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天文学史上初めて「太陽系外衛星」を発見! ただし質量は木星に匹敵

私たちの太陽系を大雑把に捉えれば、恒星・惑星・衛星という階層構造があります。このような階層構造は果たして、他の惑星系にもあるのでしょうか? 太陽系の外にある太陽系外惑星は6000個以上見つかっていますが、「太陽系外衛星(exomoon / exosatellite)」は、これまで1個も見つかっていませんでした。

ディエゴ・ポルタレス大学のKevin Hoy氏を筆頭著者とする国際研究チームは、ESO(ヨーロッパ南天天文台)の望遠鏡「VLT(超大型望遠鏡)」に設置されている光学機器「CRIRES+(極低温赤外線エシェル分光器プラス)」による観測を行った結果、天文学史上初めてとなる太陽系外衛星を、地球から約73光年離れた星系で発見したと報告しました。論文はNature誌に掲載されており、Alice Zurlo氏は、今回の結果を「初めてのもっともらしい太陽系外衛星の検出(the first plausible detection of an exosatellite)」と表現しています。

ただし、まだ仮の名前も付けられていないこの太陽系外衛星は、最低でも木星の約0.9倍もの質量がある、かなり巨大な天体です。また、衛星が周回する天体「CD-35 2722 B」は、惑星ではなく褐色矮星という天体に分類されます。

このため研究チームは、今回発見した天体を「太陽系外衛星」と表現しつつも、この分類には議論の余地があることを認めています。また、太陽系とは全く異なる階層構造を持つ星系の天体を “衛星” と呼ぶこと自体が不適当であり、新しい分類を設置するのが最善であるかもしれないとも提案しています。

今回の太陽系外衛星の発見は、太陽系に基準を置いて作られた用語を、宇宙にある多様な天体に当てはめることの限界を示していると言えるかもしれません。

太陽系の外に衛星と呼べる天体はあるのか?

太陽以外の天体の周りを公転する惑星「太陽系外惑星」は、1992年に初めて発見されて以降、現在では公式に認定されているものだけでも6000個以上が記録されています。その一方で、太陽系外惑星の衛星バージョンである「太陽系外衛星」は1個も発見されていません。

厳密に言うと、「太陽系外衛星を発見した」という報告自体はこれまでもありました。ただしこれらは、データの精度の問題から発見とは言い切れなかったり、後の観測で存在が否定されるなどの理由で、公式に太陽系外衛星とカウントされている天体がない状態でした。

太陽系には大小さまざまな衛星がある以上、太陽系外惑星に衛星が1個もないというのは考えにくいことです。しかし実際に発見するまでは、実在していると主張することもできません。ここ30年で観測体制は拡充され、精度の高い観測データを取得・分析できるようになっていますが、小さな天体であればあるほど、その天体が属する星系全体への影響は小さくなり、観測自体が困難となります。

また、私たちはつい太陽系を基準に物事を考えてしまいますが、宇宙には太陽系とは似ても似つかない惑星系がたくさんあります。例えば、最初に発見された太陽系外惑星は恒星ではなく、中性子星「PSR B1257+12」を公転する惑星でした。このような前例を考えれば、太陽系ではありえない性質を持つ太陽系外衛星を見つけても不思議ではありません。

太陽系外衛星を発見する方法にはいくつかの提案がありますが、「視線速度法」と呼ばれる手法は可能性の1つとして検討されてきました。これは、衛星を持つ天体からの光の波長を厳密に測ることで、衛星の存在を知るという手法であり、恒星の周りを公転するものとしては初めてとなった太陽系外惑星「ペガスス座51番星b」の発見(1995年)でも使われた手法です。

例えば地球と月の関係を見てみると、地球は1点に固定されているのではなく、月に引っ張られてわずかに位置がふらついています。もちろん、何十光年も離れた天体の位置のふらつきを直接観測することは通常は不可能ですが(※1)、天体からの光を分析すると、位置のふらつきに伴って波長が変化する様子が観測できます。これは天体の運動が光の波長に影響を与える「ドップラー効果」によるものです。

ドップラー効果に伴う光の波長の変化を厳密に測ると、衛星が持つ最低質量と公転周期を知ることができます。これによって、直接は見えない衛星を間接的に発見することができます。

史上初となる太陽系外衛星を発見!?

