
「宇宙で最も直径が大きな惑星は何か?」という質問にはどう答えるべきでしょうか? 木星のような巨大ガス惑星が、恒星からの熱で焙られて膨張している「ホット・ジュピター」は、質問に対する回答の有力候補となります。
ジョンズ・ホプキンズ大学のGavin Wang氏などの研究チームは、2017年に発見され、当時からその巨大さが知られていた太陽系外惑星「HAT-P-67b」について、追加の観測結果に基づく詳細な分析を行いました。その結果、HAT-P-67bの直径は約30万6000kmと、木星の約2.140倍、地球の約23.99倍であると計測されました。これは2017年当時の測定結果よりさらに大きくなり、確実に惑星に分類される天体の中では「知られている中で最も直径が大きな惑星」であることになります。

惑星はどこまで大きくなれる?
太陽系において、直径が最も大きな惑星は木星であり、その直径は14万2984km(※1)と、地球の約11.2倍にもなります。木星の中心には、地球と同じくらいの直径と推定される岩石の核があると推定されていますが、その周りに大量のガスをまとっている「巨大ガス惑星」であるため、これほど巨大な大きさとなっているのです。なお、固体の表面を持たない巨大ガス惑星については、気圧が1気圧になる高度を直径の定義としています。
では、木星より大きな惑星は宇宙にはあるのでしょうか? 仮に木星にガスを追加しても、内部が圧縮されてより高密度になるだけであり、直径はほとんど増えないか、却って縮小してしまうと考えられています。このような低温の巨大ガス惑星の場合、約17万2000km(木星の1.2倍)が直径の限界であると考えられています。しかし、恒星の極端に近くを公転する巨大ガス惑星である「ホット・ジュピター」の場合、恒星から受け取る熱によって膨張し、低温時の限界を超えることができると考えられます。
あまりに大気が膨張すると、分子を重力で引き留めることができなくなるため、大気は流出します。つまり、ホット・ジュピターには直径の限界があると考えられています。現在のところ、ホット・ジュピターを含めた惑星の直径の理論的な限界は約31万5000km(木星の2.2倍)であると考えられており、この限界値は観測的にも示されています(※2)。
最も大きな惑星候補「HAT-P-67b」
知られている中で、直径が最も大きい惑星の候補の1つに、2017年に発見された「HAT-P-67b」があります。地球から約1210光年離れた位置にあるこの太陽系外惑星は、恒星「HAT-P-67」からわずか約940万kmのところを約4日19時間周期で公転していると考えられています。このためHAT-P-67bは、表面温度は1500℃以上まで加熱されているホット・ジュピターに分類されます。
HAT-P-67bは、地球から見て恒星の手前を通過することがあります。横切っている間は、惑星に隠された分だけ恒星の明るさが減るため、この変化から惑星の面積(投影面積)を知ることができ、面積から直径を知ることができます。この「トランジット法」は、遠く離れた太陽系外惑星の直径を精度よく知ることができる重要な手段です。
2017年の観測時、HAT-P-67bの直径は約29万8100km(木星の約2.085倍、地球の約23.4倍)であると測定されました。しかしHAT-P-67bの場合、横切られる恒星HAT-P-67がF型準巨星と呼ばれる、直径が大きな恒星ということが問題となります。恒星の直径が大きい、つまり面積が大きい場合、恒星の手前を横切る惑星が隠すことのできる面積の割合は小さくなり、暗くなる度合いも減少します。恒星の明るさの変化は元々微弱であり、観測誤差もあるため、明るさの変化に関する精度が低下してしまうのです。
HAT-P-67bの推定直径はさらに大きく!

