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タイタン内部に広い海は存在しない可能性 土星探査機カッシーニのデータを再解析

こちらは、土星の衛星Titan(タイタン、ティタン)。背景は土星で、帯状の影を落とす環や、別の衛星Dione(ディオネ)も一緒に写っています。

NASA=アメリカ航空宇宙局とESA=ヨーロッパ宇宙機関の土星探査機「Cassini(カッシーニ)」が、2011年5月21日に撮影しました。

NASAとESAの土星探査機「Cassini(カッシーニ)」が撮影した土星の衛星Titan(タイタン)とDione(ディオネ)(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)
【▲ NASAとESAの土星探査機「Cassini(カッシーニ)」が撮影した土星の衛星Titan(タイタン)とDione(ディオネ)(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)】

近年、木星や土星を公転する氷と岩でできた衛星の内部には、氷が溶けてできた内部海が存在するのではないかと考えられ、注目されています。代表例はプルーム(水柱、間欠泉)が観測された土星の衛星Enceladus(エンケラドゥス)や、木星の衛星Europa(エウロパ)です。

内部海が注目されるのは、そこで生命が誕生している可能性があるからです。数km~数十kmもの厚さがある氷に蓋をされた太陽光の届かない海ですが、地球の海底でみられる熱水噴出孔のような場所があれば、そこで得られる化学物質を利用した生態系が構築されているかもしれません。

プルームは観測されていないものの、Cassiniのミッションを通じて得られたデータをもとに、Titanにも内部海が存在するのではないかと考えられてきました。

しかし今回、JPL=ジェット推進研究所の博士研究員Flavio Petriccaさんを筆頭とする研究チームは、Cassiniのデータを改めて詳しく調べた結果、Titanには全球規模の内部海は存在しない可能性が高いとする研究成果を発表しました。

Titanの内部では高圧の氷が循環している可能性

氷衛星の内部で大量の氷が溶けて液体の水になり、広大な海が形成されているかもしれない。この仮説を支えているのは、惑星や他の衛星がもたらす潮汐力によって天体の内部が変形を繰り返し、エネルギーが散逸する過程で内部から加熱される「潮汐加熱」と呼ばれる現象です。

木星の衛星Io(イオ)には活発な火山が400以上もありますが、その熱源となっているのが潮汐加熱だと考えられています。Ioの外側を公転するEuropaでも、同じように潮汐加熱で内部が温められることで氷が溶け、海が形成されているのではないか……というわけです。

また、Enceladusでは活発に噴き出すプルームがCassiniによって観測されていて、その氷粒は土星の環の一部であるE環を形成していることも知られています。

土星の衛星Titan(タイタン)の近くを飛行する土星探査機「Cassini(カッシーニ)」のCGイメージ(Credit: NASA/JPL-Caltech)
【▲ 土星の衛星Titan(タイタン)の近くを飛行する土星探査機「Cassini(カッシーニ)」のCGイメージ(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

Titanの場合は、近くを飛行したCassiniの速度に生じたわずかな変化が、内部構造を推定する手がかりとして利用されてきました。

探査機と地上の基地局は、決まった周波数を使って交信しています。ところが、探査機が天体の近くを飛行すると、重力場の変化にともなって探査機の速度がわずかに増減するため、探査機から送信された電波にはドップラー効果による周波数のわずかな変化が生じます。この周波数の変化から速度の変化を割り出し、さらに速度を変化させた重力場の知見を得ることで、天体の内部構造を推定することができるのです。

Petriccaさんたちは、Cassiniの電波に生じたドップラー効果のデータに新しい処理技術を適用し、ノイズを低減させた上で、周波数に生じた変化の根本的な原因……すなわちTitanの内部で起きていることを改めて探りました。

その結果、Titanの内部では強いエネルギーの散逸が起きている可能性が示されました。内部で多くのエネルギーが生み出されているのであれば、それだけ多くの水が溶けているのではないかと思ってしまいますが、内部海があると潮汐力によるエネルギーの散逸は抑制される傾向があるため、今回算出された散逸の強さは内部海の存在を否定することになるといいます。

内部海がある場合とない場合のモデルを用いてTitanの内部構造を分析した研究チームは、表面の氷殻と中心の岩石コアの間にあるのは、融点に近い高圧の氷の層である可能性が高いと結論付けました。エネルギーの散逸はこの層に集中していて対流も起きており、点在する部分的に溶けた水が氷の対流に乗って、氷殻近くに向かってゆっくりと運ばれているのではないかと考えられています。

今回の研究で示された土星の衛星Titan(タイタン)の内部構造を示した図。氷殻と岩石コアの間には高圧の氷の層があり、部分的に溶けた水が点在していて、氷の循環に乗って岩石コアから氷殻へと移動している可能性があるという(Credit: Petricca et al.)
【▲ 今回の研究で示された土星の衛星Titan(タイタン)の内部構造を示した図。氷殻と岩石コアの間には高圧の氷の層があり、部分的に溶けた水が点在していて、氷の循環に乗って岩石コアから氷殻へと移動している可能性があるという(Credit: Petricca et al.)】

地震計を搭載したNASAのDragonflyミッションで検証される可能性

Titanの内部に広い海はなさそうだ。そんな可能性を示した今回の研究ですが、生命が存在する可能性までを否定するものではないようです。

Petriccaさんによれば、研究チームは高圧の氷の層の内部で部分的に溶けた液体の水の温度を、摂氏20℃程度と推定しました。この水は岩石コアからスタートして、シャーベットのような高圧の氷の層を通過し、表面の氷殻へと栄養素を循環させている可能性があるといいます。生命のしぶとさ、たくましさを考えれば、ひょっとしたら……と期待してしまいます。

今回の研究成果は、それほど遠くない将来に検証されるかもしれません。NASAはTitan表面での探査を目的としたミッション「Dragonfly(ドラゴンフライ)」の実施を計画しており、ドローン型の探査機を2028年以降に打ち上げる予定です。Dragonflyには地震計が搭載されているので、Titanの内部構造に関する重要なデータが得られるかもしれません。

土星の衛星Titan(タイタン)の空を飛行するNASAの「Dragonfly(ドラゴンフライ)」探査機のCGイメージ(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)
【▲ 土星の衛星Titan(タイタン)の空を飛行するNASAの「Dragonfly(ドラゴンフライ)」探査機のCGイメージ(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)】

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典