図1: CD-35 2722星系の想像図。左側は恒星のCD-35 2722、右側は褐色矮星のCD-35 2722 Bであり、中央の天体がCD-35 2722 Bを公転する太陽系外衛星です。(Credit: ESO & M. Kornmesser)
【▲ 図1: CD-35 2722星系の想像図。左側は恒星のCD-35 2722、右側は褐色矮星のCD-35 2722 Bであり、中央の天体がCD-35 2722 Bを公転する太陽系外衛星です。(Credit: ESO & M. Kornmesser)】

こうした状況の中、ディエゴ・ポルタレス大学のKevin Hoy氏を筆頭著者とする国際研究チームは、「exomoon / exosatellite(太陽系外衛星)」と表現する天体を発見したと報告しました。もしもこの発見が確認されれば、天文学史上初めてとなる太陽系外衛星の発見です。

太陽系外衛星は、地球から見て「はと座」の方向に約73光年離れた星系で発見されました。これは木星の約400倍(太陽の約0.4倍)の質量の恒星「CD-35 2722」と、その周りを公転する木星の約37倍の質量の褐色矮星「CD-35 2722 B」で構成されていることで知られています。

褐色矮星とは、木星の13~80倍の質量を持つ、恒星でも惑星でもない天体です。惑星と違い、誕生直後は中心部で核融合反応が起こるものの、恒星と違い、核融合反応はすぐに停止します。このため褐色矮星は、誕生直後に発生した余熱で鈍く輝いています。CD-35 2722 Bは年齢が約1000万年と推定される若い天体であるため、恒星と比べればずっと暗いものの、それでも明るく輝いています。

褐色矮星であるCD-35 2722 Bは、自ら光を発している上に、平均距離約300億km、公転周期約5000年(※2)と推定されるほど恒星から遠く離れた場所を公転しているため、恒星にあまり邪魔されず観測できるという性質があります。このため、視線速度法による衛星の発見には理想的な性質を持っていますが、実際に衛星があるかどうかは不明でした。

図2: 今回の太陽系外衛星の発見に繋がった観測機器「CRIRES+」の外観写真。(Credit: ESO)
【▲ 図2: 今回の太陽系外衛星の発見に繋がった観測機器「CRIRES+」の外観写真。(Credit: ESO)】

Hoy氏らは、チリ共和国のアタカマ砂漠にあるパラナル天文台の主力望遠鏡「VLT」による観測を行い、CD-35 2722 Bからの光を詳細に観測・分析しました。VLTにはいくつかの光学機器が設置されていますが、今回Hoy氏らは、近赤外線高分散分光装置「CRIRES+」を利用する観測プログラムで、光の波長を詳細に分析しました。

その結果、CD-35 2722 Bの周りを公転する衛星があることが分かりました。この衛星は1個である場合と2個である場合(※3)の2通りの答えが導き出されましたが、Hoy氏らはいくつかの理由から、衛星の数は1個である可能性の方が高いと考えています(※4)

図3: 今回発見されたCD-35 2722 Bの衛星のステータス。衛星と言っても、質量が最低でも木星の0.9倍もある大きな天体です。(Credit: ESO & M. Kornmesser(想像図) / 彩恵りり(文字入れなどの全体の加工))
【▲ 図3: 今回発見されたCD-35 2722 Bの衛星のステータス。衛星と言っても、質量が最低でも木星の0.9倍もある大きな天体です。(Credit: ESO & M. Kornmesser(想像図) / 彩恵りり(文字入れなどの全体の加工))】