ジョンズ・ホプキンズ大学のGavin Wang氏などの研究チームは、HAT-P-67bの正確な直径を求める分析を行いました。HAT-P-67bを発見するに至った「HATNet(ハンガリー自動望遠鏡ネットワーク)」に加え、アメリカの「キットピーク国立天文台」やアメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙望遠鏡「TESS」など、地上と宇宙の両方の望遠鏡で観測されたデータを元に、HAT-P-67bの直径を含む性質をより詳細に分析しました。
分析の結果、HAT-P-67bの直径は約30万6000km(30万2400~30万9600km)であると測定されました。木星の2.140±0.025倍(地球の23.99±0.28倍)と精度が改善しただけでなく、可能性の高い直径がさらに大きくなることが推定されました。確実に惑星に分類される天体の中では(※3)これを上回る直径が推定された惑星はないため、HAT-P-67bは「知られている中で最も直径が大きな惑星」となります。

HAT-P-67bは、木星の2倍強という直径を持ちながら、質量は木星の約0.45倍と、半分にもならないと推定されています。このため、HAT-P-67bの平均密度は1立方cmあたり約0.061gと、わたあめよりもちょっとだけ密度が高い程度と言う極端な低さとなります。ホット・ジュピターの中でも極端に低密度なものを「スーパーパフ(Super-puff)」と呼びますが、HAT-P-67bはスーパーパフの中でも5本の指に入るほどの密度の低さです(※4)。
HAT-P-67bが大きく見えるのは運が良いかも?
HAT-P-67bという、地球のほぼ24倍の直径を持つ超巨大惑星を観測できているのは、ある意味では幸運なことかもしれません。実際、HAT-P-67bの直径は、理論的な惑星の直径の限界にかなり近い値です。これほど膨張した大気を重力で繋ぎとめることはできず、HAT-P-67bの大気は実際に流出していることが観測されています。
理論モデルによれば、HAT-P-67bはわずか約500万年で大気が蒸発してしまい、地球の数倍から数十倍の質量を持つ核だけが残されると予測されています。そして1億5000万年から2億5000万年以内に、HAT-P-67bは恒星からの潮汐力によって砕けてしまい、破片も飲み込まれてしまうと推測されます。数億年は天文学的には短い時間スケールであるため、膨張したHAT-P-67bを観測できているのは幸運であると見られます。
HAT-P-67bは今から約14億6000万年前に誕生したと推定されていますが、このように現在の状態が長続きしないことを考えられると、HAT-P-67bはごく最近に何らかの原因で公転軌道が縮小し、恒星のすぐ近くを公転するようになったと推定されます。惑星の公転周期が約4日19時間と、恒星の自転周期の約5日10時間とかなり近いことから考えると、惑星と恒星との間に何らかの相互作用があったのではないかとも推測できます。
恒星のごく近くに巨大な惑星があるというホット・ジュピターの形成過程は、現在でも多くの謎に包まれています。HAT-P-67bはホット・ジュピターの形成過程と最終的な運命について、珍しいタイミングのスナップショットを提供しているのかもしれません。
注釈
※1…14万2984kmという値は、正確には木星の赤道直径です。平均直径の場合13万9822kmであり、地球の約11.0倍となります。惑星科学の分野では木星半径が単位としてよく使われますが、その値は木星の赤道半径であるため、本文では赤道での値を引用しています。
※2…誕生直後の惑星は重力による収縮が十分ではないため、この限界を超えた大きさの惑星があると主張される場合もあります。しかし、この測定結果は惑星の周辺に存在する塵やガスの円盤との区別があいまいであり、円盤込みの数値が誤って “惑星の直径” として引用されることもあります。また、推定質量が木星の13倍と、惑星の上限を超えるものも珍しくありません。
※3…HAT-P-67bの直径を超える可能性がある天体は、直径が直接測定されていないか、もしくは質量が木星の13倍を超えています。この質量を超えると、惑星ではなく「褐色矮星」と呼ばれる別の性質を持つ天体に分類されることが一般的です。
※4…論文中ではHAT-P-67bを「WASP-193bに次いで2番目に密度の低い惑星」と説明していますが、より密度が低く、観測精度も高い例として「ケプラー51d」が知られています。論文でこの惑星が挙げられていない理由が不明であるため、本文では何番目であるかについて触れていません。
文/彩恵りり 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- Gavin Wang, et al. “A Revised Density Estimate for the Largest Known Exoplanet, HAT-P-67 b”.(arXiv)
- G. Zhou, “HAT-P-67b: An Extremely Low Density Saturn Transiting an F-subgiant Confirmed via Doppler Tomography”.(The Astronomical Journal)
- Qiang Hou & Xing Wei. “Why hot Jupiters can be large but not too large”.(Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)