
地球の恒久的な自然衛星は月の1個のみですが、地球は時々、近くを通過する小惑星を捉え、一時的な “第2の月” とすることがあります。これまでにそのような小惑星は5個発見されています。一方で、軌道予測の困難さから、特定の小惑星が遠い過去や未来に “第2の月” になるかどうかを判定するのは困難でした。
マドリード・コンプルテンセ大学のCarlos de la Fuente Marcos氏とRaúl de la Fuente Marcos氏は、直径5~11mの小惑星「2022 RD2」の軌道変化を推定した結果、2043年から2044年の間に3回 “第2の月” になることを予測しました。それに加え、2080年以降の約40年間にわずかながら衝突する可能性があることも示しました。

地球の一時的な “第2の月”
地球の周りを公転する衛星はいくつあるのでしょうか? 普通は月の1個しかないと答えるでしょう。ただしこの答えは、「自然物で恒久的に公転している天体」という但し書きが必要になります。自然物という条件は、人工衛星を排除しているという分かりやすい理由ですが、恒久的という条件は何でしょうか?
太陽系には無数の小惑星があり、地球の近くを通過するものも珍しくありません。ごくまれにではあるものの、地球の近くを通過した小惑星が、太陽を重力的中心とする公転軌道から、地球を重力的中心とする公転軌道へ変化してしまうことがあります(※1)。もう少し分かりやすく言えば、地球が重力を使って小惑星を捕獲することがあるということです。
※1…より正確な定義は文献に依ります。最低でも、地球を中心とした軌道エネルギーがマイナスの値を取ることが条件ですが、今回の研究ノートはそれに加え、地球を中心とした軌道離心率が1未満となるような公転軌道であることも追加しています。
地球を重力的中心とする公転軌道であるため、この状態の小惑星はまさしく地球の衛星と言えます(※2)。ただし、その軌道は不安定であり、地球の衛星である期間は数か月から数年と一時的です。このように、一時的に衛星となる小惑星は「不規則天然衛星(NES; Irregular Natural Satellites)」と呼ばれることもありますが、どちらかと言えば論文のような正式な場でも “第2の月” や “ミニムーン” のような口語表現が使われることが珍しくありません。
※2…これに対し、見た目こそ地球を中心として周回して見えるものの、実際には太陽を重力的中心とする天体を「準衛星(Quasi-Satellite)」と呼びます。 “衛星” という名がついているものの、力学的には衛星ではありません。

実は “第2の月” が出現すること自体は珍しくない現象であると考えられています。例えば今この瞬間も、直径1mほどの小惑星が地球の “第2の月” となっているはずです。
ただ、直径1mはよほど条件が良くなければ発見できないサイズであるため、実際には大半の “第2の月” は見逃されているはずです。現在のところ、実際に “第2の月” であることが確実視されている天体は「1991 VG」「2006 RH120」「2020 CD3」「2022 NX1」「2024 PT5」の5個があります(※3)。
※3…流星や火球に関連する天体が、落下前に地球の周回軌道に乗っていたとする推定も2例ありますが、どちらも確実なことは分かっておらず、また小惑星としてはカウントされていません。
それに加え、遠い過去や未来に “第2の月” の条件を満たすであろう天体の候補もあります。例えば「2023 FY3」は、1914年以前や2044年以降には “第2の月” となっている可能性が推定されています。ただ、軌道データの不確実性の問題から、正確な時期ははっきりとしておらず、本当に “第2の月” となるかどうかは不確実です。
2022 RD2は約20年後に “第2の月” となる
マドリード・コンプルテンセ大学のCarlos de la Fuente Marcos氏とRaúl de la Fuente Marcos氏は、「2022 RD2」という小惑星の公転軌道の変化を推定した結果、その結果が興味深いとする内容を、アメリカ天文学会が発行する研究ノートに掲載しました。
2022 RD2は、2022年9月2日に掃天観測プロジェクト「Pan-STARRS」によって発見された、直径5~11mというかなり小さな小惑星です。この小惑星の公転軌道が、地球の公転軌道ととても似ていることから、変わった公転軌道の変化をする可能性があると予想されたため、過去と未来、それぞれ150年分の公転軌道の変化が計算されました。

