一性

国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡(Credit: 国立天文台野辺山宇宙電波観測所)
【▲ 国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡(Credit: 国立天文台野辺山宇宙電波観測所)】

研究チームは野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡に搭載された7BEE受信機を使用して、オリオン座A分子雲にある「∫(インテグラル)字型フィラメント」と呼ばれる広大な領域と、オリオン座AおよびBの両分子雲に点在する、まだ星が生まれていない20個の分子雲コアを観測しました。

その結果、オリオン座分子雲の北部にあたる「OMC-2」および「OMC-3」と呼ばれる領域は系統的に重水素の割合が高く、今後も活発な星形成が予測される若い領域であることが明らかになりました。

一方、オリオン座分子雲の南部にあるオリオンKL領域(大質量の若い星を含むKL星雲や、散開星団のトラペジウムが存在する領域)の周辺にあたる「OMC-1」は、すでに温度が高く、星が誕生する直前の低温で若いガスは少ないことが示されました。

また論文では、個々の分子雲コア内部の化学的な性質についても報告されています。従来の理論モデルでは、密度が高くなるコアの中心部ほど重水素の割合は高くなると予測されていましたが、実際の観測ではコア内部の重水素割合はほぼ均一でした。その一方で、分子雲コアどうしを比較した時の重水素割合は異なっており、各コアが異なる進化段階にあることが明確に示されたといいます。

重水素の割合をもとに作成されたオリオン座分子雲の進化地図。色は進化段階を示しており、黄色に近いほど若く、濃紺に近いほど古いことを意味する。画像の上(北)から中央にかけての領域は若く、下(南)の領域は古いことがわかる。画像下側のオレンジ色の四角は、オリオン大星雲の中心にあるKL星雲の位置を示している(Credit: 国立天文台野辺山宇宙電波観測所)
【▲ 重水素の割合をもとに作成されたオリオン座分子雲の進化地図。色は進化段階を示しており、黄色に近いほど若く、濃紺に近いほど古いことを意味する。画像の上(北)から中央にかけての領域は若く、下(南)の領域は古いことがわかる。画像下側のオレンジ色の四角は、オリオン大星雲の中心にあるKL星雲の位置を示している(Credit: 国立天文台野辺山宇宙電波観測所)】

高解像度観測の解釈にも波及する成果

重水素の割合がコアの内部であまり変化しない、という今回明らかになった事実は、今後の研究に重要な示唆を与えます。

研究チームによると、チリの電波望遠鏡群「ALMA(アルマ望遠鏡)」などでも重水素を含む分子の観測はさかんに行われていますが、コア内部の化学的な均一性は、ALMAなどの観測で得られた高解像度のデータが示す結果を解釈するうえで、大きな影響を与える可能性があるといいます。

野辺山宇宙電波観測所によると、同観測所の45m電波望遠鏡と7BEE受信機の組み合わせは、パラボラアンテナ1基で構成される単一鏡型の電波望遠鏡として世界最速の重水素地図の取得能力を有します。今回のオリオン座分子雲における進化地図の作成を皮切りに、星の誕生の謎に迫るさらなる活躍が期待されます。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典