
ボローニャ大学のGiorgia Zullo氏を筆頭とする国際的な研究チームは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡のデータを組み合わせて導き出した、天の川銀河の中心部に位置する天体「Terzan 5(ターザン5)」に関する最新の研究成果を発表しました。
研究チームによると、かつて通常の球状星団と考えられていたTerzan 5には、最大で4つの異なる世代(年齢)の恒星の集団が存在することが明らかになりました。このことは、Terzan 5が単なる星の集まりではなく、天の川銀河の形成期を今に伝える極めて稀な天体であることを示しています。研究チームの成果は第248回アメリカ天文学会にて発表されるとともに、学術誌「Astronomy & Astrophysics」に掲載されています。

球状星団から「バルジ形成時の残骸」へ
天の川銀河の中心部には、恒星が非常に密集し、ガスや塵(ダスト)の雲が厚く取り巻く「銀河バルジ」と呼ばれる領域が存在します。Terzan 5はこのバルジの内部、いて座の方向へ地球から約2万2000光年離れたところにあります。
一般的な球状星団は、ほぼ同じ時期に生まれた単一の古い星の集団で構成されています。しかしTerzan 5は、過去の観測で鉄の含有量が大きく異なる複数の星の集団が発見されて以来、その起源を巡って天文学者たちの間で議論が続いていました。研究チームは今回の研究において、Terzan 5を「バルジ形成時の残骸」(BFF: Bulge Fossil Fragment、直訳すれば「バルジ化石断片」)という新しい天体カテゴリーのプロトタイプ(原型)として明確に定義しています。
初期の宇宙では、ガスの豊富な円盤が分裂して星々の巨大な塊がいくつも生まれ、それらが銀河の中心へ移動・合体することで、現在みられるようなバルジが形成されたと考えられています。
研究チームが定義した“バルジ形成時の残骸”とは、この形成プロセスの過程で他の塊と完全に混ざり合うことをまぬがれた、原始的な星の塊の生き残りを指します。これらは自らの強力な重力によって超新星爆発の残骸(水素やヘリウムよりも重い元素を含んだガス)を引き留め、何世代にもわたって星を形成し続けた、自己完結・自己重元素濃縮型の巨大な星の集まりであり、天の川銀河のバルジ形成期である数十億年前の姿をそのまま留めた、いわば「化石」と言える天体です。
NASA(アメリカ航空宇宙局)によると、バルジ形成時の残骸とみられる天体はこれまでのところ、Terzan 5と「Liller 1(リラー1)」の2つしか知られていないといいます。
高度な解析手法と4つの星形成バースト
研究チームは、厚い塵の層を透過して鮮明に見通すことができるウェッブ宇宙望遠鏡の「NIRCam(近赤外線カメラ)」による新たなデータと、ハッブル宇宙望遠鏡が12年間にわたって蓄積したアーカイブデータを統合することで、20年以上におよぶ観測期間のデータを参照することができました。
星やガスなどが高密度に集まるバルジ領域の観測は、視線方向の無関係な星の混入や、宇宙塵による光の吸収・赤化現象(星間減光)の影響を受けるため、非常に困難です。
そこで研究チームは、星の固有運動(個々の天体の天球上の動き)の解析を行い、Terzan 5に属する真のメンバーのみを選別。さらに、空間的な減光のムラの高解像度な補正を行うことで、これまでにないほど明確な色-等級図(星の明るさと色の関係を示した図)を作成することに成功しました。
分析の結果、恒星が主系列段階を終えて巨星へと進化し始める分岐点となる「転向点」が複数確認されました。研究チームが理論モデルを用いて解析したところ、約125億年前と約47億年前に生まれた2つの主要な恒星集団の年齢が高精度に確定されただけでなく、約38億年前に生まれた第3の集団の兆候や、さらには約25億年前の星形成活動を示す若い星の集団の証拠が検出されたといいます。

銀河中心部の形成史解明への期待
Terzan 5に複数の年齢の星の集団が存在する理由については、過去に別の球状星団や巨大な分子雲と衝突した結果、2回目の星形成が誘発されたとするシナリオも示されていました。しかし、Terzan 5で激しい星形成が4回も起きた可能性を示す今回の発見は、こうした外部に依存するシナリオを否定するものであり、太陽の約200万倍に達する質量を持つTerzan 5が自身の持つ物質のみで星を形成し続けてきたことを強く裏付けるものとなりました。
論文の共著者であるボローニャ大学のFrancesco R. Ferraro教授は、今後について、バルジ内を周回する他の40〜50個の球状星団についても同様の調査を進める方針を示しています。新たなアプローチを実現させたウェッブ宇宙望遠鏡は、天の川銀河の中心をなすバルジがどのように形作られたのかという謎を解き明かす上で、今後も重要な手がかりをもたらしてくれるはずです。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- NASA - NASA Webb, Hubble Reveal History of Relic of Milky Way’s Formation
- ESA/Webb - Webb and Hubble reveal history of relic of the Milky Way galaxy’s formation
- Zullo et al. - The multi-age stellar populations of Terzan 5 as revealed by JWST (Astronomy & Astrophysics)

























