
こちらは、ハッブル宇宙望遠鏡が観測した銀河団「Abell 383(エイベル383)」。エリダヌス座の方向、地球から約24億光年の距離(赤方偏移z=0.187)に位置しています。

Abell 383をはじめとする銀河団には、目に見える銀河だけでなく、電磁波では直接捉えられないダークマター(暗黒物質)も大量に含まれています。銀河団の膨大な質量は時空間を歪め、背後にある遠方の天体から発せられた光の経路を曲げてしまいます。
このような現象は「重力レンズ効果」と呼ばれています。画像の中心付近を見ると、円弧状に引き伸ばされた光の筋を確認できますが、これは背後にある銀河の像が重力レンズ効果によって歪んだものです。
重力レンズは天体の像をこのように歪めるだけでなく、光を集めて虫眼鏡のように拡大することもあります。“天然のレンズ”である重力レンズ効果を利用することで、天文学者はハッブル宇宙望遠鏡の通常の視力では捉えきれないほど遠く、暗い初期宇宙の銀河を研究することが可能になります。
初期宇宙の銀河に関する発見へ導く
実際に、Abell 383の重力レンズ効果は、初期宇宙の謎に迫る重要な発見をもたらしてきました。
2011年に発表された研究では、この銀河団のレンズ効果を利用して、地球から約128億光年(赤方偏移z=6.027)という極めて遠方の銀河の観測に成功しました。当時の観測データを分析したところ、この銀河は驚くほど古い星々で構成されており、ビッグバンからわずか2億年後という予想以上に早い時期から星形成が始まっていたことが示唆されています。
また、2025年に報告された研究によれば、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた観測によって、Abell 383の領域でも「リトル・レッド・ドット(Little Red Dot: LRD)」と呼ばれる天体が捉えられました。
リトル・レッド・ドットは、ウェッブ宇宙望遠鏡による科学観測が始まった2022年以降、遠方宇宙で幾つも発見されるようになった天体です。ウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCam(近赤外線カメラ)が捉える赤外線の波長域でも波長が長い(可視光線を捉える私たちの目になぞらえて表現すれば“赤い”)ことと、コンパクトな天体であることから、このように呼ばれています。
その正体は高密度のガス雲に深く埋もれた、成長している超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)だとする仮説が有力視されていて、初期宇宙におけるブラックホールと銀河の関係性に迫る新たな知見として注目を集めています。
ダークマターの謎に迫る舞台にも
一方、Abell 383自身も宇宙の謎を解き明かす重要な研究対象となっています。
2017年に発表された研究によると、Abell 383を含む複数の銀河団において、その中心にある最も明るい巨大銀河が、銀河団全体の質量中心(ダークマターの重力の中心)に対して固定されず、わずかに揺れ動いていることが、ハッブル宇宙望遠鏡の観測で明らかになりました。
従来の標準的な理論では、銀河団が安定した状態になれば中心の銀河は動かないと予測されていたことから、予想外の「揺れ」は正体がわかっていないダークマターどうしの相互作用による可能性を示唆しており、ダークマターの真の姿に迫る手がかりとして注目を集めています。
冒頭の画像はESA/Hubbleから2011年4月12日付で公開されたもので、ESAの公式Xアカウントのひとつ「HUBBLE」が2026年4月30日付で改めて紹介しています。
編注:記事中の距離は、天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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