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夜空に散りばめられた星々は、はるか昔から現在まで変わらずに淡々と輝いているように見えます。しかし、どれほど静謐に見えても、星々はたえずわずかに振動しています。「星震(スタークエイク)」と呼ばれるその振動は、ときに音楽にもたとえられ、われわれに星々の新たな秘密をもたらしてくれます。

星々にも“地震”が発生する

突如として立っていられないほどに揺れ動き、家屋を倒壊させ、地滑りを起こす大地震――。それは、日本を頻繁に襲う自然災害のひとつです。

しかし、地震は地球だけに発生するわけではありません。地震(earthquake)のearthは地球ではなく“大地”の意味とされ(※1)、火星や金星、それに月でも発生します。

惑星や衛星だけではありません。地殻の存在しない夜空の星々にも“地震”が起こっています。

「星震(スタークエイク:starquake)」と呼ばれる恒星の地震は、地球のように突如として地表が振動して数十秒から数分でおさまるものではなく、星の表面を鼓動のようにたえまなく振動させています。

この現象についての研究分野は「星震学(アステロサイズモロジー:asteroseismology)」と呼ばれ、十数年前から急速に発展しています。いわば、星震学は天文学界の“ニューフェイス”でもあるのです。

※1:英語のseimo-は古ギリシア語のseiein(揺れる)、quakeは古英語のcwacian(震える、振動する)が語源とされている。

図1:地球と同じように、星々にも星震と呼ばれる”地震”があり、大質量の星は低い周波数で振動します。これは宇宙望遠鏡「ハッブル」がとらえた散開星団トランプラー14で、天の川銀河で最も光度が高く重い星のひとつも含まれています。(Credit: NASA/STScI)
【▲ 図1:地球と同じように、星々にも星震と呼ばれる”地震”があり、大質量の星は低い周波数で振動します。これは宇宙望遠鏡「ハッブル」がとらえた散開星団トランプラー14で、天の川銀河で最も光度が高く重い星のひとつも含まれています。(Credit: NASA/STScI)】

星々が奏でる“音楽”?

「星々は音楽を奏でている」「星々は歌っている」――。星震は、しばしばこのように少々ロマンチックに形容されますが、必ずしも比喩とは言い切れません。実際、星震は音波として“聞く”ことができるのです。その“音”を早回しで再現するサイトもあります。低くうなるような音、小さな羽が回転しているような軽い音、シンバルの残響のような音などさまざまです(※2)。

天の川銀河の数千億もの星々には、若く巨大な青色巨星や年老いた赤色巨星、太陽に似た“ふつうの星”(主系列星)、太陽よりも小さい赤色矮星などさまざまな種類がありますが(※3)、いずれも特有の音色で鳴り響いています。いわば夜空の大オーケストラです。

もっとも、宇宙空間には音波を伝える媒体が存在しないので、地球に星々の音楽が直接届くことはありません。

われわれの主星・太陽もたえまなくその音を響かせています。実際、星震がはじめて発見されたのは、地球に最も近い恒星である太陽でした。

※2:星の振動を音として聞けるウェブサイトの例。いずれも振動を速めて人間の可聴域に合わせている。https://www.asteroseismology.org/ https://physics.usyd.edu.au/~bedding/animations/audio.html

※3:星は質量によって温度(色)や寿命が異なる。青色巨星は比較的若く質量が大きい恒星で、おとめ座のスピカやプレアデス星団の星々などが知られる。赤色矮星は質量の小さな恒星で、天の川銀河の恒星は75%が赤色矮星といわれる。代表的な赤色矮星は地球から最も近いケンタウルス座プロキシマ星。主系列星とは水素を燃料とする核融合が続いている恒星。赤色巨星は終末期の恒星で、核融合燃料としての水素が尽きた状態。その後、赤色巨星はヘリウムや炭素、ネオンなどしだいに重い元素を利用して核融合を行う。オリオン座のベテルギウスが有名。

図2:天の川銀河の星々は、それぞれに特有の音で“音楽”を奏でています。映像はペルセウス座流星群出現時にアメリカで撮影された天の川銀河。画面を横切る流星もとらえられています。(Credit: NASA/Bill Ingalls)
【▲ 図2:天の川銀河の星々は、それぞれに特有の音で“音楽”を奏でています。映像はペルセウス座流星群出現時にアメリカで撮影された天の川銀河。画面を横切る流星もとらえられています。(Credit: NASA/Bill Ingalls)】

