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南天の夜空を10年のあいだ繰り返して観測 ベラ・ルービン天文台のサーベイ観測が正式始動

NOIRLab(アメリカ国立光学・赤外天文学研究所)は2026年6月30日付で、チリのセロ・パチョン山頂に建設されたベラ・ルービン天文台の観測プロジェクト「LSST(Legacy Survey of Space and Time=時空間レガシーサーベイ)」が正式に始動したことを発表しました。

NOIRLabによると、LSSTでは今後10年間にわたって南天の空を繰り返し観測し、史上最大規模となる「宇宙のタイムラプス映像」が作成されることになります。

ベラ・ルービン天文台のシモニー・サーベイ望遠鏡で観測した、おおかみ座からケンタウルス座にかけての領域。「星々の海(Ocean of Stars)」というタイトルが付けられている(Credit: NSF–DOE Vera C. Rubin Observatory/NOIRLab/SLAC/AURA)
【▲ ベラ・ルービン天文台のシモニー・サーベイ望遠鏡で観測した、おおかみ座からケンタウルス座にかけての領域。「星々の海(Ocean of Stars)」というタイトルが付けられている(Credit: NSF–DOE Vera C. Rubin Observatory/NOIRLab/SLAC/AURA)】

宇宙最大の謎に迫る10年間のサーベイ

そもそも、なぜ10年間という長期間にわたり、南天を繰り返し観測し続けるというLSSTのようなプロジェクトが必要なのでしょうか。NOIRLabによれば、その答えは「宇宙の現象には、ゆっくりと進行するもの、予測不可能なもの、あるいは極めて稀にしか発生しないものがあるから」です。

たとえば、宇宙の膨張を加速させているとされる未知のエネルギー「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」や、電磁波では直接観測できない謎の物質「ダークマター(暗黒物質)」の正体に迫るには、銀河の分布や光の進行方向のわずかな変化を長期間にわたって精密に測定する必要があります。

チリのセロ・パチョンに建設されたベラ・ルービン天文台(Credit: RubinObs/NOIRLab/SLAC/NSF/DOE/AURA/P. Horálek (Institute of Physics in Opava))
【▲ チリのセロ・パチョンに建設されたベラ・ルービン天文台(Credit: RubinObs/NOIRLab/SLAC/NSF/DOE/AURA/P. Horálek (Institute of Physics in Opava))】

ルービン天文台は、10年間で空の各地点を約800回ずつ繰り返し観測することで、かつてないほど時間変化を克明に記録したデータセットを提供し、宇宙の根本的な物理法則の解明に挑みます。

また、長期間の継続観測は、大質量星が恒星としての寿命の最後に起こす超新星爆発や、ブラックホールに偶然接近した星などが飲み込まれる際の急激な増光、中性子星など高密度な天体どうしの衝突といった、いつどこで起こるか予測できない突発的な現象を捉える上でも威力を発揮します。

こうした現象をいち早く発見してアラートを発出することで、世界中の望遠鏡が追跡観測を行うという国際的な連携体制が構築されており、電磁波だけでなく重力波など複数の信号を使って現象を捉えるマルチメッセンジャー天文学を牽引することもルービン天文台には期待されています。

さらに、LSSTは遠くの宇宙だけでなく、私たちの足元である太陽系の探査においても革命をもたらします。毎晩約1000枚の画像を撮影することで、数百万もの小惑星や彗星を網羅した、極めて詳細な太陽系の天体のカタログが作成される予定です。このカタログは地球に接近する小惑星の監視や、太陽系外縁部の歴史を紐解くうえで重要なデータとなることが期待されています。

32億画素のデジタルカメラが捉える宇宙

観測を行うベラ・ルービン天文台のシモニー・サーベイ望遠鏡(Credit: RubinObs/NSF/DOE/NOIRLab/SLAC/AURA/H. Stockebrand))
【▲ 観測を行うベラ・ルービン天文台のシモニー・サーベイ望遠鏡(Credit: RubinObs/NSF/DOE/NOIRLab/SLAC/AURA/H. Stockebrand))】

LSSTの圧倒的な観測能力を支えているのは、口径8.4mのシモニー・サーベイ望遠鏡と、32億画素を誇る巨大なデジタルカメラです。

NOIRLabによると、このカメラは約40秒ごとに新しい画像を撮影し、一晩で約10テラバイトものデータを収集しており、夜空の変化を示すアラートは毎晩最大で700万件も生成されているといいます。最適化を目的とした本格稼働前のテスト観測でも、わずか1か月半の間に1万1000個以上もの小惑星を新たに発見しているほどです。

また、今回のLSST正式始動にあわせて「星々の海(Ocean of Stars)」と題した、おおかみ座とケンタウルス座にかけての領域をクローズアップした冒頭の画像も公開されています。画素数は1.7ギガピクセル(※)で、銀河巻雲(地球の巻雲のように淡く筋状に広がった星間雲)や無数の星々が非常に高い解像度で捉えられています。

※…本記事に掲載した画像はsorae側のシステムの都合で縮小されています。オリジナルの公開画像は本記事末尾からNOIRLabのプレスリリースにアクセスしてご覧ください。

「星々の海(Ocean of Stars)」の範囲(水色)を示した図(Credit: E. Slawik/NOIRLab/NSF/AURA/M. Zamani)
【▲ 「星々の海(Ocean of Stars)」の範囲(水色)を示した図(Credit: E. Slawik/NOIRLab/NSF/AURA/M. Zamani)】

すばる望遠鏡とのタッグと日本の貢献

この歴史的なプロジェクトの裏側では、日本の研究者や技術者も重要な役割を担っています。

国立天文台の発表によると、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム:HSC)」の開発・運用プロジェクトで培われた技術や膨大なデータ処理のノウハウが、LSSTの安定稼働に大きく貢献しているということです。

また、現在は80名以上の日本の研究者がLSSTのデータアクセス権を獲得しており、最先端の研究に参画しています。今後は、ルービン天文台が広い空を頻繁に観測して突発的な現象をいち早く発見し、その情報をもとにすばる望遠鏡の超広視野多天体分光器「オーノヒウラPFS」が対象天体を詳細に観測するという、相補的な観測戦略が展開される予定です。

天文学の新たな時代の幕開け

LSSTにおける1週間の観測範囲の例を示した図。タイルの色は使用される6種類のフィルターに対応している(Credit: NSF–DOE Vera C. Rubin Observatory/NOIRLab/SLAC/AURA)
【▲ LSSTにおける1週間の観測範囲の例を示した図。タイルの色は使用される6種類のフィルターに対応している(Credit: NSF–DOE Vera C. Rubin Observatory/NOIRLab/SLAC/AURA)】

LSSTの10年間にわたる観測が完了すると、最終的に約30ペタバイトに及ぶデータが蓄積され、約200億個の銀河や約170億個の星々のカタログが完成する見込みです。

NOIRLabを所管するNSF(アメリカ国立科学財団)のBrian Stone長官代行は、「ルービン天文台は知識のフロンティアを夜毎に拡大していく」と述べています。これからの10年は、世界中の研究者がかつてない規模のデータにアクセスし、ダイナミックに変化する宇宙の姿を解き明かしていくことができる、天文学の新たな発見のフェーズと言えるかもしれません。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典