電波で観測された星のゆりかご “じょうぎ座”の星形成領域「RCW 106」
【▲ HII領域「RCW 106」。「VLTサーベイ望遠鏡(VST)」の光学観測データ(青色)と電波望遠鏡「APEX」(Atacama Pathfinder Experiment、アタカマ・パスファインダー実験)のサブミリ波の観測データ(オレンジ色)を合成して作成(Credit: ESO/M. Mattern et al.)】

こちらは「じょうぎ座(定規座)」の方向約1万2000光年先にあるHII(エイチツー)領域「RCW 106」です。青色で示された星々の輝きを背景に、オレンジ色で示された分子雲の分布が左上から右下へと煙のように続いているのがわかります。

【▲ HII領域「RCW 106」。「VLTサーベイ望遠鏡(VST)」の光学観測データ(青色)と電波望遠鏡「APEX」(Atacama Pathfinder Experiment、アタカマ・パスファインダー実験)のサブミリ波の観測データ(オレンジ色)を合成して作成(Credit: ESO/M. Mattern et al.)】
【▲ HII領域「RCW 106」。「VLTサーベイ望遠鏡(VST)」の光学観測データ(青色)と電波望遠鏡「APEX」(Atacama Pathfinder Experiment、アタカマ・パスファインダー実験)のサブミリ波の観測データ(オレンジ色)を合成して作成(Credit: ESO/M. Mattern et al.)】

HII領域では若い大質量星から放射された紫外線によって電離した水素ガスが光を放っていて、輝線星雲として観測されます。HII領域はガスと塵(ダスト)の集まりである分子雲から星が形成される星形成領域であり、新たな星が誕生する現場であることから、“星のゆりかご”と呼ばれることもあります。

この画像はヨーロッパ南天天文台(ESO)が運営するチリのパラナル天文台の「VLTサーベイ望遠鏡(VST)」で取得された光学観測データ(青色)と、同じくチリのアタカマ砂漠に建設された口径12mの電波望遠鏡「APEX」(Atacama Pathfinder Experiment、アタカマ・パスファインダー実験)で取得されたサブミリ波の観測データ(オレンジ色)を組み合わせて作成されています。

ESOによると、星形成領域にあるガスのうち実際に星を形成するのはわずか1%です。なぜこれほど低い割合なのかは天文学者にもまだわかっておらず、謎を解く手がかりを求めて研究が続けられています。

星は分子雲のなかでも特にガスや塵が濃く集まっている部分(分子雲コア)の密度が一定の値を超えて収縮することで形成され始めることがわかっています。では、分子雲の密度がしきい値を超えている場合、密度が高くなればなるほど多くの星が形成されるようになるのでしょうか?

APEXによるRCW 106の観測データなどを用いた最新の研究成果は、そうではないことを示しています。ガスや塵が高い密度で集まったとしても星が効率的に形成されるわけではないようです。ESOによると、その理由は分子雲が断片化してフィラメント状(ひも状)の構造と分子雲コアに分かれることで説明できる可能性があるものの、多くの疑問がまだ残されているということです。

冒頭の画像は“ESOの今週の画像”として2024年8月19日付で公開されています。

【▲ 参考画像:VLTサーベイ望遠鏡(VST)で撮影されたHII領域「RCW 106」(中央上)とその周辺の様子(Credit: ESO)】
【▲ 参考画像:VLTサーベイ望遠鏡(VST)で撮影されたHII領域「RCW 106」(中央上)とその周辺の様子(Credit: ESO)】

 

Source

  • ESO - How to find newborn stars
  • ESO - The Realm of Buried Giants
  • Matten et al. - Understanding the Star Formation Efficiency in Dense Gas: Initial Results from the CAFFEINE Survey with ArTéMiS (Astronomy & Astrophysics, arXiv)

文・編集/sorae編集部