半径70万kmの太陽で起こる秒速500mの振動

1960年、アメリカの物理学者ロバート・レイトンは、太陽表面の物質の動きをくわしく研究しようと考えました。彼はそのために、カリフォルニア州のウィルソン山天文台で自ら装置を改良し、太陽のクローズアップのドップラー画像(※4)を連続的に撮影しました。

すると興味深いことに、太陽の表面が規則的に上下していることがわかりました。その動きは1秒間に最大約500m、約5分間に1回。半径70万kmという太陽のスケールを考えれば、ごくごく小さいものといえます。

当初、この振動は局所的なものと推測されました。しかしまもなく、太陽全体に同じような振動がみられることがわかりました。といっても、太陽が全体としてふくらんだり縮んだりしているわけではありません。太陽全体がパッチワークのように細かく区切られ、それぞれが同じ5分間周期で、しかし隣り合う領域とは逆方向に振動していたのです(非動径振動※5)。

最初に発見されたこの太陽の星震は、特別に「日震(サンクエイク:sunquake)」と呼ばれ、その研究は「日震学(ヘリオサイズモロジー:Helioseismology)」と呼ばれています。

太陽が振動しているとすれば、他の星々も同じように振動しているのではないか、天文学者や天体物理学者はそう考えました。

※4:ドップラー効果を利用して物体の動きをとらえた画像。物体が放出する光は、物体が観測者から遠ざかっているときには波長が伸び、近づいているときには波長が短くなる。この現象は、詳細な研究を行ったオーストラリアのクリスティアン・ドップラーにちなんでドップラー効果と呼ばれる。

※5:太陽のようなパッチワーク状の振動を非動径振動と呼び、脈動星(ケフェウス座δ型変光星など)における星全体の膨張・収縮をくり返す振動は動径振動と呼ぶ。星震学では一般に非動径振動を扱う。

図3:太陽の5分間振動の様子。地上にある6基の望遠鏡をつなぐ日震観測ネットワーク「GONG」が、ドップラー効果を利用して太陽表面の動きを映像化しました。赤の点は地球から遠ざかっている、すなわち“へこんでいる”領域、また青の点は接近している、すなわち“ふくらんでいる”領域を示しています。(Credit: NASA/MSFC/GONG)
【▲ 図3:太陽の5分間振動の様子。地上にある6基の望遠鏡をつなぐ日震観測ネットワーク「GONG」が、ドップラー効果を利用して太陽表面の動きを映像化しました。赤の点は地球から遠ざかっている、すなわち“へこんでいる”領域、また青の点は接近している、すなわち“ふくらんでいる”領域を示しています。(Credit: NASA/MSFC/GONG)】
図4:われわれの主星である太陽は、超高温のガスのかたまりです。半径は70万kmに達し、中心部で発生した熱が外側の層に運搬されるまで数十万年かかるといわれます。映像は、NASAのX線宇宙望遠鏡「NuStar」と太陽観測衛星「SDO」、JAXAの太陽観測衛星「ひので」がとらえたX線や紫外線のデータにより作成されました。(Credit: NASA/JPL-Caltech/JAXA)
【▲ 図4:われわれの主星である太陽は、超高温のガスのかたまりです。半径は70万kmに達し、中心部で発生した熱が外側の層に運搬されるまで数十万年かかるといわれます。映像は、NASAのX線宇宙望遠鏡「NuStar」と太陽観測衛星「SDO」、JAXAの太陽観測衛星「ひので」がとらえたX線や紫外線のデータにより作成されました。(Credit: NASA/JPL-Caltech/JAXA)】

100万分の1等級の光

みずへび座はおもに南半球で観察できる星座です。へびの体のなかほどに、見かけ上この星座で最も明るいみずへび座ベータ星があります。赤みがかったこの星は、かつては太陽によく似ていたはずですが、現在は赤色巨星への進化の途上にある準巨星です。

2000年、オーストラリアのティモシー・ベディングらは、地球から約24光年の距離にあるこの星の星震をとらえたと発表しました。彼らはアングロオーストラリア望遠鏡を用い、みずへび座ベータ星が秒速0.5mで振動している証拠を見いだしたのです。

