
ラバル大学の博士課程学生Camille Poitras氏らの研究チームは、地球から約5500万光年離れた楕円銀河「M87」の中心にある超大質量ブラックホールから噴出するジェット(細く絞られたガスの高速な流れ)について、その進化をこれまでにない高解像度のX線観測データで捉えることに成功したと発表しました。今回の研究成果は、同大学のCamille Poitras氏によって、第248回アメリカ天文学会(AAS)にて報告されました。
巨大なブラックホールが吹き出させる長大なジェット
おとめ座の方向にあるM87は、その中心に太陽質量の約65億倍の質量を持つ超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)が存在します。2019年に国際協力プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」によって、史上初めて捉えられたその輪郭(ブラックホールシャドウ)の画像が公開されたことでも有名です。
このM87は、中心のブラックホールの活動にともなって非常に高速で物質が吹き出した、長さ約5000光年のジェットを持つことで広く知られており、長年にわたって詳細な観測の対象となってきました。

最新の画像処理が明らかにした“超光速運動”と“冷却”
今回、研究チームはNASA(アメリカ航空宇宙局)のチャンドラX線宇宙望遠鏡が2012年、2017年、2023年、2025年に取得したデータを解析しました。
チャンドラを運用するCXC(チャンドラX線観測センター)によれば、これまでのX線観測では、電波や可視光線など他の波長に比べてジェットの細かい構造を鮮明に解像することが困難でした。しかし、チームは高度な画像処理技術(デコンボリューション)を用いることで、他の波長帯に匹敵するX線解像度を達成しています。
この鮮明な画像から、2つの重要な現象が確認されました。1つ目は、ジェット内部にある複数の部分の構造が、光速の5倍に迫る速度で移動しているように見える現象です。これは超光速運動と呼ばれる、あくまでも見かけ上の現象であり、粒子が光速に近い速度で地球の方向に向かって移動する際に生じる目の錯覚であることがわかっています。
2つ目は、ジェットの複数の領域における有意な明るさの変化です。研究チームによると、この変化は非常にエネルギーの高い粒子が磁場と相互作用する過程でエネルギーを失っていく、シンクロトロン冷却と呼ばれるプロセスと一致しているといいます。
多波長観測がもたらすブラックホール研究の未来
今回の成果はX線データの単独解析にとどまりません。公開された画像では、チャンドラのX線データに加えて、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の赤外線データ、ハッブル宇宙望遠鏡の可視光線データ、そしてNRAO(アメリカ国立電波天文台)のVLA(Very Large Array=超大型干渉電波望遠鏡群)の電波観測のデータが組み合わされており、複雑なジェットの姿を多波長で描き出しています。

10年以上にわたる観測データを組み合わせることで明らかになったM87のジェットの動的な変化は、超大質量ブラックホールが周囲の宇宙空間に与える影響や、極限環境下における高エネルギー粒子の振る舞いについて、私たちの理解をさらに深める重要な一歩となることが期待されます。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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