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どうやって生き延びた? 白色矮星を公転する太陽系外惑星「WD 1856 b」をウェッブ宇宙望遠鏡が観測

セント・アンドリューズ大学のRyan MacDonald氏らを筆頭とする国際研究チームは、ジェームズ・ウェッブ(James Webb)宇宙望遠鏡を用いた観測により、白色矮星を公転する太陽系外惑星「WD 1856 b」の大気成分と温度を測定することに成功したと発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Nature」に掲載されています。

主星の死を生き延びた巨大ガス惑星?

WD 1856 bは、りゅう座の方向、地球から約80光年離れた白色矮星「WD 1856+534」を公転する太陽系外惑星です。サイズは木星の約0.9倍ですが、質量は木星の4〜11倍ある巨大ガス惑星とみられています。主星であるWD 1856+534は太陽の約0.5倍の質量があるものの、サイズは地球と同じくらいしかないため、惑星のほうが主星よりも大きいという特徴があります。

最大の謎は、その極端な軌道にあります。WD 1856 bは、地球から太陽までの距離の約50分の1という非常に小さな軌道を、わずか34時間周期で公転しています。

主星のWD 1856+534は、かつては太陽のような恒星でしたが、晩年に巨大な赤色巨星へと膨張して外層のガスを失い、コア(中心核)だけが白色矮星として残った天体です。もしもWD 1856 bが最初から現在の軌道を公転していたとすれば、主星が赤色巨星に膨張した段階で飲み込まれてしまい、完全に破壊されていたはずなのです。

太陽系外惑星「WD 1856 b」(左)の想像図(Credit: NASA, ESA, CSA, R. Crawford (STScI))
【▲ 太陽系外惑星「WD 1856 b」(左)の想像図(Credit: NASA, ESA, CSA, R. Crawford (STScI))】

ウェッブが捉えた大気成分と「余熱」の証拠

今回、研究チームはウェッブ宇宙望遠鏡の「NIRSpec(近赤外線分光器)」を使用して、惑星が主星の手前を横切る際の光の変化を観測する「トランジット法」(後述)を用いてWD 1856 bを調査しました。

研究チームによると、NIRSpecの観測データからはメタンなどの炭化水素や、エアロゾル(大気中に浮かぶ固体や液体の粒子)の存在が明らかになりました。論文の共著者であるコーネル大学のVictoria Boehm氏によると、白色矮星でトランジットが観測される太陽系外惑星において、大気の成分が検出されたのは今回が初の事例とされています。

さらに重要な発見は、WD 1856 bの温度です。通常、惑星が主星の前を横切るトランジットを起こすと、惑星にさえぎられた分だけ主星の光は暗くなります。ところが観測データを分析した結果、WD 1856 b自身が発する熱(赤外線)が加わることで、トランジット中のWD 1856+534は赤外線の波長帯では想定よりも暗くならない(減光が浅くなる)という現象が確認されました。

この現象をもとに算出されたWD 1856 b表面温度は、約126℃でした。これは、現在のWD 1856+534からの弱い光だけで温められると仮定した温度よりも、著しく高い数値だといいます。

論文の共著者であるノースウェスタン大学のChristopher O'Connor氏によれば、現在の環境にはこれほどの熱を生み出すエネルギー源が存在しないため、これは過去にWD 1856 bが加熱された際の「余熱」であると考えられています。研究チームが惑星の冷却モデルを用いて分析した結果、WD 1856 bが加熱されたのは、主星が白色矮星になってから30億〜55億年後だった可能性が最も高いと結論づけられました。

かつてのWD 1856 bは主星が赤色巨星の段階を迎えても飲み込まれないほど遠い軌道を公転していたものの、他の天体の重力などの影響を受けたことで、主星の至近を公転する現在の軌道まで移動してきた可能性があります。この時の強い重力相互作用によって激しく加熱された結果、WD 1856 bは現在もまだ冷え続けていると考えられています。O'Connor氏は、主星のWD 1856+534が三重連星の一部であることから、伴星の重力が影響をおよぼした可能性もあると指摘しています。

ジェームズ・ウェッブ(James Webb)宇宙望遠鏡のNIRSpec(近赤外線分光器)で観測した太陽系外惑星WD 1856 bの透過スペクトルを示した図(Credit: NASA, ESA, CSA, J. Olmsted (STScI))
【▲ ジェームズ・ウェッブ(James Webb)宇宙望遠鏡のNIRSpec(近赤外線分光器)で観測した太陽系外惑星WD 1856 bの透過スペクトルを示した図(Credit: NASA, ESA, CSA, J. Olmsted (STScI))】

