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アリゾナ大学スチュワード天文台のPierluigi Rinaldi氏(研究当時、現在はSTScI=宇宙望遠鏡科学研究所)を筆頭とする研究チームは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が数多く見つけてきた初期宇宙の謎の天体「リトル・レッド・ドット(Little Red Dot: LRD)」について、より近い時代にある銀河を手がかりに、その正体と進化の道筋に迫る研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「The Astrophysical Journal」に掲載されています。

初期宇宙を彩る「小さな赤い点」の謎

日本語で「小さな赤い点」を意味するリトル・レッド・ドットは、ウェッブ宇宙望遠鏡の観測装置のひとつ「NIRCam(近赤外線カメラ)」が捉える赤外線の波長域の中でも比較的波長が長い(可視光線を捉える私たちの目になぞらえて表現すれば“赤い”)こと、そしてコンパクトな天体であることから、このように呼ばれています。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測したリトル・レッド・ドットの例(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, D. Kocevski (Colby College))
【▲ ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測したリトル・レッド・ドットの例(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, D. Kocevski (Colby College))】

約138億年前のビッグバンから数えて約6億年後に数多く出現しますが、約15億年後には急激に姿を消してしまうことから、発見以来「宇宙が成熟するにつれてリトル・レッド・ドットは何になるのか」という謎を解くための取り組みが進められてきました。

リトル・レッド・ドットの正体をめぐっては、分厚い高密度ガスに包まれて急成長する超大質量ブラックホールだとする「ブラックホール星」仮説や、形成途上の球状星団だとする仮説など、これまでに複数の説が示されています。

「サボテン銀河」にみられるリトル・レッド・ドットとの類似性

Rinaldi氏らが着目したのは、おおぐま座の方向にある約104億光年先(赤方偏移z=2.0145)の銀河「WISEA J123635.56+621424.2」です。アリゾナ砂漠にまれに存在する、渦巻き状に育つ特殊なサボテンにその姿が似ていることから「Saguaro(サグアロ)」という愛称が付けられました。

Saguaroは2020年に運用を終えたNASA(アメリカ航空宇宙局)のスピッツァー赤外線宇宙望遠鏡によって、「可視光では暗いのに赤外線で明るい銀河」として報告されていた天体です。ハッブル宇宙望遠鏡とウェッブ宇宙望遠鏡による観測では、渦巻腕を持つSaguaroの姿が捉えられています。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCamで観測した銀河「WISEA J123635.56+621424.2」、愛称「Saguaro」(右上の拡大図)(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, STScI, Pierluigi Rinaldi (Steward Observatory); Image Processing: Alyssa Pagan (STScI))
【▲ ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCamで観測した銀河「WISEA J123635.56+621424.2」、愛称「Saguaro」(右上の拡大図)(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, STScI, Pierluigi Rinaldi (Steward Observatory); Image Processing: Alyssa Pagan (STScI))】

研究チームはSaguaroがリトル・レッド・ドットに類似した天体ではないかと考えており、その根拠として複数の証拠を積み重ねています。

第一の手がかりはスペクトル(電磁波の波長ごとの強さの分布)です。ウェッブ宇宙望遠鏡の「NIRSpec(近赤外線分光器)」による分光観測(スペクトルを得る観測手法)を行ったところ、典型的なリトル・レッド・ドットにみられるものと同じスペクトルの特徴が、Saguaroの中心核から検出されました。

ハッブル宇宙望遠鏡とウェッブ宇宙望遠鏡のデータを用いて活動銀河核(※)とその母銀河を分離する解析を行った結果、このスペクトルの特徴は中心の点源、すなわち活動銀河核に由来することが確認されています。

※…強い電磁波が観測される銀河中心部の狭い領域のこと、Active Galactic Nucleus: AGN。原動力は太陽の数百万倍~数十億倍の質量がある超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)だと考えられている。

