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天の川銀河の「渦巻腕」は一部が想定よりも大きく広がっている? X線観測データを分析

私たちが住む天の川銀河の本当の姿は、いまだに多くの謎に包まれています。イタリアのパヴィア高等研究所とトレント大学の共同プログラムに博士課程学生として在籍していたBeatrice Vaia氏を筆頭とする研究チームは、天の川銀河の渦巻腕(渦状腕)のうち外側の部分が、これまでの想定よりも約10%大きく外側に広がっていることを突き止めたとする研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Astronomy & Astrophysics」に掲載されています。

今回の研究成果をもとに作成された天の川銀河の想像図(Credit: NASA/CXC/SAO/M.Weiss)
【▲ 今回の研究成果をもとに作成された天の川銀河の想像図(Credit: NASA/CXC/SAO/M.Weiss)】

銀河の中から全体像を探る難しさ

天の川銀河の全体像を正確に把握するのは、容易なことではありません。太陽系は天の川銀河の中に位置しているため、銀河を外側から俯瞰することができないからです。特に、銀河の中心部や外縁部を見渡す方向は、宇宙空間に漂う厚いダストクラウド(塵を含んだ雲)によって視界がさえぎられてしまいます。

ESA(ヨーロッパ宇宙機関)によると、近年ではESAが運用していた宇宙望遠鏡「ガイア」の活躍により、太陽系周辺だけでなくより広い範囲にある恒星の距離が極めて高精度に測定されたことで、天の川銀河の構造理解は大きく進展しています。

しかし、観測が難しい外縁部については、主に水素や一酸化炭素などのガスの動きを基にした銀河の回転モデルを仮定して、間接的に位置を推定するのが一般的でした。Vaia氏によると、この手法は天の川銀河の外側に向かうほど不確実性が大きくなるという課題を抱えていたといいます。

宇宙の強力な爆発現象「ガンマ線バースト」を光源に利用

そこで研究チームは、遠方の宇宙で発生した強力な爆発現象である「ガンマ線バースト(GRB)」を強力な光源として利用するユニークな手法を用いて、渦巻腕の位置を直接的に割り出すことを試みました。ターゲットとなったのは、2022年に観測された観測史上最も明るいガンマ線バースト「GRB 221009A」をはじめとする、3つのガンマ線バーストです。

ガンマ線バーストにともなって放たれたX線をダストクラウドが反射・散乱したことで生じた光エコーの一例。水色がX線データで、背景は地上の望遠鏡で撮影した星空(Credit: X-ray: NASA/CXC/INAF/B. Vaia et al.; Optical: Pan-STARRS; Image processing: NASA/CXC/SAO: N. Wolk, P. Edmonds)
【▲ ガンマ線バーストにともなって放たれたX線をダストクラウドが反射・散乱したことで生じた光エコーの一例。水色がX線データで、背景は地上の望遠鏡で撮影した星空(Credit: X-ray: NASA/CXC/INAF/B. Vaia et al.; Optical: Pan-STARRS; Image processing: NASA/CXC/SAO: N. Wolk, P. Edmonds)】

これらのガンマ線バーストにともなって放たれた強力なX線が天の川銀河を通過する際、渦巻腕の中に存在するダストクラウドに反射・散乱されると、その場所に応じてX線が時間差で地球に届く「光エコー」が、リング状のX線として観測されます。

研究チームは、NASA(アメリカ航空宇宙局)のチャンドラおよびESAのXMM-Newtonという2つのX線宇宙望遠鏡が捉えたX線リングが、時間の経過とともに拡大していく様子を分析しました。

観測されたX線リングの直径(広がり)は、X線を反射したダストクラウドが地球に近いほど大きく見えるという幾何学的な性質を持っています。研究チームはこの性質を利用することで、銀河の回転モデルの仮定に頼ることなく、純粋な幾何学計算のみで渦巻腕の位置を割り出したのです。

外側の渦巻腕は想定よりも外側に広がっている?

