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ウェッブ宇宙望遠鏡が発見した謎の天体「リトル・レッド・ドット」は形成途中の球状星団?

こちらは、2022年に科学観測を開始したジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測によっていくつも見つかるようになった、「リトル・レッド・ドット(Little Red Dot: LRD)」と呼ばれる天体の例です。

ビッグバンから数億年後には存在していたとされるリトル・レッド・ドットは、ウェッブ宇宙望遠鏡の「NIRCam(近赤外線カメラ)」が捉える赤外線の波長域でも波長が長い(可視光線を捉える私たちの目になぞらえて表現すれば“赤い”)ことと、コンパクトな天体であることから、このように呼ばれています。

ジェームズ・ウェッブ(James Webb)宇宙望遠鏡が観測したリトル・レッド・ドットの例(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, D. Kocevski (Colby College))
【▲ ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測したリトル・レッド・ドットの例(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, D. Kocevski (Colby College))】

そんなリトル・レッド・ドットについて、テキサス大学オースティン校のマクドナルド天文台は、同校のJohn Chisholm氏を筆頭とする研究チームの最新の研究内容を紹介する解説記事を公開しました。

リトル・レッド・ドットの正体はまだはっきりしていないのですが、もしかしたら現在の宇宙に広く存在する「球状星団」と関係があるのかもしれません。

天文学が抱える2つの謎

マクドナルド天文台によると、現代の天文学には2つの大きな謎が存在しています。

1つ目は、1世紀以上も未解明のままとなっている球状星団の起源です。

球状星団は数十万から数百万個もの古い星々が重力で互いに結びつき、球状に密集した天体で、天の川銀河だけでも約150個が見つかっています。数十億年以上もの時間が経つあいだに寿命の短い大質量星は消滅し、ガスもなくなってしまっているため、球状星団がどのようにして初期宇宙で形成されたのかは長らく謎に包まれていました。

2つ目は、ウェッブ宇宙望遠鏡が発見してきたリトル・レッド・ドットの正体です。

リトル・レッド・ドットは今から約132億~123億年前の初期宇宙に存在していたとされる、コンパクトながら非常に明るい天体です。そのスペクトル(電磁波の波長ごとの強さの分布)を分析すると、紫外線から可視光線にわたる波長域に特徴的なV字型が現れることが知られています(※)

最近では「高密度のガスに分厚く覆われて急速に成長している超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)」だとする研究成果が発表されているものの、リトル・レッド・ドットのはっきりとした正体はまだわかっていません。

※…リトル・レッド・ドットは非常に遠方の天体なので、もともと紫外線や可視光線だった電磁波は宇宙の膨張にともなって波長が伸びており、赤外線として観測されます。

リトル・レッド・ドットは球状星団の初期状態?

一見するとまったく別の存在に思える球状星団とリトル・レッド・ドットですが、Chisholm氏らの研究チームは、この2つが同じ天体だとする仮説を提示しています。リトル・レッド・ドットの正体は、初期宇宙で形成途中の段階にある球状星団だというのです。

ハッブル(Hubble)宇宙望遠鏡が観測した球状星団「M15(Messier 15)」(Credit: NASA, ESA)
【▲ ハッブル宇宙望遠鏡が観測した球状星団「M15(Messier 15)」(Credit: NASA, ESA)】

研究チームによれば、リトル・レッド・ドットのスペクトルの特徴は、極めて若い星の集団が放つ紫外線と、星団の中心に存在する超大質量星(質量が太陽の1万倍以上に達するような星)が放つ可視光線を仮定すれば、うまく説明できるといいます。

超大質量星の寿命は約100万年と非常に短い一方で、星団そのものは超大質量星が消滅した後も数十億年にわたって生き残ります。そのため、初期宇宙の一時期にだけ現れたように見えるリトル・レッド・ドットと、古い星々ばかりで構成されている球状星団、その両方の特徴とも矛盾しません。

研究チームはプレプリントサーバー「arXiv」で公開されているプレプリントの中で、リトル・レッド・ドットが観測される時代と、金属量(水素やヘリウムよりも重い元素の量)が少ない古い球状星団が形成された時代が重なっていることを指摘しています。

その上で、初期宇宙のリトル・レッド・ドットが現在の時代まで進化したと仮定して、観測データをもとに理論上の計算を行ったところ、現在の宇宙でみられる球状星団の質量の分布や数密度と一致することが示されたといいます。

球状星団の化学組成は超大質量星が残した痕跡か

仮説を裏付けるもうひとつの鍵となるのは、星々の化学組成です。

ビッグバンから始まった宇宙には、当初はほぼ水素やヘリウムしか存在していませんでした。それよりも重い元素は恒星内部の核融合反応や、超新星爆発のように激しい現象を通じて生成され、その量を増やしていったと考えられています。

星の内部などで合成された元素は、周囲の宇宙空間に撒き散らされていき、ガスとして漂う水素やヘリウムとともに新たな星の材料になります。そのため、初期宇宙で誕生した古い星ほど単純な化学組成を持ち、現在の宇宙で誕生する新しい星ほど複雑な化学組成を持つ、ということになります。

ところが、現在の宇宙に存在する古い球状星団を構成する星々を調べてみると、ヘリウム、窒素、ナトリウム、アルミニウムなどは豊富に含まれている一方で、炭素、酸素、マグネシウムは少ないという、これまでの理論では説明が難しい組成の偏りがみられるといいます。

研究に参加しているテキサス大学オースティン校の天文学者Danielle Berg氏によれば、超大質量星はその内部に特殊な対流構造が存在すると考えられており、陽子捕獲反応などを通じて、まさにこのような特異な比率で元素が合成されると予測されているのだといいます。

つまり、超大質量星によって偏った比率で生成された元素が後の世代の星々に引き継がれたとすれば、球状星団にみられる化学組成が説明できるというわけです。研究チームは、もしもリトル・レッド・ドットが形成途中の球状星団だとすれば、ヘリウムや窒素の増加をはじめ、ナトリウムと酸素の比率やアルミニウムとマグネシウムの比率などに、球状星団特有のパターンが観測されるはずだと予測しています。

今の時点では「リトル・レッド・ドットは初期の球状星団だ」と断定することはできませんが、古くから知られている身近な天体と、ウェッブ宇宙望遠鏡がもたらした初期宇宙の謎の天体が本当に結びつくとすれば、天文学におけるひとつの転換点となるかもしれません。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典