
太陽よりも重い星は、最期に膨大なエネルギーを放出する「超新星爆発」を起こします。この時、およそ100阿僧祇個(10の58乗個、1兆×1兆×1兆×1兆×100億個)とも推定される膨大な数の「ニュートリノ」という素粒子が発生すると言われています。超新星爆発は、宇宙の歴史の中で幾度も発生しているため、宇宙空間にはその名残である「超新星背景ニュートリノ」が存在するとされています。
岐阜県飛騨市に設置された「スーパーカミオカンデ」を運用し研究を行っているスーパーカミオカンデ国際共同研究グループは、過去5002日間の観測データを分析し、超新星背景ニュートリノの兆候を捉えたと発表しました。現時点では発見と言える水準には達していませんが、それでも兆候を捉えたのは世界初のことです。
超新星背景ニュートリノは、宇宙の歴史の中で発生した超新星爆発の状況に関する情報を含んでいます。捉えることの困難さから “ささやき声” と比喩される超新星背景ニュートリノを捉えた可能性があることは、スーパーカミオカンデの運用において重要な成果と言えます。
超新星爆発に伴うニュートリノは宇宙に満ちている

「超新星爆発」(※1)は、宇宙で最も劇的な現象の1つです。太陽よりもずっと重い恒星の中心部で核融合反応が停止することで、重力による崩壊と急激な核反応が発生し、膨大なエネルギーを発生させるのが超新星爆発です。
※1…本記事では、超新星爆発とはII型超新星(重力崩壊型超新星爆発)のことを指します。
この超新星爆発において主体的な役割を果たすのが「ニュートリノ」という素粒子です。ニュートリノは超新星爆発の最中に急激に進む核反応を通じて、1回の超新星爆発でおよそ100阿僧祇個発生すると考えられています。
発生したニュートリノの大半は宇宙空間へと逃げてしまうものの、ごく一部は周りにある物質と反応します。このニュートリノ吸収によるエネルギーが、最終的に光などに変換されることで、超新星として観測されるようになります。超新星爆発で発生する全エネルギーのうち、光などに変換されるものはわずか1%に過ぎず、大半がニュートリノのまま外に飛び出してしまうと考えられています。
そして超新星爆発では、炭素や鉄のような元素も宇宙空間にばら撒かれます。これは巡り巡って、地球本体やそこに住まう生物の身体を形作ったと考えられます。ただし、超新星爆発の最中で起こるニュートリノの発生や、それが周りの原子核に吸収される過程、そして超新星爆発が作る元素の量や種類の詳しい内訳など、現在でも詳細部分に多くの謎が残っています。
このため、超新星爆発に伴って放出されるニュートリノの観測はとても重要になります。ただしこれまでに、超新星爆発由来のニュートリノを観測した事例は、1987年に岐阜県飛騨市に設置された「カミオカンデ」によって観測された「SN 1987A」が唯一でした。これは地球から16万8000光年離れた天の川銀河の伴銀河「大マゼラン雲」で発生した超新星爆発です。
ニュートリノは “幽霊粒子” とあだ名されるほど反応率が低いことに加え、広い宇宙空間に薄く広がってしまうため、大マゼラン雲のような “近所” で発生した超新星爆発からのニュートリノでないと観測ができないからです。1つの銀河で発生する超新星爆発は数十年に1回程度であることを考えると、次に観測可能なのは数十年後である可能性が高いでしょう。

この単発の事象とは別に、これまでに観測が試みられてきたものとして「超新星背景ニュートリノ」(※2)があります。1つの銀河で発生する超新星爆発は少なくても、これまでの宇宙の歴史の中では無数の超新星爆発が発生したはずであり、それに伴うニュートリノも宇宙空間にばら撒かれているはずです。超新星背景ニュートリノとは、こうした無数の超新星爆発でばら撒かれた大量のニュートリノのことであり、薄く広がってはいるものの絶えず地球に降り注ぎ、1平方cm(指の爪ほど)の面積を毎秒数個ほど通過していると推定されます。
※2…「拡散超新星背景ニュートリノ(DSNB; Diffuse Supernova Neutrino Background)」とも呼ばれます。
超新星背景ニュートリノの兆候を検出!