研究チームによると、分析の結果、「Perseus Arm(ペルセウス腕)」を含む3つの渦巻腕の位置が測定されました。このうち最も外側に位置する「Outer Scutum-Centaurus Arm(アウターたて・ケンタウルス腕)」と「Outer Arm(外縁部腕、アウターアーム)」の2つの腕は、少なくとも特定のガンマ線バースト(GRB 221009A)が観測された方向において、既存のモデルによる予測よりも約10%外側に張り出していることが明らかになったといいます。

特に、太陽系からOuter Scutum-Centaurus Armが位置する領域までの距離は19.0±0.2キロパーセク(約6万2000光年、1パーセク=約3.26光年)と、これまでになく高い精度で特定されました。また、この腕を形成するダストクラウドは孤立した小さな雲ではなく、その幅(厚み)は渦巻腕全体の構造を反映した約3500光年もの広がりを持っていることも確認されています。

論文の共著者であり、Vaia氏と同じプログラムに博士課程学生として在籍していたIlaria Fornasiero氏は、「このわずかな位置の修正は、私たちの銀河を理解する上で非常に重要です。たとえば、腕がどれほど大きく外側へ伸びるかは銀河の質量に影響されます。今回の結果を受けて、天の川銀河全体の質量の見積もりを修正する必要に迫られるかもしれません」と述べています。

今回の研究成果を受けて作成された天の川銀河の想像図(NASAチャンドラX線宇宙望遠鏡のウェブサイトで公開されたバージョン)。これまで予想されていた渦巻腕の広がり方と、今回の研究で示された広がり方(破線で囲まれている部分)を同時に描いている(Credit: NASA/CXC/SAO/M.Weiss)
【▲ 今回の研究成果を受けて作成された天の川銀河の想像図(NASAチャンドラX線宇宙望遠鏡のウェブサイトで公開されたバージョン)。これまで予想されていた渦巻腕の広がり方と、今回の研究で示された広がり方(破線で囲まれている部分)を同時に描いている(Credit: NASA/CXC/SAO/M.Weiss)】
今回の研究成果を受けて作成された天の川銀河の想像図(ESAのウェブサイトで公開されたバージョン)。これまで予想されていた渦巻腕の広がり方と、今回の研究で示された広がり方を、アニメーション画像で比較している(Credit: ESA/Gaia/DPAC, Stefan Payne-Wardenaar, ESA/XMM-Newton and NASA/Chandra)
【▲ 今回の研究成果を受けて作成された天の川銀河の想像図(ESAのウェブサイトで公開されたバージョン)。これまで予想されていた渦巻腕の広がり方と、今回の研究で示された広がり方を、アニメーション画像で比較している(Credit: ESA/Gaia/DPAC, Stefan Payne-Wardenaar, ESA/XMM-Newton and NASA/Chandra)】

銀河のモデルの見直しと今後の展望

今回の成果は、天文学者たちが長年採用してきた銀河の回転モデルと、実際の星間物質の分布との間に無視できないズレがあることを示しており、既存のモデルに修正を迫るものとなっています。

一方で、今回採用された手法には弱点もあります。X線の光エコーを発生させるほど明るいガンマ線バーストが、必ずしも天の川銀河の円盤面(塵が高い密度で集まっている領域)の向こう側で発生するとは限らないからです。

論文の共著者であるパヴィア高等研究所のAndrea Tiengo氏は、「過去25年間で使用できるガンマ線バーストは数例しかありませんでした。しかし、私たちは今後もより多くのイベントを探し続けます」と語っています。

ESAでXMM-Newtonのプロジェクトサイエンティストを務めるErik Kuulkers氏は、現在ESAで開発が進められている次世代X線天文衛星「NewAthena(ニューアテナ)」などが将来打ち上げられれば、さらに微弱な光エコーを捉えることが可能になると期待を寄せています。

極めてまれな宇宙規模の偶然と、複数の宇宙望遠鏡の連携がもたらした今回の成果は、天の川銀河の真の姿を解き明かすための重要な一歩となるかもしれません。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典