広告
広告
観測史上最古の「瞬く」クエーサー 初期宇宙のブラックホールをめぐる謎がさらに深まる?

MIT(マサチューセッツ工科大学)のGene C. K. Leung氏を筆頭とする研究チームは、ビッグバンからおよそ8億5000万年後という初期宇宙に存在したクエーサーが、まるで瞬くように光度を変化させていたとする研究成果を発表しました。

研究チームによれば、今回確認されたクエーサーの変光は、同様の現象としては観測史上最も古い事例になるということです。研究チームの成果をまとめた論文は「Nature Astronomy」に掲載されています。

超大質量ブラックホールを取り囲む降着円盤の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)
【▲ 超大質量ブラックホールを取り囲む降着円盤の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

初期宇宙で発見された「瞬く」クエーサー

私たちの住む天の川銀河をはじめ多くの銀河の中心には、太陽の数十万~数十億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)が存在すると考えられています。

ブラックホールそのものは光を発しませんが、強大な重力で周囲のガスを引き寄せて飲み込む際に、渦巻く「降着円盤」を形成します。この円盤内でガスが激しく摩擦し合って加熱されることで、ブラックホールの周囲から強力な電磁波が放射されるようになります。銀河中心におけるこうした領域は「活動銀河核(AGN)」と呼ばれており、その中でも特に明るく輝くものは「クエーサー」と呼ばれます。

今回の研究の対象となったのは、約130億年前に存在した「J043947.08+163415.7」(以下「J0439+1634」)と呼ばれるクエーサーです。J0439+1634は、地球との間にある別の銀河による重力レンズ効果(※)によって本来の約50倍の明るさに増光されて見えており、詳細に観測するための好条件が揃っていました。

※…手前にある天体の大きな質量によって周囲の時空間がゆがみ、その背後にある遠方の天体から発せられた光の経路が曲げられることで、遠方天体の像がゆがんだり拡大して見えたりする現象。

MITによると、これまで物理学者たちは、初期宇宙で形成されたばかりのブラックホールは未発達であり、その周囲の降着円盤は膨らんでいて混沌とした不安定な状態にあると想定していました。特にJ0439+1634は、理論上の限界の約6割(エディントン比約60%)に達するハイペースで物質を飲み込んでいる状態であり、現在の宇宙で見られるブラックホールとは異なる円盤構造を持つと考えられていたのです。

想定外だった「薄くて平らな」降着円盤

ところが、NASA(アメリカ航空宇宙局)の赤外線天文衛星「NEOWISE」が14年間にわたって収集した観測データを研究チームが解析した結果、J0439+1634は長期間にわたって約20%の振幅でランダムに変光していることが確認されました。

研究チームによると、赤外線やX線といった様々な波長で変光の様子を分析した結果、J0439+1634の降着円盤は「幾何学的に薄くて光学的に厚い(不透明)」という、現在の宇宙におけるブラックホールにみられるものと同様の、平らなパンケーキ状の構造をしていることが判明しました。これは、初期宇宙の環境において急激なペースで物質を取り込んでいる状態であっても、すでに現在の宇宙と同様の降着プロセスや構造が存在していたことを意味しています。

ちなみに、遠方宇宙の天体を観測すると、宇宙の膨張によって電磁波の波長が引き伸ばされるだけでなく、時間の経過も引き延ばされたように見えます(時間的遅れ)。そのため、実際にはクエーサーの周辺で起きた数週間にわたる変化を捉えるだけでも、地球上では数か月~数年スパンの観測が必要になります。NEOWISEが全天を対象とした観測を通じて長期間にわたって蓄積してきたデータは、この課題を克服する鍵になったといいます。

深まる「ブラックホールの急速な成長」の謎

今回の成果は、初期宇宙に存在したクエーサーの変光が、当時のブラックホールの質量や降着円盤の物理状態を直接的に解き明かす手がかりになり得ることを実証しました。その一方で、「どうして宇宙の歴史の非常に早い段階で超大質量ブラックホールが存在し、短期間で成長することができたのか」という、宇宙論における長年の謎をさらに深めることにもなりました。

論文の共著者であるMITのAnna-Christina Eilers氏は、「私たちが明るいクエーサーとして観測する前の極めて早い段階で、ブラックホールの急速で混沌とした成長期はすでに終わっていることを示唆しています」と述べています。

今後はチリのベラ・ルービン天文台や、NASAが2026年8月に打ち上げを予定しているナンシー・グレース・ローマン(Nancy Grace Roman)宇宙望遠鏡といった次世代の観測施設によって、より多くの“瞬く”クエーサーが発見・観測されることで、初期宇宙における超大質量ブラックホールの成長メカニズム解明に近づくことが期待されています。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

関連記事

参考文献・出典