スーパーカミオカンデ国際共同研究グループは、アメリカ、カリフォルニア大学アーバイン校で開催されたNEUTRINO 国際会議 2026において、超新星背景ニュートリノの兆候を捉えたと発表しました。
「スーパーカミオカンデ」は、カミオカンデの後身に当たる観測装置であり、5万トンの純水タンクと約1万3000本の光電子増倍管によって、ニュートリノが水分子と衝突して発生する弱い光(チェレンコフ光)を捉える設計となっています。スーパーカミオカンデはその感度から、超新星背景ニュートリノを捉えられる可能性があることが予想されていました。
しかし、スーパーカミオカンデ内部で発生した弱い光は、何も超新星背景ニュートリノによってのみ起こるわけではありません。他の発生源から放出されたニュートリノや、宇宙線のような無関係の物理現象など、様々な要因で光が発生するためです。特に一部の現象(大気ニュートリノや宇宙線と酸素原子核との衝突)は、発生数が稀で、信号も超新星背景ニュートリノに似ているという問題があります。
このため、スーパーカミオカンデの観測データから超新星背景ニュートリノを検出するには、稀な現象を捉えるための大量のデータの解析に加え、他の似たような信号の精密な除去が必要です。たとえて言うなら、歓声が飛び交う大音量のロックコンサートの録音の中からささやき声を取り出すようなものです。しかも、複数の人からのささやき声が混ざる中で、特定の1人のささやき声を取り出す必要があります。

今回の研究では、タンクに純水を溜めていた2008年から2020年までの3349日間と、水の中にガドリニウムという物質を加えた2020年以降の1653日間、合わせて5002日間のデータを解析しました。ガドリニウムを加えると、超新星背景ニュートリノの信号を捉える精度が上昇することが期待されており、これは他の要因で発生する光を取り除くのに役立ちます。
解析の結果、13.3~81.3MeV(1億3300~8億1300万電子ボルト)のエネルギーを持つニュートリノに由来する信号の中に、超新星背景ニュートリノに由来するとみられる信号を見つけることに成功しました。この範囲内に見られる無関係な信号を除去してもなお、統計的に有意な信号が検出できたのです。
検出された信号は、超新星背景ニュートリノが1平方cmの面積を毎秒約3.6個(2.1~5.2個)通過していることを示唆しています。これは、いくつかの理論モデルで予測されている数と一致しています。
まだ発見とは言い切れないが興味深い結果

ただし今回の発表では、超新星背景ニュートリノの検出について「兆候」という表現を使っています。簡単に言えば、今回の研究結果は「見つけたかもしれないが、現時点では発見とまでは言い切れない」ということを意味しています。
今回の研究では、超新星背景ニュートリノを示す信号の有意性は2.6σであると算出されました。少しラフに言えば、今回の結果がノイズなどの重なりで偶然に現れた可能性が約0.5%ほどあり得るということを意味します。
一見すると十分な水準であると思えるかもしれませんが、今回のような研究では十分とは言えません。1か所の観測所で得られた膨大なデータを処理するという研究手法では、どうしても偶然の結果が現れやすい傾向があります。さらに研究を進めてデータが集まると、兆候が消えてしまうこともあり得ます。
一般的に、今回のような研究では5σの有意性が求められます。先ほどのラフな言い方を使えば、偶然である可能性が約0.00006%を下回ることを意味します。
いずれにしても、超新星背景ニュートリノの信号を兆候から発見へと押し上げるには、さらなる観測データの蓄積と解析が必要になります。超新星背景ニュートリノの量を知ることは、超新星爆発がどれくらい起きたのかを知ることができ、ひいては宇宙での元素合成の歴史を知る手掛かりとなります。また、超新星爆発で作られる中性子星やブラックホールの数を予測することなどにも影響を与えるでしょう。このため、超新星背景ニュートリノの検出は重要な課題となります。
ひとことコメント
ニュートリノの小さな “ささやき声” をよく聞くことで、宇宙の様々な謎に迫れる可能性があるのよ!(筆者)
文/彩恵りり 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- スーパーカミオカンデ国際共同研究グループ. “スーパーカミオカンデが超新星背景ニュートリノの兆候を捉える― 宇宙の歴史に刻まれた「かすかなささやき」の手がかり ―”.(東京大学宇宙線研究所)
- Shunsaku Horiuchi, John F. Beacom & Eli Dwek. “Diffuse supernova neutrino background is detectable in Super-Kamiokande”.(Physical Review D)
























