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超新星爆発の過酷な環境でも有機分子は生き残る? アルマ望遠鏡が超新星残骸で“星のゆりかご”を初発見

宇宙空間における生命の材料は、私たちが想像する以上にタフなのかもしれません。新潟大学の下西隆准教授を筆頭とする研究チームは、アルマ望遠鏡(ALMA)を用いた観測の結果、生まれたばかりの星を包む「ホットコア」と呼ばれる構造を、超新星残骸の内部で初めて発見したとする研究成果を発表しました。

“星のゆりかご”とも表現されるこのホットコアには、さまざまな有機分子が破壊されずに存在していることが明らかになったといいます。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「The Astrophysical Journal」に掲載されています。

超新星残骸「RX J1713.7-3946」(背景)で見つかったホットコアの想像図(右下)。背景画像の色は、青色が超新星爆発で生じた高エネルギー粒子や光子、茶色が星間物質を示している(Credit: 下西隆(新潟大学)、Google GeminiおよびChatGPTによる描画支援を利用)
【▲ 超新星残骸「RX J1713.7-3946」(背景)で見つかったホットコアの想像図(右下)。背景画像の色は、青色が超新星爆発で生じた高エネルギー粒子や光子、茶色が星間物質を示している(Credit: 下西隆(新潟大学)、Google GeminiおよびChatGPTによる描画支援を利用)】

太陽系誕生にも関わる超新星爆発の極限環境

星は、極低温の分子雲の中でも、特に高密度な分子雲コアと呼ばれる領域で誕生します。そこでは塵(ダスト)を触媒として複雑な有機分子(天文学において6個以上の原子からなる有機分子)が氷として生成されますが、誕生した星が発する熱で氷がガス化した暖かいガスの塊は「ホットコア」と呼ばれます。

太陽や地球をはじめとする惑星もこうした環境で形成されたと考えられていますが、太陽系初期の情報が保存されている隕石などの放射性同位体の分析を通じて、太陽系はかつて近くで起きた超新星爆発の影響を強く受けた環境で誕生した可能性が指摘されています。

超新星爆発は非常に強力な爆発現象であり、物質の放出にともなう衝撃波や、X線、宇宙線(高エネルギー粒子)を周囲に撒き散らします。このように過酷な環境の下では、生成された有機分子が高エネルギー粒子などによって破壊されてしまうのか、それとも新たな生成が促されるのかは、これまでよくわかっていませんでした。

検出されたホットコアの豊かな化学組成

今回、研究チームの観測対象となったのは、さそり座の方向、約3600光年先の超新星残骸「RX J1713.7-3946」です。超新星残骸は超新星爆発が起こった後に観測される天体で、爆発した星の周囲に広がるガスを衝撃波が加熱することで、可視光線、電波、X線といった電磁波が放射されていると考えられています。

新潟大学によると、RX J1713.7-3946は中国の歴史文献をもとに約1600年前に爆発が観測されたとみられる超新星残骸で、太陽系近傍の分子雲に比べて10倍から100倍以上も強い宇宙線や、強力なX線やガンマ線の放射、秒速数千キロメートルに近い衝撃波にさらされており、通常の星形成領域ではみられない極限的な環境にあります。

超新星残骸「RX J1713.7-3946」で見つかった2つのホットコア(星のゆりかご)の位置を示した図。背景は観測画像で、色は緑色の四角が今回発見されたホットコアの位置、青色がX線で観測した高エネルギー領域、緑色が4.6μmの赤外線で観測した恒星の分布、赤色が22μmの赤外線観測から推定される暖かい塵の分布、白色の等高線が冷たいガスの分布を示す。左上と右下のパネルはアルマ望遠鏡(ALMA)による観測結果で、メタノールやジメチルエーテルをはじめ様々な分子が検出されている。X線はESAの「XMM-Newton」、赤外線はNASAの「WISE」、冷たいガスの分布は「NANTEN」「NANTEN2」「ATCA」「Parkes」の各望遠鏡による一酸化炭素および中性水素の観測(Fukui et al. 2012)にもとづく。新潟大学のプレスリリースから引用(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Shimonishi et al.)
【▲ 超新星残骸「RX J1713.7-3946」で見つかった2つのホットコア(星のゆりかご)の位置を示した図。背景は観測画像で、色は緑色の四角が今回発見されたホットコアの位置、青色がX線で観測した高エネルギー領域、緑色が4.6μmの赤外線で観測した恒星の分布、赤色が22μmの赤外線観測から推定される暖かい塵の分布、白色の等高線が冷たいガスの分布を示す。左上と右下のパネルはアルマ望遠鏡(ALMA)による観測結果で、メタノールやジメチルエーテルをはじめ様々な分子が検出されている。X線はESAの「XMM-Newton」、赤外線はNASAの「WISE」、冷たいガスの分布は「NANTEN」「NANTEN2」「ATCA」「Parkes」の各望遠鏡による一酸化炭素および中性水素の観測(Fukui et al. 2012)にもとづく。新潟大学のプレスリリースから引用(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Shimonishi et al.)】

 

論文によれば、アルマ望遠鏡の高解像度(約0.5秒角)な観測の結果、この超新星残骸の中で2つのホットコアが確認されました。

そのうちの1つ(HC1)を詳細に分析したところ、ギ酸メチルやジメチルエーテルといった複雑な有機分子のメタノールに対する相対的な存在比(柱密度比)が、超新星爆発の影響を受けていない通常の星形成領域にあるホットコアの組成と区別がつかないほど類似していたといいます。つまり、超新星爆発の直撃を受けていると言える領域にありながら、この“星のゆりかご”では有機分子が破壊されずに生き残っていることになるのです。

どうして有機分子はこのように過酷な環境でも耐えられるのでしょうか。論文では、爆発の影響にさらされてからまだそれほど時間が経っておらず、分子の破壊が進んでいない可能性や、超新星爆発の衝撃波によって増幅された磁場が盾となることで、ホットコア内部への宇宙線の侵入を防いでいる可能性が示されています。

有機分子を取り巻く環境の観測と今後の展望

今回の成果は、生命関連物質の材料となり得る複雑な有機分子が、従来の想定よりもはるかに過酷な環境で生き残る可能性を示しました。

ただ、RX J1713.7-3946のホットコアにおける状況が、この宇宙において普遍的なものなのかどうかはまだわかりません。超新星爆発を起こした星との位置関係の違いや、過酷な環境にさらされる期間の長さによっては、有機分子が破壊されたり別の分子に変化したりするかもしれません。

研究チームは、電波望遠鏡による分子ガスの大規模観測や赤外線望遠鏡による観測が進むことで、超新星爆発の影響を受けた“星のゆりかご”の詳細がさらに明らかになることに期待を寄せています。

超新星爆発の影響を受けたとみられる太陽系形成時の環境は宇宙においてありふれたものなのか、それとも極めて特殊だったのか。星の終焉と誕生をつなぐ新たな知見に、今後も注目が集まりそうです。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典