まだ仮の名前も付けられていないこの衛星は、質量が最低でも木星の約0.9倍あり、平均距離約3000万kmの楕円軌道(軌道離心率約0.27)を約171日かけて公転していると考えられます。今回の観測手法から分かるのはあくまで質量の下限であり、衛星の実際の質量はもっと重い可能性があります。ただし観測結果の分析から、この衛星の質量が木星の13倍を超えて褐色矮星に分類される可能性はほとんどないと考えられています。

衛星が楕円軌道を持つこと自体は興味深い結果です。というのは、衛星が周回しているCD-35 2722 B自身も、彗星に匹敵する極めて歪んだ楕円軌道(軌道離心率0.9以上)で恒星の周りを公転しているからです。恒星から受ける重力の強さが極端に変動することで、衛星の軌道を楕円へと変化させることは十分にあり得ます。

研究チームは、褐色矮星の雲や自転による影響など、実在しない天体の幻を生み出す恐れのある要素に触れつつも、今回の観測結果は実在の天体を示している可能性が高いと考えています。研究者の1人であるディエゴ・ポルタレス大学のAlice Zurlo氏は、今回の結果を「初めてのもっともらしい太陽系外衛星の検出」と表現しています。

今回の発見がどれくらいのインパクトを持って迎えられているのかは、別の視点からも分かります。まず、論文は自然科学分野で最も権威があるNature誌に掲載されています。天文学史上初めての発見というトロフィーはかなり強いことが分かります。

また、正式な論文掲載の約2週間前には、第三者チェックが行われる前の下書きに当たるプレプリントがarXivに投稿されましたが、その冒頭には、普段は見かけない注意書きがあります。注意書きにはまず「Natureに掲載される内容は、このプレプリントとは変わっています」という、プレプリントを日常的に読む人にとっては説明しなくてもよく知られている内容が書かれています。

しかしこの注意書きには同時に「この内容を一般の人々やメディアに報告する前に、最終版をご覧ください」とも書かれています。これは、普段プレプリントを読まず、その性質を理解していない人が読んだり人づてに内容を見聞きしたりすることや、メディアが不完全な情報で先走って報じる可能性があることを考慮した注意書きなのかもしれません。

今回発見された天体は “衛星” か?

図4: CD-35 2722星系の階層構造は恒星・褐色矮星・惑星質量天体という構成です。これは太陽系には見られない構造です。(Credit: Textures by Björn Jónsson, FarGetaNik, cubicApocalypse & Planetkid32(上側の説明図) / ESO & M. Kornmesser(下側の想像図) / 彩恵りり(文字入れなどの全体の加工))
【▲ 図4: CD-35 2722星系の階層構造は恒星・褐色矮星・惑星質量天体という構成です。これは太陽系には見られない構造です。(Credit: Textures by Björn Jónsson, FarGetaNik, cubicApocalypse & Planetkid32(上側の説明図) / ESO & M. Kornmesser(下側の想像図) / 彩恵りり(文字入れなどの全体の加工))】

さて、ここまで読んでくださった読者の中には「果たしてこれは “衛星” と言えるのか?」と疑問を持つ方もいるでしょう。確かに、今回発見された衛星は、最低でも木星とほぼ同じ質量を持ちます。木星と言えば、太陽系で最大の惑星です。太陽系なら最大の惑星と同じサイズの天体が衛星と言われてもピンと来ない方もいるでしょう。

また、今回発見された太陽系外衛星が周回しているのは褐色矮星です。現在の太陽系外衛星の定義(※5)では、褐色矮星を公転する天体は惑星であるとしています。ただしこの定義は、CD-35 2722星系のように、褐色矮星が属する星系がどのような階層構造を持っているかどうかは考慮していません。

一番の問題は、太陽系外衛星はおろか、太陽系の中でさえ衛星の明示的な定義が存在しないことでしょう。太陽系では恒星・惑星・衛星の階層構造が明瞭であるため、この点があまり問題視されることはありませんでした。しかしそれでも、惑星には分類されない準惑星や、さらに小さな天体である小惑星にも、多数の衛星が見つかっています。惑星から準惑星に分類が変更された冥王星と、その衛星のカロンのように、衛星というよりも二重天体と言えるほど、主従の関係が曖昧なものもあります。

