広告
広告
太陽系の移動速度は従来の推定より3倍以上速い? 宇宙モデルに影響する発見

太陽系は、背景に対して約370km/sもの速度で移動していると推定されています。この速度の算出の根拠の1つとして、宇宙には特別な場所はなく、小さなスケールではムラがあっても、大きなスケールで見ればムラがないとする「宇宙原理」があります。

ビーレフェルト大学のLukas Böhme氏などの研究チームは、遠い宇宙にある「電波銀河」の数を数えることで、太陽系の移動速度は、従来の推定の3倍以上速い約1360km/sではないかとする推定をまとめました。

この研究結果は「太陽系の移動速度が従来の推定より3倍以上速い可能性がある」という点だけに留まらず、宇宙全体を記述する宇宙モデルの修正が必要なことを示唆しています

太陽系の移動速度はどれくらい?

私たちが住む太陽系は、どれくらいの速度で宇宙を進んでいるのでしょうか? この疑問に答えるためには、「何に対する速度か」という基準を決めなければなりません。

直観的に理解しやすいのは、遠く離れた背景を基準とした移動速度です。これは、地球上で動く物体の速度を求める場合と感覚的に似ているためです。

宇宙を移動する物体において基準となる背景とは、はるか遠くの宇宙を起源として、全ての方向からやってくる宇宙最初の光「宇宙マイクロ波背景放射」となります。この基準をもとに、太陽系の移動速度は背景に対して約370km/s(369.82±0.11km/s)であると推定されてきました。

この「約370km/s」という速度は、どのようにして得られたのでしょうか? 宇宙マイクロ波背景放射は宇宙の全ての方向からやってきており、ほぼ同じ波長の光として観測されます(※1)。この性質は、現在の宇宙モデルの重要な前提である「宇宙原理」と矛盾しません。宇宙原理とは、「宇宙には特別な場所はなく、小さなスケールではムラがあっても、大きなスケールで見ればムラがない」とする考えです。

※1…厳密に観測すると、わずかに波長が異なるムラが観測されますが、局所的かつ小さな小さい差であり、大局的に見れば均一であることと矛盾しません。

図1: 太陽系が移動していない場合、宇宙マイクロ波背景放射はほぼ均一であるはずです。しかし実際に測定してみると、宇宙の半分ずつで波長が異なって見えます。この違いは、太陽系が移動することによって起きると考えられています。(Credit: NASA)
【▲ 図1: 太陽系が移動していない場合、宇宙マイクロ波背景放射はほぼ均一であるはずです。しかし実際に測定してみると、宇宙の半分ずつで波長が異なって見えます。この違いは、太陽系が移動することによって起きると考えられています。(Credit: NASA)】

しかし、宇宙マイクロ波背景放射を厳密に観測してみると、宇宙の半分から来る光は、もう半分から来る光よりもわずかに波長が短く見えます。

“宇宙の半分”とはあまりに大きなスケールであり、このような違いがあるのは宇宙原理に反します。このため天文学者は、この違いは宇宙原理が間違っていることに由来するのではなく、太陽系そのものの動きが宇宙マイクロ波背景放射の波長に影響を与えているからだと考えています。

太陽系の動きで宇宙の光が影響を受けていると言われると壮大な話に聞こえますが、起きていることは日常生活で経験するのと同じです。救急車のサイレンを聞くと、近づく時に聞こえる音は、遠ざかる時に聞こえる音より高く聞こえるでしょう。これは、音源となる救急車の動きが音の波長を変化させる「ドップラー効果」によるものです。光は音と同じく波であるため、ドップラー効果が働きます。

ドップラー効果を考慮し、宇宙マイクロ波背景放射の波長がどのくらい変化したかを測定することで、太陽系の移動速度を逆算することができます。厳密な測定により、天文学者は宇宙マイクロ波背景放射に対する太陽系の移動速度を約370km/sであると推定してきました。宇宙原理を基盤とする現在の宇宙モデルも、太陽系の移動によって生じる見た目上のズレを補正して構築しています。

太陽系の移動速度は3倍以上速い!?