その結果、2つの興味深い結果が得られました。1つ目は、2022 RD2は約20年後の2043年から2044年にかけて “第2の月” になるというものです。その期間は以下の通りと推定されます。
A. 2043年11月12日から2043年12月12日(31日間)
B. 2044年2月29日から2044年5月21日(83日間)
C. 2044年7月10日から2044年7月29日(20日間)
あくまで計算による推定であるため、正確な日付や期間にズレが生じる可能性がありますが、いずれにしてもこの2043年から2044年の期間中、2022 RD2は “第2の月” となっている可能性が高いです(※記事末尾に補足あり)。なお、 “第2の月” となっている期間の短さから、どれも地球の周りを1周することなく離脱してしまうことが予想されます。
2つ目の結果は、2022 RD2の衝突可能性です(※4)。地球に極端に接近する関係で、軌道の変化が急激となり、2080年以降に衝突する可能性がゼロではなくなるためです。現在の推定では、2080年から2124年の約40年間で、衝突確率がゼロではない接近が合計101回あり、101回分の累積衝突確率は0.097%と計算されています。
※4…なお、 “第2の月” に衝突の可能性が示されたのは今回が初めてではありません。
0.097%という数値は、小惑星の衝突確率としては高めですが、もちろん衝突しない可能性の方がずっと高いです。また、万が一衝突しても心配する必要はないでしょう。直径5~11mというサイズはかなり小ぶりであり、大気圏突入の際に燃え尽きてしまうか、せいぜい小さな破片をばらまく程度で済む可能性が高いからです。
今回の研究結果は、単に地球の衛星が増えるという予告以上の意義があります。特定の小惑星が “第2の月” となったり、衝突可能性がゼロではなくなったりする状況とは、地球に極端に接近するため、その後の軌道が極端に変化し、数十年後の正確な予測が難しくなることを意味するためです。
100年近い小惑星の軌道をこれほどまでに推定できるのは、軌道予測精度の向上に欠かせない、小さな小惑星の正確な観測データがとれていること、その背景となる観測技術の向上が確かなことを意味しています。
補足: “第2の月” のさらに細かい分類について
本文では詳細に触れませんでしたが、今回取り上げた研究ノートでは、 “第2の月” さらに細かい分類に言及があります。
小惑星の軌道要素が、地球を中心とした軌道エネルギーがマイナスの値、軌道離心率が1未満になっている期間中に、地球のヒル球の範囲内(半径約150万km)に入っているものを「ミニムーン(mini-moons)」、そうではないものを「準ミニムーン(quasi-mini-moons)」と区別しています。2022 RD2の場合、一番最後のCの期間中のみ、ミニムーンの基準を一時的に満たすと推定しています。
ただし研究ノートでは、過去に見つかった “第2の月” も含めて、ミニムーンと準ミニムーンの両方を “第2の月” 扱いしています。専門的な内容で混乱をもたらす一方、 “第2の月” についての解説記事の大筋には影響を及ぼさないため、本文では言及を避けました。
ひとことコメント
かなり未来にはなっちゃうけど、 “第2の月” が予定されているのは興味深いね!(筆者)
文/彩恵りり 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- Carlos de la Fuente Marcos & Raúl de la Fuente Marcos. “Rapid Dynamical Evolution in the Arjuna Asteroid Belt: Apollo 2022 RD2 Goes from Mini-moon to Virtual Impactor in About 40 yr”.(Research Notes of the AAS)
- Minor Planet Electronic Circular. “MPEC 2022-R97 : 2022 RD2”.(Minor Planet Center)
- “(2022 RD2) -- Earth Impact Risk Summary”.(Center for Near Earth Object Studies, Jet Propulsion Laboratory)

