ましてや、太陽系には褐色矮星は存在しないため、「恒星の周りを公転する褐色矮星の周りを公転する天体の分類は何か」と問われると、定義がないため答えられないということもできます。恒星・褐色矮星・木星サイズの天体というCD-35 2722の階層構造は、太陽系の太陽・惑星・衛星の階層構造とは全く異なります。

それに、褐色矮星は木星の13~80倍であると一応は定義されているものの、近年の観測では惑星に近い性質を持つ褐色矮星も次々と見つかっています。CD-35 2722 B自体も、あと50億年ほど経てば、現在の数百分の1以下まで暗くなっており、その性質は褐色矮星というよりも惑星に近づきます。もしもこの時にCD-35 2722 Bを周回する天体が見つかれば、どのような議論が起こったでしょうか?

さらに言えば、今回発見された天体の最低質量は、CD-35 2722 Bの約40分の1であることも特徴として挙げられます。この比率を地球と月の関係に適用すれば、月の質量は今の2倍に増え、ちょうど太陽系最大の衛星であるガニメデに匹敵します。もしも月の質量が現在の2倍あったとしても、恐らく私たちは月を衛星と呼んでいるでしょう。この観点から言えば、CD-35 2722 Bを周回する天体は衛星であるとも言えます。

いずれにしても、今回発見された天体が「太陽系外衛星」であるかどうかの議論は、一朝一夕には解決しないかもしれません。 “衛星” という用語は太陽系の天体を説明するために考案されたものであり、太陽系とは似ても似つかない星系に当てはめること自体が不適当かもしれないからです。Hoy氏らは、論文やプレスリリースで “衛星” という用語を使いつつも、褐色矮星を公転する天体を表す新たな分類を定義するのが最善ではないかと提案しています。

注釈

※1…天体の位置のふらつきを直接的に検出する「位置天文学法」や「トランジットタイミング法」などの手法があり、全く不可能というわけではありませんが、観測可能な条件を満たす星系は稀にしか存在しません。

※2…CD-35 2722 Bの軌道要素はあまり精度よく知られていません。2020年の観測研究による平均値は、公転周期が5380 (+2900/-3900) 年、軌道長半径が241 (+85/-130) auとなっています。

※3…衛星が2個である場合、各パラメーターは次の通り。「内側を公転する衛星: 下限質量は木星の約0.2倍、平均公転距離約2900万km、公転周期約87日」「外側を公転する衛星: 下限質量は木星の約0.9倍、平均公転距離約1900万km、公転周期約172日」どちらも軌道は真円に近く、1:2の軌道共鳴をしている可能性があるものの、理想的な値からわずかなズレがあります。

※4…モデルの直接検証ではどちらに妥当性があるのかを知ることはできません。しかし2個の衛星を持つモデルを検証すると、大半のケースで500年以内に軌道が不安定化して1個の衛星を失ってしまうことが分かりました。唯一安定化するのは、衛星同士がお互いに逆方向に公転しているケースであり、このような軌道を取ることは極めて難しいと考えられます。

※5…太陽系外惑星の定義は次の通り: 天体の実際の質量が重水素の熱核融合の限界質量を下回り、恒星、褐色矮星、または恒星の残骸を周回し、中心天体との質量比がL4/L5不安定性(中心天体に対する質量比は 2/(25+√621)≒1/25 未満)よりも下のものは「惑星」であり、どのようにして形成されたかは関係ない。太陽系外の天体が惑星と見なされるために必要な最小の質量/直径は、太陽系で使用されるものと同じである必要があり、これは自身の重力が剛体力に打ち勝つのに十分なことと、軌道上から近隣の他の天体を一掃していることである。

ひとことコメント

今回発見された天体は、果たして「衛星」と言えるかどうか、皆さんはどう思いますか?(筆者)

 

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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参考文献・出典