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謎の重力源「暗黒物質」の痕跡を「重力波」から見つけたかもしれない?

私たちの宇宙には、重力でしかその存在を知ることができない「暗黒物質(ダークマター)」があると考えられています。その正体は現在でも分かっておらず、正体の絞り込みに関する研究は現在も続けられています。

ルーヴァン・カトリック大学(Université Catholique de Louvain)のSoumen Roy氏などの研究チームは、ブラックホール同士の合体で発生する時空のさざ波「重力波」の中に暗黒物質に関する情報が含まれている可能性を探るため、重力波の情報を数学的に解析する研究を行いました。

その結果、1つの重力波イベント「GW190728」の中に、軽い粒子でできた暗黒物質の存在を示唆する情報が含まれていることが分かりました。ただし今回の解析結果は、あくまでも暗黒物質の検出を示唆するに留まっており、「重力波を通じて暗黒物質を発見した “かもしれない” 」以上のことは主張できません。

とはいえ、興味深い結果であることは確かであり、今後数年間の重力波観測によって、もっとはっきりしたことが分かるようになるかもしれません。

「暗黒物質」と「重力波」、重力に関連する2つのモノ

図1: ALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)の観測結果を元に作成された、数万光年単位の暗黒物質の濃度分布。暗黒物質の存在自体は様々な観測によって示されているものの、その正体は一向に分かっていません。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K.T. Inoue et al.)
【▲ 図1: ALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)の観測結果を元に作成された、数万光年単位の暗黒物質の濃度分布。暗黒物質の存在自体は様々な観測によって示されているものの、その正体は一向に分かっていません。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K.T. Inoue et al.)】

私たちの宇宙には、恒星などの目に見える物質の他に、重力によってその存在を知ることができる「暗黒物質」があると考えられています。暗黒物質は、目に見える物質の5倍も存在するとされていますが、その正体は現在でも不明のままです。

目に見える物質は光(電磁波)を使うことで観測できますが、暗黒物質は光とほとんど、あるいは全く反応しないため、重力のみでその存在を知ることができます。ただし、遠く離れた場所にある暗黒物質の重力を直接観測する手段はないため、重力によって光が曲げられる現象(重力レンズ効果)を使うなど、その観測方法は間接的な手段となります。直接観測ができないのは、暗黒物質の正体を突き止める上での大きな障害となっています。

図2: 合体直前のブラックホール連星で発生する重力波のイメージ画像。重力波は、時空の歪みの変化が波として周りへと広がる現象です。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab)
【▲ 図2: 合体直前のブラックホール連星で発生する重力波のイメージ画像。重力波は、時空の歪みの変化が波として周りへと広がる現象です。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab)】

ところで「重力によって光が曲げられる」と書きましたが、もう少し正確に言えば「重力とは時空の歪みであり、この歪みに沿う形で光が進むため、進路が曲がる」と表現することができます。これは一般相対性理論の基本的な考えとなっていますが、この「重力=時空の歪み」という考えから派生して、「重力波」という現象が起こることが分かっています。

重力波は、時空の歪みの変化が周りへと広がる現象であり、その様子から時空のさざ波とも表現されます。この重力波には、重力に関連した現象、特に重力が激しく変化する環境の情報が含まれているため、宇宙物理学ではその観測は重要視されています。2015年に初めて観測に成功して以降、現在までに数百回の重力波の観測に成功しています。

観測された重力波には様々な情報が含まれているため、個々の解析は現在でも進められています。観測された重力波のほとんどは、重いブラックホール同士の連星が合体する、最後の数分間・数秒間の情報が含まれています。

重力波は暗黒物質の情報を運んでいる?

ここまでの話を踏まえると、「重力波が重力に関連した現象の情報を含んでいるならば、暗黒物質の情報も含んでいるのではないか?」と考える方もいるかもしれません。実際、そのような考えの下で暗黒物質の性質を絞り込もうとする研究もあります。

現在、暗黒物質の正体は未知の軽い粒子ではないかとするのが主流の考えですが、これに加えて特定の性質(※1)を持つならば、重力波に暗黒物質の情報が含まれる可能性があります。そして、もしも暗黒物質が光と全く反応しない性質である場合、重力波は暗黒物質の性質を調べる唯一の手段となります。

※1…この研究ではスカラーボソン(スピンがゼロのボース粒子)であることを仮定しています。

高速で自転するブラックホールの周辺に、このような粒子が存在すると、興味深い現象が起きると考えられます。まず、ブラックホールの周辺には、重力に引き寄せられた暗黒物質が固まって存在します。そして、暗黒物質を作る軽い粒子は、粒としての性質だけでなく、波としての性質も強く現れる傾向にあります(※2)

※2…量子力学によれば、全ての粒子は粒としての性質と波としての性質を常に両方持っています(粒子と波動の二重性)。どちらがどれだけ強いのかは、粒子の性質や環境によって変化します。

自転するブラックホールの周辺に軽い粒子があると、ブラックホールの自転のエネルギーが粒子に伝わることが半世紀ほど前から知られています。これを暗黒物質に当てはめれば、自転するブラックホールから、波の性質を持つ暗黒物質へとエネルギーが伝わり、高密度の塊へ変化させることが予測されます。マサチューセッツ工科大学のプレスリリースでは、このことを「まるでクリームをバターへ変えるかのように」とたとえています。