第二の手がかりはX線です。Saguaroは銀河全体としては可視光線や赤外線で明るく輝いているものの、中心核だけに注目すると、NASAのチャンドラX線宇宙望遠鏡による観測でもごく弱い放射しか検出されていません。

実は、これまで見つかってきた典型的なリトル・レッド・ドットの大半は、活動銀河核の存在が疑われているにもかかわらずX線ではほとんど検出されていません。理由ははっきりとしていませんが、中心核を取り巻く分厚いガスによってX線の大半が吸収され、外へほとんど漏れ出していないと考えられています。

論文の共著者である南アフリカ・ケープタウン大学の大学院生Carys Gilbert氏は、「Saguaroの中心核はガスの奥深くに隠されているだけでなく、X線放射も本来より弱いのです。ほとんどのリトル・レッド・ドットでX線放射が見られない理由も、この組み合わせで説明できるかもしれません」と述べています。

赤方偏移を人為的に進める思考実験も実施

さらに、研究チームは思考実験として、Saguaroが約130億光年前(赤方偏移z=7相当)の初期宇宙に存在する場合の見え方をシミュレーションで検証しました。別の言い方をすれば、仮想のSaguaroを130億光年先まで人為的に移動させて、どのように見えるのかを確かめる実験を行ったのです。

すると、表面輝度が宇宙論的に減光する効果によってSaguaroの渦巻腕が検出限界以下まで薄れ、コンパクトな中心核だけが残ることで、まるで典型的なリトル・レッド・ドットのような姿が再現されました。

実際のSaguaro(左)が約130億年先に存在した場合の見え方をシミュレートした結果(中央)と、実際に観測されたリトル・レッド・ドット(右)を比較した図(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, Pierluigi Rinaldi (Steward Observatory); Image Processing: Alyssa Pagan (STScI); Illustration: Leah Hustak (STScI))
【▲ 実際のSaguaro(左)が約130億年先に存在した場合の見え方をシミュレートした結果(中央)と、実際に観測されたリトル・レッド・ドット(右)を比較した図(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, Pierluigi Rinaldi (Steward Observatory); Image Processing: Alyssa Pagan (STScI); Illustration: Leah Hustak (STScI))】

そこで、今度は約121億〜131億光年先(赤方偏移z=4~8)に存在する99個のリトル・レッド・ドットの観測データを重ね合わせて解析したところ、直径約6500~9800光年(2~3キロパーセク)におよぶ構造が周囲に淡く広がっている可能性が示唆されました。

簡単に表現すれば、リトル・レッド・ドットとは「遠すぎて銀河本体が見えていない中心核」だという可能性が示されたことになります。

リトル・レッド・ドットの“子孫”は何なのか?

Saguaroは球状星団やブラックホール星といった他の仮説を退けるものでもありませんが、リトル・レッド・ドットの正体を理解するうえでの重要な存在だと言えそうです。論文の共著者であるスチュワード天文台のGeorge Rieke氏は、「初期宇宙で生まれたものは、いずれ私たちの周りにある何かへと進化するはずです。リトル・レッド・ドットが何に進化するのかについては手がかりがありませんでしたが、今回の成果はその“子孫”を見つける方法が示されました」と述べています。

またRinaldi氏も、「ほとんどの遠方天体は宇宙論的効果の影響を受けていると考えています。ウェッブ宇宙望遠鏡をもってしても、非常に遠いリトル・レッド・ドットの周辺は暗すぎて観測できないのです。リトル・レッド・ドットは単なる点ではなく、はるかに複雑な存在です。いわば、超大質量ブラックホールが周囲の環境と相互作用している様子の“氷山の一角”にすぎません」と述べています。

研究チームは今後、Saguaroと同様の性質を持つ銀河をさらに探し出すとともに、これまでに蓄積されたウェッブ宇宙望遠鏡のアーカイブデータをもとにリトル・レッド・ドットの統計的な調査を進め、周囲の環境がリトル・レッド・ドットの成長過程にどう影響しているのかを明らかにしていく予定だということです。

 

編注:記事中の距離は、天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています。

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典