日震が観測されてから星震が発見されるまでに約40年もの年月を要したのは、星震による光度変化がきわめて小さいためです。太陽を除く恒星は、近くても数光年(1光年=9.5兆km)離れているうえ、地表から観測すると、大気により恒星の光が遮られかつ乱されます。

にもかかわらず、星震観測ではわずか10万分の1~100万分の1等級の光の変動を見極めなければなりません。日中、-27等級(実視等級)の太陽の光がすべての星の輝きをかき消すことを考えれば、その難しさが想像できるでしょう。

とはいえ、ベディングらの報告後まもなく、星震研究の状況は大きく変化しました。2003年、星震観測を目的とするはじめての観測衛星が打ち上げられたのです。これはカナダが開発した“世界で最小の宇宙望遠鏡”(当時)であり、名称も英語で“最も”を意味する「MOST」でした。

続いてフランスの宇宙望遠鏡「コロー(CoRoT)」や、NASA(アメリカ航空宇宙局)の宇宙望遠鏡「ケプラー」なども星震の観測に加わりました。MOST以外の宇宙望遠鏡の主要な目的は太陽系外惑星探査ですが、星震の観測も目的に含まれています。

惑星探査用の宇宙望遠鏡が星震観測に利用されるのは奇妙に思えるかもしれません。しかし、惑星探査では一般に星を“凝視”し、星の光度の微小な変化などから周囲をめぐる惑星の存在をつかみます。惑星発見のために恒星をどこまでも詳細に観測しているからこそ、星震の観測にも適しているのです。

図5:CNES(フランス国立宇宙センター)がESA(ヨーロッパ宇宙機関)などと協力して開発した宇宙望遠鏡「コロー(CoRoT)」。2006年に打ち上げられたこの望遠鏡は、太陽系外惑星の探索に加えて星震の観測をも目的としていました。(Credit: D. Ducros (CNES) / ESA)
【▲ 図5:CNES(フランス国立宇宙センター)がESA(ヨーロッパ宇宙機関)などと協力して開発した宇宙望遠鏡「コロー(CoRoT)」。2006年に打ち上げられたこの望遠鏡は、太陽系外惑星の探索に加えて星震の観測をも目的としていました。(Credit: D. Ducros (CNES) / ESA)】

星震と飛行機の共通点?

星々はなぜ音楽を奏でるのでしょうか? いいかえるなら、星々の内部の何が星震を引き起こしているのでしょうか?

恒星は途方もなく巨大で超高温のガスのかたまりです。たとえば太陽の半径は70万km、地球と月の距離の2倍近くに相当します。その熱源は中心部にある巨大な“核融合炉”で、温度は1500万度にも達します。しかし、太陽の表面ははるかに低温で、5000~6000度にすぎません。

そのため、太陽の外層では、高温の軽いガスが浮かび上がり、表面で冷却されたガスが沈み込むという対流が生じています。この対流の内部、とりわけ底部で乱流が発生します。

乱流の音は、誰もが比較的身近で経験しているはずです。たとえば、数千m上空のジェット機の通過音もそうです。ジェットエンジンから噴き出す時速400kmもの排気流が乱流を発生させ、それが地上にまで轟音をとどろかせます。

星の内部でも、乱流のエネルギーは音波として星のおもに対流層内でさまざまにはね返って星表面を揺らします。これが星々の星震として観測されると考えられています(※6)。

※6:実際には、乱流によって発生する音波のうち恒星のモードと共振するもののみが残り、振動として恒星表面を揺らすとみられている。

図6:太陽表面の「粒状斑」は、太陽の外層で生じる対流によって作られる模様です。星震の音波は、対流の内部(おもに底部)で発生するとみられています。ストックホルム大学が運営する望遠鏡(スペイン、ラ・パルマ島)の観測データから作成された映像。(Credit: Tom Bridgman (Global Science and Technology, Inc.) / Laurence Schuler, Ian Jones(ADNET Systems, Inc.) / Jorrit Leenaarts, Jaime de la Cruz Rodriguez (Institute for Solar Physics, Stockholm University) / NASA)
【▲ 図6:太陽表面の「粒状斑」は、太陽の外層で生じる対流によって作られる模様です。星震の音波は、対流の内部(おもに底部)で発生するとみられています。ストックホルム大学が運営する望遠鏡(スペイン、ラ・パルマ島)の観測データから作成された映像。(Credit: Tom Bridgman (Global Science and Technology, Inc.) / Laurence Schuler, Ian Jones(ADNET Systems, Inc.) / Jorrit Leenaarts, Jaime de la Cruz Rodriguez (Institute for Solar Physics, Stockholm University) / NASA)】