この現象が起こるとすると、ブラックホール周辺の暗黒物質の平均密度は1立方cmあたり1000トンに達する可能性があります。これは、銀河などの普通の環境に存在する暗黒物質と比べて1兆×1兆×数百万倍も高密度です。これだけ高密度な塊を通過すれば、重力波にも観測可能な影響が現れるはずです。このため、ブラックホール同士の合体によって発生した重力波を解析すれば、暗黒物質の痕跡を見つけることができるかもしれません。

重力波の中に暗黒物質の痕跡を見た……かもしれない

図3: 今回の研究手法を表したイメージ図。ブラックホールの周りを取り囲むように高密度の暗黒物質があった場合は、暗黒物質がない場合と比べて、観測される重力波信号に変化が現れます。(Credit: Soumen Roy, et al. / 筆者(彩恵りり)により動画からキャプチャ、および日本語を書き加えている)
【▲ 図3: 今回の研究手法を表したイメージ図。ブラックホールの周りを取り囲むように高密度の暗黒物質があった場合は、暗黒物質がない場合と比べて、観測される重力波信号に変化が現れます。(Credit: Soumen Roy, et al. / 筆者(彩恵りり)により動画からキャプチャ、および日本語を書き加えている)】

ルーヴァン・カトリック大学のSoumen Roy氏などの研究チームは、現在までに観測されている重力波イベントの中に暗黒物質の痕跡が含まれているかどうかを調査しました。今回の研究では、世界で稼働している3つの重力波望遠鏡「LIGO(アメリカ)」「Virgo(イタリア)」「KAGRA(日本)」によって観測された重力波のデータについて、数学的な解析を行いました。

かいつまんで言えば、重力波のデータの中から、暗黒物質の存在を示す情報を抜き出すことができるのかどうかを解析しています。もしもブラックホールの周りに高密度の暗黒物質の塊があれば、その影響を考慮しなければ説明のつかない情報が含まれているからです。

しかし、重力波は数百万光年以上の彼方から地球へと届いているため、途中にある天体やガスの影響も受けている可能性があります。このため今回の解析では、暗黒物質がある場合とない場合のそれぞれについて、地球で受信可能な重力波をシミュレーションし、区別可能な違いがあるかどうかを検討しました。

今回の解析では、信号がはっきりしている全28回の重力波イベントを対象に、暗黒物質の影響を示す情報が含まれているかどうかを検討しました。その結果、ほとんど全ての重力波イベントでは、暗黒物質の存在を示唆する情報は含まれていませんでした。しかし全28回中の1回、2019年7月28日に観測された「GW190728」だけは別でした。

GW190728は、約6:4の質量比を持つブラックホール同士の衝突で、太陽の約20倍の質量を持つブラックホールができたイベントであると解釈されています。Roy氏らは今回の解析を通じて、GW190728の重力波には、高密度の暗黒物質の塊がブラックホールの周辺にあることを示す情報を含んでいるかもしれないと主張しています。この場合、暗黒物質を構成する粒子は、質量が電子の約50京分の1(1兆分の1電子ボルト)という、極めて軽いものとなります。

はっきりしたことが分かるのはもう少し先

ただし注意しないといけないのは、今回の研究結果はあくまで「かもしれない」レベルであるということです。現時点では「重力波を通じて暗黒物質を発見した “かもしれない” 」とは言えても、確定的に言うことはできません。

確かに、GW190728の重力波信号には、暗黒物質の塊を通過したと解釈できる情報が含まれていますが、暗黒物質の塊でなければ説明できない情報というわけでもありません。今回の研究の場合、信号に影響を与える他の要素(※3)を考慮しながら解析を行いましたが、その考慮が十分かどうかが分かっていないことは、結果が確定できないことに影響しています。

※3…ブラックホール連星の公転の性質、重力波望遠鏡が受ける潮汐力など。

GW190728の重力波信号に本当に暗黒物質の情報が含まれているのかどうかを結論付けるには、さらに多くの研究が必要となります。現在、LIGO-Virgo-KAGRAの3つの重力波望遠鏡は、個々の設備改修やお互いの連携強化により、重力波信号の質を高めるアップグレードが行われています。また「アインシュタイン望遠鏡」や「コズミック・エクスプローラー」など、次世代の重力波望遠鏡の建設も進められています。

重力波の信号の質が高まれば、重力波に暗黒物質の情報が含まれているかどうかについて、これまでよりも明確な回答が得られるようになるでしょう。これは、ブラックホールの周辺に暗黒物質があるのかないのかを決めるだけでなく、暗黒物質を構成する粒子の性質を絞り込むことにも繋がります。

重力波の観測体制を拡充することは、目に見える物質の5倍もありながら、性質を知る方法が重力波のみかもしれない暗黒物質の研究に役立つのかもしれません。

ひとことコメント

今回の研究結果は、数年後には答え合わせができるかもしれないから、期待して待ってみたいところよね。(筆者)

 

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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参考文献・出典