アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)は2024年11月11日付で、NASAの惑星探査機「ボイジャー2号(Voyager 2)」による天王星の観測データを再検討した、JPLのJamie Jasinskiさんを筆頭とする研究チームの取り組みを紹介しています。研究チームの成果をまとめた論文は「Nature Astronomy」に掲載されています。
“横倒し”の惑星・天王星は磁場も特徴的
ボイジャー2号は1986年1月に天王星のフライバイ観測を行いました。2024年11月現在、天王星に接近して観測を行った探査機はボイジャー2号だけ。その観測データは貴重なものであり、フライバイから39年近くが経った現在も研究の対象となっています。
天王星は公転軌道に対して自転軸が約98度も傾いた“横倒し”の惑星として知られていますが、磁場も特徴的です。ボイジャー2号の観測によって、天王星の磁場は自転軸から60度近くも傾いているうえに、天王星の中心から半径の3分の1も外れたところを通過していることがわかりました。
判明した事実はそれだけではありません。JPLによると、天王星の磁気圏(磁場が支配する領域)の内部には強力な電子の放射線帯があったものの、他の惑星の磁気圏ではみられるプラズマがほとんど存在しないように見えました。ボイジャー2号がもたらした観測データに研究者たちは困惑させられることになりましたが、接近観測で得られた天王星の観測データはこれが唯一だったので、天王星の磁気圏を理解するための基礎として用いられてきました。
確率4%のめずらしい状態をたまたま観測していた可能性
今回、ボイジャー2号の観測データを改めて分析したJasinskiさんたちは、観測当時の天王星の磁気圏が宇宙天気(太陽活動による宇宙環境の変動)の影響を受けていた可能性を指摘しています。
ボイジャー2号は1986年1月24日に天王星のバウショック(太陽風と磁気圏の衝突で生じた衝撃波)を通過しましたが、ボイジャー2号の科学機器はその数日前から太陽風の密度と動圧が高まっていた様子を捉えていました。このことから研究チームは、ボイジャー2号が訪れたのはたまたま太陽風によって磁気圏が大幅に圧縮された状態の天王星だったと結論付けています。太陽風の影響で放射線帯が強まるとともに、磁気圏からプラズマが流出した可能性があるというのです。
Jasinskiさんはボイジャー2号フライバイ時の天王星について「約4%の確率でしか発生しない状態」であり、もしもフライバイがあと数日早ければ全く異なる様相の磁気圏を観測していただろうとコメントしています。
私たちが唯一得ている天王星の接近観測データがめずらしい状態を反映している、言い換えれば普段の天王星の状態を反映していないとすれば、今回の研究は将来の天王星探査ミッションを後押しすることになるかもしれません。2024年5月には太陽活動にともなう低緯度オーロラが世界各地で観測されて話題になりましたが、遠く離れた天王星にも劇的な変化をもたらす太陽の活動に改めて驚かされる成果です。
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Source
- NASA/JPL - Mining Old Data From NASA’s Voyager 2 Solves Several Uranus Mysteries
- Jasinski et al. - The anomalous state of Uranus’s magnetosphere during the Voyager 2 flyby
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
#天王星 #ボイジャー2号 #宇宙天気