星は不透明

岩石質の天体である地球を上空から眺めると、緑に覆われた地表や海の輝きは見えても、内部の様子はまったくわかりません。ガスでできた恒星も同じです。星は非常に明るく輝いていますが、“透き通って”はいません。星の深部から放出される電磁波(光)はほとんどが内部で吸収されてしまいます。われわれが観測できるのは外側から放たれる光のみです。

しかし、天体内部を“見通せる”手法がひとつあります。それが地震です。

地震による天体の内部探査をはじめて行ったのは、19世紀半ばのアイルランドの技師ロバート・マレットとされています。彼は地中にダイナマイトを埋めて爆破実験を行い、人工地震を発生させました。これによって彼は、爆発の衝撃による地震波は地下を通過する際、地質構造によって速度を変えることを確認したのでした(※7)。

この手法は後に、地震や人工地震による地球内部の探査法として受け継がれ、他の天体にも応用されることになりました。

しかし、星震や星震学は、地球の地震やそれによる内部探査とは大きく異なる点があります。

地球ではひとつの震源から発した地震波を地上の各点で測定し、観測された地震波がどこをどんな速度で通過したかを解析して内部の情報を得ます。

これに対し、星震では地球の地震と同じように調べるわけにはいきません。

まず、太陽以外の恒星はあまりに遠すぎ、ほとんどの星では表面の各点の動きを観測するのは困難です。また、星震の“震源”はひとつではなく、振動も短時間では終わりません。というより、星は内部でたえずエネルギーを供給され、振動しつづけています。

そこで重要になるのが星震の「振動モード」です。

※7:マレットは爆破実験を通じて、花崗岩では砂地の2倍も速く地震波が伝播するという結果を得た。ただし彼は、容器に入れた水銀の水面の揺れから地震波の到達を確認し、ストップウォッチを用いて測定したため、計測はそれほど正確ではなかった。

図7:星震の波はおもに音波(圧力波)であり、つねに星の内部を飛び交って表面で反射され、星の表面を揺らしています。しかし、音波は中心部にある高密度の核を通過できません。これは太陽内部の音波の経路を模式化した図。(Credit: Wikimedia Commons/ tosaka/https://commons.wikimedia.org/wiki/File:太陽内部の定在波.PNG)
【▲ 図7:星震の波はおもに音波(圧力波)であり、つねに星の内部を飛び交って表面で反射され、星の表面を揺らしています。しかし、音波は中心部にある高密度の核を通過できません。これは太陽内部の音波の経路を模式化した図。(Credit: Wikimedia Commons/ tosaka/https://commons.wikimedia.org/wiki/File:太陽内部の定在波.PNG)】

数学が星々の音色を決める?

寺院の大きな鐘は重々しく低い音で響き、お守りの小さな鈴は高く澄んで聞こえます。星も大きさで音程が変わり、小さな矮星の音は高く、巨大な青色巨星や赤色巨星の音は低く響きます。

このような星々に固有の音色は、ある意味では数学が決定します。1本の弦をはじいた音の高さが弦の長さのみによって決まるように、です。

ギターの弦を大きくはじくと、弦全体が震えて音が鳴ります。このとき、たとえばラ(A)の弦なら、ラの音だけが鳴っているように聞こえます。しかし、実際にはいくつかの音(基音と倍音)が重なり合ってギターの音の響きを形作っています。

それはでたらめに生まれる音ではなく、どれも音の波長が弦の長さの1/2、1/3、1/4のように、区切りのよい数字になっています。中心に聞こえるラの音は弦の基本的な振動で、その波長はちょうど弦の長さに相当します。

1本の弦がこのようにいくつかの波長で振動するように、星震にも複数の振動パターン(モードと呼ばれる)が存在します。それも数千、数万、あるいはそれ以上という膨大な数のモードです。

