
宇宙には、2つの天体が互いの重力に引かれて回り合う「連星」が数多く存在します。法政大学、東京大学、北京大学の研究者からなる研究チームは、こうした連星が周囲のガスと磁場の働きによって互いの距離を縮めていくという、新たな軌道進化のシナリオを発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は、学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載されています。

長年の謎だった「連星が近づく仕組み」
太陽のような恒星には、単独ではなくペアで生まれるものが数多くあり、そのなかには質量がよく似た双子のような星も存在します。また、多くの銀河の中心には太陽の数十万~数十億倍の質量を持つ超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)が存在するとみられており、銀河どうしが衝突・合体した際には、こうした巨大なブラックホールも連星を形成すると考えられています。
しかし、観測されるような至近距離で回り合う“双子星”がどのようにしてそこまで接近したのか、また、巨大なブラックホールのペアがどのようにして最終的に合体するに至るのかは、天文学における長年の謎でした。その理由は、連星が持つ角運動量、簡単に言えば回転の勢いです。連星をなす天体どうしが近づくためには、角運動量を外へ逃がさなければならないからです。
角運動量を逃がす鍵ではないかと考えられてきたのは、宇宙空間に存在するガスです。星が誕生する際や、銀河が合体する際には、連星の周囲に豊富なガスが存在するからです。ただしこれまでの研究では、連星の周囲に存在するガスは連星を引き離す(連星の軌道を広げる)方向にはたらく場合もあることが示されており、連星が接近するメカニズムをうまく説明できていなかったといいます。
磁場とガスが回転の勢いを奪う?

今回、研究チームは連星の周囲に外側からガスが流れ込み続ける状況に加えて、磁場の効果を取り入れた研究を行いました。宇宙空間では、磁場にはガスの流れを大きく変える働きがあります。
研究チームは国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイIII」などを活用して、連星の動きやその周囲を取り囲むガスでできた周連星円盤、それに磁場の様子を同時に追跡する3次元の大規模なシミュレーションを実施しました。
その結果、磁場が存在する場合には連星の周囲に存在するガスの流れが乱されるとともに、磁場に沿ってガスが上下方向へ細長く吹き出していくアウトフローやジェットが確認されました。これらのガスの働きによって、連星の角運動量が外側へと運び去られることで、2つの天体の間隔が縮んで接近していく可能性が明らかになりました。
研究チームによると、磁場がある場合、連星どうしの間隔は1周するごとに約0.3〜0.7パーセントの割合で縮んでいくことが示されたといいます。

星の誕生から重力波観測への応用まで
今回の研究は、外から流れ込むガスと磁場の効果を同時に考慮することで、連星をなす天体どうしが接近する新たなシナリオを描き出しました。
この成果の重要なポイントは、“双子星”という恒星の形成過程と、銀河中心の巨大なブラックホールどうしの連星の合体という、スケールが大きく異なる現象を、同じ物理の仕組みで説明できる可能性を示した点にあります。
巨大なブラックホールのように極めて高密度の天体が合体する際には、空間のゆがみが波となって伝わる重力波が発生します。研究チームによれば、今回示されたガスと磁場による軌道の縮小メカニズムは、将来得られることが期待される非常に低い周波数の重力波の観測データを解釈する上でも、重要な手がかりになる可能性があるといいます。
今後は、さらに長時間のシミュレーションや多様な条件での計算が行われることで、この仕組みが宇宙のどのような環境でどれほど有効にはたらくのか、さらなる解明が進むことが期待されます。
【▲ 国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイIII」で計算された、連星周囲のガスの様子(動画バージョン)(Credit: 国立天文台, Matsumoto, Hotokezaka, Inayoshi 2026)】
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- 国立天文台 天文シミュレーションプロジェクト - 近づく双子の天体、ブラックホール合体への道も開く
- Matsumoto, Hotokezaka and Inayoshi - Magnetic-field-induced inspiral of binaries with circumbinary disc: black hole and protostellar systems (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)