ビーレフェルト大学のLukas Böhme氏などの研究チームは、この約370km/sという数値に疑問を投げかける研究結果を発表しました。Böhme氏らが今回研究対象としたのは、遠い宇宙にある数多くの「電波銀河」です。電波銀河とは文字通り、強い電波を発する銀河のことです。

ここで一旦、宇宙原理に話を戻しましょう。宇宙原理に基づけば、銀河の数や分布にも偏りはないため、宇宙のどの方向を観察しても、空の同じ面積の中に、大体同じくらいの数の銀河があるのを観察できるはずです。

厳密に言えば、銀河を観察するには、銀河から来た光を(地球にいる)観測者が捉える必要があります。塵やガスなどに光が吸収されてしまえば、そこにあるはずの銀河が見えなくなり、数にカウントされなくなります。

一方、電波には他の波長の光と比べて塵やガスに遮られにくいという性質があります。このため、強い電波を発する電波銀河は、他の波長で観察するよりもカウント漏れが少なくなると考えることができます。

ただし、この電波銀河の観察数も、太陽系の移動速度の影響を受けます。太陽系が進む方向の空を観察すると、遠ざかる方向の空を観察した時と比べて、わずかながら電波銀河の数が多いように見えるのです。これは、雨の中を走る車の中で雨粒を見ると、進む方向側の方が、遠ざかる方向側よりも雨粒を観察しやすいのと似ています。

この、見た目上生じる電波銀河の数の差は極めてわずかであり、感度の高い観測を行わなければなりません。また、1個の電波銀河に複数の電波源があり、まるで複数個の電波銀河であるかのように見間違えてしまうこともあります。

図2: オランダ、エクスルー郊外に設置されたLOFARの中核部分。(Credit: LOFAR & ASTRON)
【▲ 図2: オランダ、エクスルー郊外に設置されたLOFARの中核部分。(Credit: LOFAR & ASTRON)】

Böhme氏らは、いくつかの電波望遠鏡による観測データを分析し、電波銀河の数を正確に数えました。特にメインとして分析されたのは、ヨーロッパ各地に設置された電波望遠鏡群「LOFAR」の観測データです。1個の電波銀河を間違えて複数個として数えてしまう問題は、異なる観測データ同士の比較と、統計学的な手法によって対処しました。

分析の結果、現在の宇宙モデルで予想されるよりも、はるかに大きな電波銀河の数のズレが見つかりました(※2)。そのズレは3.67±0.49倍です。これを言い換えると、太陽系が今までの推定よりも3倍以上速い約1360km/sの速度で移動していれば、このズレを説明できることになります。

※2…有意性は5.4σであり、発見といえる水準である5σを超えています。

宇宙モデルに修正が必要?

今までの3倍速いという大きなズレがあると、その影響は、単に太陽系のカタログスペックを書き換えるだけに留まりません。現在の宇宙モデルに関する研究では、太陽系の移動速度を約370km/sだと仮定して観測結果を補正し、理論の構築や観測結果との照らし合わせ、答え合わせをしているためです。太陽系の移動速度を約1360km/sだと書き換えるならば、観測結果の補正も大幅に変わるため、宇宙モデルそのものにも影響を与える可能性があります。

あるいは、「太陽系の移動速度が従来の推定より3倍以上速い」という結論が間違っているのかもしれません。今回の研究は、電波銀河の分布は均一だという仮定で速度を算出していますが、そもそも均一ではなく実際に偏りがあれば、このような間違いが生じます。とはいえ、その場合は「大きなスケールでは宇宙は均一だ」という宇宙原理に反するため、やはり宇宙モデルに書き換えが必要となります。

今回の研究は、膨大な観測データを分析して導いています。このため、そもそも分析手法に重大な誤りがあったという可能性も排除しきれず、今後の研究ではこの部分の検証もされるでしょう。仮に今後の第三者検証をパスした場合、私たちが現在使っている宇宙モデルは、多かれ少なかれ書き換えが必要となるでしょう

ひとことコメント

太陽系は3倍速いかもしれないという疾走感もスゴいけど、この変更がもっと大きな影響を与えるんだよね。(筆者)

 

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

※…ひとことコメントに誤字が確認されたため、修正いたしました(2025年12月15日11時)

関連記事

参考文献・出典