図8:弦をはじくと、全体だけでなくその長さの1/2や1/3など整数の分数の位置に節が生じて振動します。実際に鳴る音はさまざまな振動の重ね合わせとなります。(Credit: Wikimedia Commons/ Qef / Houtlijm)
【▲ 図8:弦をはじくと、全体だけでなくその長さの1/2や1/3など整数の分数の位置に節が生じて振動します。実際に鳴る音はさまざまな振動の重ね合わせとなります。(Credit: Wikimedia Commons/ Qef / Houtlijm)】

“音色”が語る星の性質

オーケストラの楽器の音色は多彩です。同じドの音でも、バイオリンやフルート、トランペットなど、どれも音色は異なります。

音の高さを決定するのは、楽器の大きさや弦の長さですが、音色には別の要素が関係しています。柔らかい、軽やか、重厚、明るく鋭いなどさまざまな音色は、楽器そのものの材質や密度などを反映しているのです。音波で見るならば、音の波形(さまざまな周波数の音波の重なり)は、どの楽器も異なっています。

星々が奏でる音もまた、膨大な数のモードの重ね合わせです。それぞれのモードがどのように発現するかは、星の温度、密度、それに含まれる物質の種類などによって変わります。

そこで星震学では星のわずかな光度変化から、各モードを探索します。現時点では、太陽以外の恒星の観測可能なモードはそれほど多くありませんが、各モードの周波数やモードの強度を調べることによって星の特性を見いだすことができます(※8)。

加えて、星震学では恒星のモデルと比較しながら、星の内部の詳細な情報を得ようとします(※9)。

※8:星震を解析すると、各モードが見出せる。一部のモードどうしの関係や最大振幅のモードは、星の平均密度や星表面の重力加速度、有効温度(一般的には星の表面温度)に関連している。そこでこれらのモードの周波数を計算式に当てはめて、星の半径や質量を求めることができる。

※9:星震の特徴は、星の内部の状態によって決定する。そこで、恒星の詳細なモデルをもとに発生する星震の振動数や振幅などを計算し、その数値を観測値と比較する。モデルからの予測と観測結果と合致していないときには、恒星モデルを修正し、恒星の確からしい性質を求めていく。

図9:星震の振動パターン(モード)も弦の振動と同様に、ある意味では数学的に決定されます。図は星の振動モードを模式化したもの。実際には星の温度や密度を反映して、膨大なモードが重なった振動として観測されます。(Credit: ESO)
【▲ 図9:星震の振動パターン(モード)も弦の振動と同様に、ある意味では数学的に決定されます。図は星の振動モードを模式化したもの。実際には星の温度や密度を反映して、膨大なモードが重なった振動として観測されます。(Credit: ESO)】

銀河考古学

星震研究は星の内部の情報を得られるだけではありません。「銀河考古学」という分野でも注目されています。

地球の考古学者や古生物学者は、古い地層から過去の遺物や化石を発掘し、人類や生物の歴史をつまびらかにしようとします。同じように、銀河、なかでも天の川銀河の進化過程を探る学問テーマがあります。それが「銀河考古学」です。

天の川銀河は最初はどのような姿だったのか、銀河中央のふくらみ(バルジ)や渦巻腕などの基本構造はどうやって形成されたのか、銀河を構成する星々はいつ生まれどう進化してきたのか――。銀河考古学では、このような宇宙史的課題に取り組みます。

銀河考古学の指標のひとつとして重視されているのが赤色巨星です。太陽の数十倍からときには数万倍も明るく輝く赤色巨星は、夜空の“灯火”のようなもので(色からすればテールランプかもしれません)、発見しやすい天体です。

このタイプの星は恒星の一生の最終段階にあたります。しかし、星が誕生してから赤色巨星に達するまでの時間は、星によってそれぞれ大きく異なり、数百万年で水素の燃焼を終えるものもあれば、100億年以上も輝き続けるものもあります。

そこで天の川銀河全域に散らばる赤色巨星がどのくらいの年齢かを調べれば、天の川銀河の各領域で星が生まれたタイミングを知る手がかりになり得ます。

ここで大きな役割を果たすのが星震です。従来の観測では突き止めることが難しかった赤色巨星の質量や半径、ひいては年齢や進化段階を、星震はかなり正確に求められるためです。 しかも、赤色巨星は直径が大きいために星震を観測しやすいという利点があり、一部の赤色巨星では中心核の状態を知ることのできる重力の波(※10)までもとらえられています。

