
ハーバード大学のCollin Cherubim氏を筆頭とする研究チームは、地球から約48光年先にある太陽系外惑星「LHS 1140 b」に、大気が存在することを初めて確認したとする研究成果を発表しました。
今回の成果は、太陽系外惑星の研究のみならず、地球外生命の探索においても重要なマイルストーンだと受け止められています。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Science」に掲載されています。

岩石惑星は大気を保持できるのか?
太陽系外惑星はこれまでに6300個以上が確認されていて、その中には主星のハビタブルゾーン(※1)を公転する岩石質とみられる惑星もいくつか含まれています。こうした惑星は大気を持ち、場合によっては表面に水が存在する可能性もあることから、観測と研究が進められています。
※1…大気を持つ惑星の表面に液体の水が存在し得る、恒星から一定の範囲にある領域。童話「3びきのくま」にちなんで「ゴルディロックスゾーン」とも呼ばれる。
こうした比較的小さな惑星の観測では、太陽よりも軽くて表面温度も低い赤色矮星(M型星)の惑星系が主な観測対象になります。赤色矮星は太陽と比べてハビタブルゾーンが狭く、その中を公転する惑星の公転周期は地球の数日程度しかないこともあり、短い観測期間でもハビタブルゾーン内の惑星を発見しやすいという特徴があるのです。
その一方で、赤色矮星はフレアなどが発生しやすい活動性の高いタイプの恒星としても知られており、放出される紫外線・X線や恒星風によって、惑星の大気が剥ぎ取られてしまう可能性も指摘されています。巨大ガス惑星に比べて質量の小さな岩石惑星が、赤色矮星の周囲で数十億年もの長期間にわたって大気を保持できるのかどうかは、天文学における大きな疑問のひとつとなっていました。
流出したヘリウムを検出 時期によって変動している?
LHS 1140 bは、地球と比べて質量が約5.6倍、半径が約1.7倍の、いわゆるスーパーアース(地球よりも大きな岩石惑星)だと考えられている惑星です。誕生から30億年以上が経った赤色矮星「LHS 1140」のハビタブルゾーンを、約24.7日周期で公転しています。
Cherubim氏は理論モデルをもとに、LHS 1140 bに大気が存在すると仮定した場合、その上層大気にはヘリウムが豊富に含まれており、宇宙空間へゆっくりと流出していると事前に予測。検証を行うために、ラスカンパナス天文台(チリ)のマゼラン望遠鏡に設置された分光器「WINERED」を使用して、トランジット法(※2)による観測を実施しました。
※2…太陽系外惑星が主星の手前を横切る「トランジット」を起こした際に生じる主星の明るさのわずかな変化をもとに、太陽系外惑星を間接的に検出する手法。繰り返し起きるトランジットを観測することで、その周期から惑星の公転周期を割り出したり、トランジット時の主星の光度曲線(時間の経過にあわせて変化する天体の光度を示した曲線)をもとに、惑星の直径や大気の有無といった情報を得ることも可能。

研究チームによると、2024年の観測で取得したデータを分析したところ、LHS 1140 bから流出したヘリウムの吸収線(※3)が検出されました。これはCherubim氏による事前予測の正しさを示すと同時に、LHS 1140 bが赤色矮星のハビタブルゾーンで大気を保持している証となります。
※3…電磁波の波長ごとの強さの分布であるスペクトルにみられる、物質が特定の波長の電磁波を吸収したことで生じる弱い部分。
論文の共著者でありCherubim氏の指導教員を務めるハーバード・スミソニアン天体物理学センター(CfA)のDavid Charbonneau氏は当初、計算上の予測にもとづいた観測計画に懐疑的だったものの、「彼(Cherubim氏)が望遠鏡の時間を確保してデータを取得した結果、その検出は統計的に揺るぎないものでした」と、当時の様子を振り返っています。
一方、2025年の観測で取得したデータからは、ヘリウムの吸収線がみられなかったといいます。このことから研究チームは、LHS 1140 bの大気は一定のペースで流出しているのではなく、時期によって変動している可能性があると論文で述べています。
また、研究チームは主星を約3.78日周期で公転するもうひとつの惑星「LHS 1140 c」のトランジットも観測しましたが、大気の兆候は確認されませんでした。この結果について研究チームは、LHS 1140 bよりも主星に近いLHS 1140 cには大気がほとんど存在しないか、まったくないことを示していると述べています。
他の岩石惑星でも成果が得られることに期待
LHS 1140 bの大気は30億年以上にわたって存続してきたと考えられており、今後の研究における非常に重要な観測対象となります。Cherubim氏が「私たちが知るような生命を支えるには、大気の存在が不可欠です」と語るように、ハビタブルゾーンを公転する岩石惑星における大気の確認は、今後の地球外生命探索において重要な意味を持つはずです。
論文の共著者であり、同じくCherubim氏の指導教員であるCfAのRobin Wordsworth教授は、「20年前には地球型惑星が他に存在するかどうかも定かではありませんでしたが、現在ではそれが一般的であり、ハビタブルゾーンにも存在することがわかっています。大気を維持できているかどうかが次の疑問でしたが、今回の研究で、少なくとも1つの惑星が大気を持っていることが判明しました」と述べています。
今後についてCherubim氏は、LHS 1140 bの大気の全体的な組成をさらに詳しく調査し、表面に海が存在するかどうかなど、生命の居住可能性に関連する特徴を調査していく予定だと語っています。大気から流出する物質の観測は、岩石惑星における大気を調べるための重要な手法となる可能性があることから、今後の成果に期待が寄せられています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- Harvard & Smithsonian - First atmosphere detected on a habitable-zone rocky world
- Cherubim et al. - Helium escaping from the atmosphere of a nearby rocky exoplanet orbiting in a habitable zone (Science)























