広告
広告
楕円軌道のホットジュピター「TOI-1355 b」を発見 2033年半ば以降は観測できなくなる?

東京大学大学院総合文化研究科の渡辺紀治氏を筆頭とする研究チームは、太陽系から約800光年離れた恒星を公転する「ホットジュピター」(高温の巨大ガス惑星)を発見したとする研究成果を発表しました。

この惑星は地球から見て恒星の手前を横切る「トランジット」の観測を通じて発見されたものの、2033年半ば以降は、その様子が地球から観測できなくなる可能性があるといいます。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載されています。

恒星の近くを公転する「ホットジュピター」の想像図(Credit: ESO/L. Calçada)
【▲ 恒星の近くを公転する「ホットジュピター」の想像図(Credit: ESO/L. Calçada)】

恒星の近くに巨大ガス惑星が存在するのはなぜ?

ホットジュピターとは、恒星のすぐ近くを10日以内の周期で公転する、木星のような巨大ガス惑星を指します。

研究チームによると、ホットジュピターはもともと恒星から離れた場所で誕生し、その後に恒星の近くへ移動したと考えられています。その仕組みのひとつと考えられているのが「高離心率移動」です。離心率とは円の形が真円からどれくらい歪んでいるのかを示す値(※)で、大きいほど細長い楕円形であることを意味します。

※…ある天体を周回する軌道の場合は、0から1未満の範囲になる。離心率が1の時は放物線、1を超えると双曲線となり、天体を周回する軌道にはならない。

ホットジュピターの場合、恒星から遠くで形成された巨大ガス惑星が、そのさらに外側を公転する別の重い惑星や主星の伴星(連星の軽い方の恒星)の重力を受けることで軌道の離心率が一時的に高まって細長い楕円形に変化した後、恒星に最も近づく地点で潮汐力の影響を受けて軌道が縮むことで、誕生した場所よりもずっと恒星に近い軌道へ移動したと考えられています。軌道が一時的に高い離心率になる過程を経て移動することが、この名の由来です。

高離心率移動の概要図。主星から離れた軌道で形成された巨大ガス惑星(1)の軌道が、別の惑星や伴星の影響で細長い楕円形(2)に乱された後、主星の潮汐力によって真円に近い軌道(3)に変化することでホットジュピターになると考えられている。東京大学のプレスリリースから引用(Credit: 東京大学)
【▲ 高離心率移動の概要図。主星から離れた軌道で形成された巨大ガス惑星(1)の軌道が、別の惑星や伴星の影響で細長い楕円形(2)に乱された後、主星の潮汐力によって真円に近い軌道(3)に変化することでホットジュピターになると考えられている。東京大学のプレスリリースから引用(Credit: 東京大学)】

ところが研究チームによると、表面温度が6000℃以上の恒星を周回する既知のホットジュピターの公転軌道は、大半が真円に近い形をしています。そのため、「細長い楕円形の軌道を経て恒星に近づく」という高離心率移動を直接裏付ける観測的な証拠は限られていました。

高離心率移動を裏付ける楕円軌道の発見

研究チームは今回、表面温度が太陽よりも3000℃近く高い約8400℃の恒星「TOI-1355」に注目しました。

TOI-1355では、NASA(アメリカ航空宇宙局)の系外惑星探査衛星「TESS」が、約2日周期で繰り返される減光を捉えていました。周期的な減光は、連星をなす2つの恒星が互いを隠し合う場合(食連星)の他に、惑星が手前を横切るトランジットなどでも起こります。

研究チームがTOI-1355の観測データを詳しく調べた結果、この減光は木星の約5.8倍の質量を持つ太陽系外惑星がトランジットを起こしたことで生じたことが明らかになりました。

「TOI-1355 b」と呼ばれるこの惑星は、ややつぶれた楕円軌道(離心率は約0.22)を公転しています。より真円に近い軌道へ変化する途中の段階だと考えられることから、前述の高離心率移動を裏付ける成果だと受け止められています。

太陽系外惑星「TOI-1355 b」の軌道を示した図。地球からは主星である恒星「TOI-1355」の縁をかすめるように見える角度となっている。東京大学のプレスリリースから引用(Credit: 東京大学)
【▲ 太陽系外惑星「TOI-1355 b」の軌道を示した図。地球からは主星である恒星「TOI-1355」の縁をかすめるように見える角度となっている。東京大学のプレスリリースから引用(Credit: 東京大学)】

トランジットを観測できなくなる日が近い?

興味深いことに、研究チームはTOI-1355 bの軌道全体の向きが、まるでコマの首振り運動(歳差運動)のように少しずつ変わっていく様子も検出しました。太陽系外惑星でこの現象が確認されたのは、TOI-1355 bが5例目だといいます。

地球からトランジットを観測するには、地球から見た惑星の軌道が恒星に重なっている必要があります。さもなければ惑星が恒星を隠すことはなく、減光も生じないからです。

軌道全体の向きが徐々に変化しているTOI-1355 bの場合、1901年頃からトランジットが観測できるようになったものの、2033年半ば頃には軌道がTOI-1355と重ならなくなってしまい、トランジットも観測できなくなると推測されています。

2026年時点では、TOI-1355 bは地球から見たTOI-1355の縁をかすめるような位置でトランジットを起こしています。トランジットが観測できなくなるギリギリのタイミングで、幸運にもTOI-1355 bを発見できたことになります。

太陽系外惑星「TOI-1355 b」の軌道が変化していく様子を示した図。1901年頃からトランジットが観測できるようになったものの、2033年半ば頃以降は再びトランジットが観測できなくなると推測されている。東京大学のプレスリリースから引用(Credit: 東京大学)
【▲ 太陽系外惑星「TOI-1355 b」の軌道が変化していく様子を示した図。1901年頃からトランジットが観測できるようになったものの、2033年半ば頃以降は再びトランジットが観測できなくなると推測されている。東京大学のプレスリリースから引用(Credit: 東京大学)】

あと7年ほどでTOI-1355 bのトランジットは観測できなくなりますが、それまでに得られたデータはホットジュピター誕生の実態に迫る手がかりになるはずです。今後はジェームズ・ウェッブ(James Webb)宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡などの観測を通じて、TOI-1355 bの大気組成や軌道といった詳細な性質が解明されることに期待が寄せられています。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

関連記事

参考文献・出典