一貫して星震学をリードしてきた前出のベディングは次のように述べます(※11)。「赤色巨星の星震を研究することにより、われわれはどの赤色巨星が中心核でヘリウムを燃焼しはじめているか指摘できるのです」(ヘリウムについては※3参照)

2018年に打ち上げられたNASAの系外惑星探査衛星「TESS」は、太陽系外惑星の探査のほかに星震観測をも目的とし、100万個もの赤色巨星の星震をとらえると期待されています。この宇宙望遠鏡は探査最初の2年間ですでに全天の75%を走査しました。

TESSの観測をもとにした研究成果も発表されており、たとえばハワイ大学のマーク・ホンらは、走査データからAIを利用して15万8000個もの赤色巨星をピックアップしました。また、オーストラリアのデニス・ステロらはTESSのデータから3000個の星々について明確な星震を見いだしたと報告しています。

こうした研究が重ねられれば、そう遠くない未来に天の川銀河の歴史地図が作成されるかもしれません。

※10:ここでいう重力の波(重力波、gモードともいう)とは、星内部の物質分布の変化によって重力が引き起こす波(英語ではgravity wave)で、アインシュタインが提唱した重力波(gravitational wave)、すなわち時空の伸縮のことではない。

※11:オーストラリア科学アカデミー内のベディングの動画から引用(https://www.science.org.au/profile/tim-bedding)

図10:光度が高く大きな赤色巨星は、星震が比較的観測しやすい天体です。右はりゅう座の赤色巨星エダシク(オスのハイエナのアラビア語に由来)のイメージ。質量は太陽の1.8倍ですが、直径は12倍です。左はエダシクの星震を宇宙望遠鏡「TESS」が光の変化としてとらえたもの。おもな振動は24時間に3回と、5分間に1回の太陽に比べてはるかに遅いと報告されています。(Credit: NASA/GSFC/Chris Smith (KBRwyle))
【▲ 図10:光度が高く大きな赤色巨星は、星震が比較的観測しやすい天体です。右はりゅう座の赤色巨星エダシク(オスのハイエナのアラビア語に由来)のイメージ。質量は太陽の1.8倍ですが、直径は12倍です。左はエダシクの星震を宇宙望遠鏡「TESS」が光の変化としてとらえたもの。おもな振動は24時間に3回と、5分間に1回の太陽に比べてはるかに遅いと報告されています。(Credit: NASA/GSFC/Chris Smith (KBRwyle))】
図11:宇宙望遠鏡「TESS」が天の川銀河で見いだした赤色巨星(各点)を地図化した映像。探索範囲は最遠で地球から約2万光年に達します。(Credit: Kristin Riebe/Leibniz Institute for Astrophysics Potsdam/TESS/NASA - https://svs.gsfc.nasa.gov/13897#media_group_316968)
【▲ 図11:宇宙望遠鏡「TESS」が天の川銀河で見いだした赤色巨星(各点)を地図化した映像。探索範囲は最遠で地球から約2万光年に達します。(Credit: Kristin Riebe/Leibniz Institute for Astrophysics Potsdam/TESS/NASA - https://svs.gsfc.nasa.gov/13897#media_group_316968)】
図12:キングコブラの別名をもつ散開星団M67。多数の赤色巨星を含む約500個の恒星から形成されているこの星団は、約40億歳と散開星団としては異例に年齢が長いことが知られています。散開星団は巨大な分子雲からほぼ同時期に誕生した星の集団であるため、星々の特徴を比較しながら星震を分析できます。このように星震を集団として調べる分野は「アンサンブル星震学」と呼ばれており、いまM67のような長寿命の散開星団の赤色巨星に焦点を当てた研究が進んでいます。(Credit: Digitized Sky Survey/NASA/ESA/J. Krist (JPL)/Gladys Kober (NASA/Catholic University of America)
【▲ 図12:キングコブラの別名をもつ散開星団M67。多数の赤色巨星を含む約500個の恒星から形成されているこの星団は、約40億歳と散開星団としては異例に年齢が長いことが知られています。散開星団は巨大な分子雲からほぼ同時期に誕生した星の集団であるため、星々の特徴を比較しながら星震を分析できます。このように星震を集団として調べる分野は「アンサンブル星震学」と呼ばれており、いまM67のような長寿命の散開星団の赤色巨星に焦点を当てた研究が進んでいます。(Credit: Digitized Sky Survey/NASA/ESA/J. Krist (JPL)/Gladys Kober (NASA/Catholic University of America)】