太陽系の未来を映すタイムマシン

今回の成果は、太陽系の遠い未来を予測する上でも重要な意味を持ちます。約50億年後には太陽も膨張して赤色巨星になり、水星、金星、それにおそらく地球をも飲み込んだ後で、白色矮星に進化すると予想されているからです。実際にそうなった時、木星や土星といったより遠くを公転する惑星がどのような運命をたどるのかは、まだ完全には理解されていません。

MacDonald氏がこの惑星系を「遠い未来の太陽系を覗くタイムマシンのようなもの」と語るように、WD 1856 bは、主星の死後も惑星が生き延びて、軌道を変えながら存在し得ることを示す貴重な実例と言えます。Boehm氏によれば、ウェッブ宇宙望遠鏡による追加観測がすでに実施済みであり、データの解析によってWD 1856 bの大気化学や進化の歴史をより詳細に解き明かすことができると期待されています。

参考:太陽系外惑星の観測方法について

太陽系外惑星の観測では「視線速度法(ドップラーシフト法)」および「トランジット法」という2つの手法が主に用いられています。

「視線速度法」とは、太陽系外惑星の公転にともなって円を描くようにわずかに揺さぶられる主星の動きをもとに、惑星を間接的に検出する手法です。

惑星の公転にともなって主星が揺れ動くと、光の色は主星が地球に近付くように動く時は青っぽく、遠ざかるように動く時は赤っぽくといったように、ドップラー効果によって周期的に変化します。こうした主星の色の変化は、天体のスペクトル(電磁波の波長ごとの強さの分布)を得る分光観測を行うことで検出されています。

視線速度法の観測データからは、太陽系外惑星の公転周期や最小質量を求めることができます。

【▲ 参考動画:太陽系外惑星の公転にともなって主星のスペクトルが変化する様子(Credit: ESO/L. Calçada)】

もう一つの「トランジット法」とは、太陽系外惑星が主星の手前を横切る「トランジット(transit)」を起こした際に生じる主星の明るさのわずかな変化をもとに、太陽系外惑星を間接的に検出する手法です。

繰り返し起きるトランジットを観測することで、その周期から惑星の公転周期を知ることができます。トランジット時の主星の光度曲線(時間の経過にあわせて変化する天体の光度を示した曲線)をもとに、惑星の直径や大気の有無といった情報を得ることも可能です。

近年では、トランジットの周期に生じるわずかな変動をもとに、重力を介して相互作用する別の惑星を捜索する手法「トランジットタイミング変動法(TTV法)」も用いられるようになっています。

【▲ 参考動画:太陽系外惑星のトランジットによって恒星の明るさが変化する様子(Credit: ESO/L. Calçada)】

また、太陽系外惑星がトランジットを起こしている時の主星の光には、惑星の大気(存在する場合)を通過してきた光もわずかに含まれています。

惑星の大気を通過してから届いた主星のスペクトルは「透過スペクトル」と呼ばれていて、惑星の大気に含まれる物質が特定の波長の電磁波を吸収したことで生じる暗い線「吸収線」が現れます。透過スペクトルを通常のスペクトルと比較すればどのような吸収線が現れているのかがわかるので、惑星の大気組成を調べることができます。

参考画像:恒星(左)の光を利用して太陽系外惑星(中央下)の大気組成を調べる手法のイメージ図。太陽系外惑星の大気を構成する物質が一部の波長を吸収するため、大気を通過して地球(右)に届いた主星の光のスペクトル(透過スペクトル)を分析することで、惑星の大気組成を調べることができる。また、大気にヘイズ(もや)がある場合は青い光が散乱して、通過した光は少し赤くなる(Credit: ESO/M. Kornmesser)
【▲ 参考画像:恒星(左)の光を利用して太陽系外惑星(中央下)の大気組成を調べる手法のイメージ図。太陽系外惑星の大気を構成する物質が一部の波長を吸収するため、大気を通過して地球(右)に届いた主星の光のスペクトル(透過スペクトル)を分析することで、惑星の大気組成を調べることができる。また、大気にヘイズ(もや)がある場合は青い光が散乱して、通過した光は少し赤くなる(Credit: ESO/M. Kornmesser)】

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典