広告
広告
ESA宇宙望遠鏡「ユークリッド」のデータから観測史上最古のクエーサーを発見 約131億年前に存在

ライデン大学のDaming Yang氏を筆頭とする国際的な研究チームは、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)のユークリッド(Euclid)宇宙望遠鏡の観測データをもとに、初期宇宙に存在した「クエーサー」を新たに31個発見したとする研究成果を発表しました。

研究チームによると、今回発見されたクエーサーのうち2つは、観測史上最も古いクエーサーの記録を更新するものとなりました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Astronomy & Astrophysics」に掲載されています。

銀河全体よりも明るく輝く「クエーサー」

私たちが住む天の川銀河をはじめ、多くの銀河の中心には、太陽の数十万~数十億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)が存在すると考えられています。

ブラックホールそのものは光を発しませんが、強大な重力で周囲のガスなどを引き寄せて飲み込む際に、渦巻く「降着円盤」が形成されます。この円盤内でガスが激しく摩擦し合って加熱されることで、ブラックホールの周囲から強力な電磁波が放射されるようになります。

銀河中心におけるこうした領域は「活動銀河核(AGN)」と呼ばれており、その中でも特に明るく輝くものは「クエーサー」と呼ばれます。クエーサーから放出されるエネルギーは莫大であり、母銀河全体を数百倍から数千倍も上回る明るさで輝くことさえあります。

クエーサーの想像図(Credit: ESA)
【▲ クエーサーの想像図(Credit: ESA)】

初期の宇宙に存在していたクエーサーを観測することは、天文学において極めて重要な意味を持ちます。はるか遠方から届いた光は、過去の宇宙を知る手がかりになるからです。特に、「宇宙の再電離」と呼ばれる、宇宙空間を満たしていた中性水素ガスが初期の星々によって再び電離していった時代(宇宙誕生から10億年後頃まで)を理解する上で、クエーサーは非常に強力な道標になるといいます。

しかし、初期宇宙の天体は単純に遠すぎて非常に暗いうえに、宇宙の膨張にともなう赤方偏移によって波長が引き伸ばされてしまい、可視光線だった光は地球に届くまでに赤外線になっています。こうした事情から、これまでは例外的に明るい少数のクエーサーしか発見することができていませんでした。

ユークリッド宇宙望遠鏡と地上の大型望遠鏡が連携

この困難な状況を打開したのは、2023年に打ち上げられたユークリッド宇宙望遠鏡です。最終的に全天の約3分の1を観測する予定のユークリッドは、広い視野と高い近赤外線感度をあわせ持っており、広大な宇宙空間から効率的に暗いクエーサーの候補を絞り込む能力に長けているといいます。

研究チームは、ユークリッドが最初の1年半で観測した約3000平方度のデータからクエーサーの候補を抽出し、アメリカ・ハワイ州のケック望遠鏡やチリのマゼラン望遠鏡、アメリカ・アリゾナ州の大型双眼望遠鏡(LBT)などで分光観測(電磁波の波長ごとの強さの分布であるスペクトルを得る観測手法)を実施しました。

日本の国立天文台によると、ユークリッドの膨大なデータから効率的に候補を絞り込む過程では、国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ(HSC)による可視光観測データも重要な役割を果たしています。

ユークリッド(Euclid)宇宙望遠鏡の観測データから見つかったクエーサーのうち15個を示した図。上段の左から1番目と2番目が観測史上最古の記録を更新した2つのクエーサー(Credit: ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by the Euclid Science Ground Segment and Antoine Basset (CNES))
【▲ ユークリッド(Euclid)宇宙望遠鏡の観測データから見つかったクエーサーのうち15個を示した図。上段の左から1番目と2番目が観測史上最古の記録を更新した2つのクエーサー(Credit: ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by the Euclid Science Ground Segment and Antoine Basset (CNES))】

分析の結果、31個の天体が初期宇宙のクエーサーであることが確定しました。このうち12個は赤方偏移z=7以上、言い換えれば約130億年以上前に存在していたクエーサーです。これまでz=7以上のクエーサーは9個しか知られていませんでしたが、今回の発見により、これほど昔に存在していた既知のクエーサーの数が2倍以上に増えたことになります。

さらに、「EUCL J172902.75+641018.1(z=7.77)」と「EUCL J125308.55+705432.3(z=7.69)」の2つは、宇宙誕生からわずか約6億7000万年の間に存在していたクエーサーであり、研究チームによれば観測史上最も古いクエーサーの記録を更新することになりました。

銀河と巨大なブラックホールの誕生・成長の解明に期待

ユークリッド宇宙望遠鏡の観測データがもたらした今回の成果は、ごく一部の明るいクエーサーだけでなく、より一般的な比較的暗いクエーサー複数を捉えることに成功したという点で、状況を大きく変え得るものと受け止められています。

ユークリッドのプロジェクトサイエンティストを務めるESAのValeria Pettorino氏は、今回の成果について「ユークリッドの能力は比類のないものであり、これまでよりもはるかに効率的に極めて遠方の天体を拾い上げることができる」と述べています。

また、論文の筆頭著者であるYang氏は、こうしたクエーサーを見つけ出して研究することで、超大質量ブラックホールがどのように初期宇宙で形成され、短期間で巨大化したのかという天体物理学最大の謎をより深く理解できるとしています。

ユークリッドのミッションはまだ序盤であり、国立天文台によれば、今後の6年間の観測で数百もの初期宇宙のクエーサーが発見されると期待されています。観測データがさらに蓄積されることで、銀河と巨大なブラックホールの形成・進化の様子が明らかになるかもしれません。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

関連記事

参考文献・出典