次世代の星震観測に向けて

天の川銀河の星々の音に耳を傾ける研究は始まったばかりです。星震は恒星の質量をはじめ、年齢や大きさ、自転の様子などを教えてくれます(※12)。

さらに、星震は恒星の物理的性質をかなり正確につきとめることができるので、惑星系のハビタブルゾーン(生存可能領域)を推測する手助けにもなります(※13)。

しかし、星震研究は始動したばかりであり、現時点では太陽でさえ、その中心部には十分に手が届きません。というのも、音波は超高密度の中心部を通過できないためです。重力の波のみが中心部を通り抜け、その情報を内包しているはずですが、観測は難しく、いまのところ一部の星のみでしかとらえられていません(※14)。

こうしたことから、天文学者たちはより多くの星々をより詳細に観測することを望んでいます。

2027年には、ESAの宇宙望遠鏡「PLATO」が宇宙に飛び立つ予定です。この望遠鏡は生命の生存を許す惑星を発見するとともに、太陽に似た星々の星震を見いだして星震学を発展させることが期待されています。

地上でも、「SONG」と呼ばれる小型望遠鏡の世界的ネットワークによって星震を観測する体制が整えられています。

われわれは無数の星々の音楽である星震に耳を傾けることによって、天の川銀河や宇宙の新たな姿を見いだすことができるかもしれません。(了)

※12:質量は、恒星の本質に関わるために非常に重要。恒星の質量が大きいほど中心核にはたらく重力が大きくなって核融合が大規模になり、結果として光度や表面温度(星の色に反映)も高くなる。また質量が大きいと、核融合で単位時間に使用する水素量も多くなるため、恒星の寿命が短くなる。恒星の質量は、星震から直接的に求めることができる。

※13:ハビタブルゾーンとは、恒星のまわりの暑すぎず寒すぎない適度な温度環境(具体的には水が液体で存在できる温度範囲)の領域をいう。恒星の進化段階によってハビタブルゾーンの範囲は変化するが、星震は進化段階を従来の手法より正確に求められる。また星震によって主星の質量が明らかになれば、惑星の質量をより精度高く推測できる。

※14:近年、日震の重力波を捕捉したとの報告もあり、その解析によれば太陽の中心部は1週間に1回と、表面より4倍も速く回転しているという。また、本文で触れたように、巨星について重力波や音波との混合モードを見いだした例もある。

図13:太陽はガスのかたまりなので、内部の自転速度(角速度)が地球のように一定ではありません。画像は日震学で得られた太陽内部の自転の様子。点線より外側の対流層では、極付近の自転が遅く、赤道付近は速いことがわかります。その内側の放射層上部はほぼ一定に見えます。(Credit: M. J. Thompson/NSO/NASA/MSFC)
【▲ 図13:太陽はガスのかたまりなので、内部の自転速度(角速度)が地球のように一定ではありません。画像は日震学で得られた太陽内部の自転の様子。点線より外側の対流層では、極付近の自転が遅く、赤道付近は速いことがわかります。その内側の放射層上部はほぼ一定に見えます。(Credit: M. J. Thompson/NSO/NASA/MSFC)】
図14:ESAが2027年に打ち上げを予定している宇宙望遠鏡「PLATO」のイメージ。太陽系外惑星の探査とともに、星震の観測をも目的としており、太陽型の恒星の星震観測数を数百から数万にまで増やせると期待されています。(Credit: ESA)
【▲ 図14:ESAが2027年に打ち上げを予定している宇宙望遠鏡「PLATO」のイメージ。太陽系外惑星の探査とともに、星震の観測をも目的としており、太陽型の恒星の星震観測数を数百から数万にまで増やせると期待されています。(Credit: ESA)】

 

文/新海裕美子 編集/sorae編集部

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参考文献・出典