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国立天文台の研究者を中心とする研究グループは、太陽表面の大部分を占める穏やかな領域の上空に、従来の想定を超える入り組んだ磁場の構造が潜んでいることが明らかになったとする研究成果を発表しました。

今回の成果は、気球に搭載した観測装置で成層圏から太陽を観測した国際共同プロジェクト「Sunrise-III」のデータをもとにしています。研究成果をまとめた一連の論文は学術誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載されています。

地上からは測りにくい彩層の磁場

太陽の表面は、強い磁場が集まる「黒点」と、黒点よりも磁場が弱い「静穏領域」に大別されます。静穏領域には無数の小さな磁場構造があり、その上空に広がる大気の層「彩層」にも磁場が存在します。しかし、彩層の磁場は弱いうえに、地球の大気のゆらぎが影響するため、地上からの観測では測定が困難でした。

そこで実施されたのが、ドイツのマックス・プランク太陽系研究所(MPS)が主導したSunrise-IIIです。口径1mの望遠鏡を気球で高度約35kmの成層圏へ運んで太陽を観測しようというプロジェクトで、2024年7月にフライト観測が行われました。

Sunrise-IIIで気球に搭載された観測装置のうち、国立天文台が開発を主導した近赤外線偏光分光装置「SCIP(スキップ)」は、太陽からの近赤外線を波長ごとに分けて(分光)、光の振動の向きの偏り(偏光)を精密に測る装置です。磁場の強さや向きを偏光から読み解くと同時に、太陽大気の異なる高さを反映する数十本の吸収線(特定の波長で光が暗くなる部分)を観測することで、太陽の表面から彩層にかけての磁場を切れ目なく調べることができるといいます。

飛行前の太陽望遠鏡「Sunrise-III」(Credit: MPS (D. Germerott))
【▲ 飛行前の太陽望遠鏡「Sunrise-III」(Credit: MPS (D. Germerott))】
成層圏へ向けて上昇する太陽望遠鏡「Sunrise-III」(Credit: MPS (D. Germerott))
【▲ 成層圏へ向けて上昇する太陽望遠鏡「Sunrise-III」(Credit: MPS (D. Germerott))】

キャノピーに潜む「磁場の糸」のねじれ

国立天文台によれば、太陽表面で束になった磁場は、上空の彩層では横へ広がって周囲を覆い、キャノピー(天蓋)と呼ばれる構造をつくります。国立天文台の久保雅仁准教授らがSCIPのデータを分析したところ、キャノピーの内部に細く伸びる糸状の磁場構造が数多く見つかりました。一部では、周囲とは磁場の向き(極性)が逆になった糸も確認されています。

では、この糸の正体は何なのでしょうか。磁場が比較的強い領域の太陽大気を数値シミュレーションで再現したMPSのPatrick Ondratschek氏らは、観測と同様の細長い逆極性の構造が至るところに現れることを示しました。この構造についてOndratschek氏らは、磁力線が共通の軸のまわりにロープのようにねじれて巻きついた「フラックスロープ」の可能性に言及しています。

SCIPで観測した光球(左)と彩層(右)の磁場分布。緑の線で囲まれているのは周囲と逆の極性を持つ糸状の磁場構造(Credit: NAOJ/Sunrise-III/SCIP-Team)
【▲ SCIPで観測した光球(左)と彩層(右)の磁場分布。緑の線で囲まれているのは周囲と逆の極性を持つ糸状の磁場構造(Credit: NAOJ/Sunrise-III/SCIP-Team)】
シミュレーションで再現された彩層の磁場分布(左)と、周囲と逆の極性を持つ糸状の磁場構造を上から見た様子(右上)と横から見た様子(右下)。ねじれた磁力線が複雑に絡み合っている(Credit: MPS/Sunrise-III)
【▲ シミュレーションで再現された彩層の磁場分布(左)と、周囲と逆の極性を持つ糸状の磁場構造を上から見た様子(右上)と横から見た様子(右下)。ねじれた磁力線が複雑に絡み合っている(Credit: MPS/Sunrise-III)】

太陽の縁ではスピキュールの磁場も

また、SCIPは太陽の縁(ふち)も観測しました。総合研究大学院大学の大学院生である内藤由浩氏らは、SCIPの観測データをもとに、太陽表面から上空へ伸びるジェット状の構造「スピキュール」の磁場を分析しています。

スピキュールは、上空のコロナへエネルギーを運ぶ担い手と考えられている構造です。内藤氏らによると、視線方向の磁場の強さは縁に近い場所では最大20ガウス程度でしたが、それより高い場所では最大40ガウス程度まで幅広く分布していたといいます。

SCIPで観測した太陽の縁部分の彩層の明るさ(上)と彩層の視線方向の磁場分布(下)。黒い線は太陽の縁の位置。太陽表面から上空へ伸びるジェット状構造「スピキュール」における磁場の高さ方向の分布がわかる(Credit: NAOJ/Sunrise-III/SCIP-Team)
【▲ SCIPで観測した太陽の縁部分の彩層の明るさ(上)と彩層の視線方向の磁場分布(下)。黒い線は太陽の縁の位置。太陽表面から上空へ伸びるジェット状構造「スピキュール」における磁場の高さ方向の分布がわかる(Credit: NAOJ/Sunrise-III/SCIP-Team)】

太陽大気の加熱の謎に迫る手掛かりとなるか

国立天文台によると、太陽の表面は約6000度ですが、その上空の彩層は約1万度、さらに外側の太陽コロナは約100万度に達することが知られており、表面よりも外側の大気のほうが高温になる仕組みの解明は大きな課題となっています。また、向きの異なる磁場が隣り合う場所では、磁力線がつなぎ替わる「磁気リコネクション」が起きることで、磁気エネルギーが熱へ変換される可能性があるといいます。

SCIPによる観測を通じて、太陽では活動的な黒点ではない静穏領域の上空でも、磁場は一様に広がっているのではなく、細い糸状の構造を内部に抱えていることが見えてきました。彩層の磁場とスピキュールの磁場をともに捉えた今回の成果は、太陽表面から上空へのエネルギー輸送と、彩層やコロナが加熱される仕組みを解き明かすうえで、重要な手がかりとなることが期待されます。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典