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天の川銀河中心の巨大なブラックホールが吹かせる「風」の証拠を発見 50年来の謎を解明

ノースウェスタン大学のMark Gorski氏とElena Murchikova氏は、天の川銀河の巨大なブラックホール「いて座A*」(いてざエースター、Sgr A*)から吹き出すアウトフロー(風、ガスの流れ)の明確な証拠を発見したとする研究成果を発表しました。両名の研究成果は学術誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載されています。

ALMA(アルマ望遠鏡)とChandra(チャンドラ)X線宇宙望遠鏡で観測された「いて座A*」周辺の様子。中央の白い点はいて座A*、オレンジはALMAが捉えた低温ガスの分布(一酸化炭素の輝線にもとづく)、青はChandraが捉えた高温ガスの分布(X線データにもとづく)。画像中央から下側へと生じた低温ガスの円錐状の空洞を、高温ガスが満たしている(Credit: X-ray: NASA/CXC/UMass/D. Wang et al.; radio: ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/S. Longmore et al. Background: ESO/D. Minniti et al.)
【▲ ALMA(アルマ望遠鏡)とChandra(チャンドラ)X線宇宙望遠鏡で観測された「いて座A*」周辺の様子。中央の白い点はいて座A*、オレンジはALMAが捉えた低温ガスの分布(一酸化炭素の輝線にもとづく)、青はChandraが捉えた高温ガスの分布(X線データにもとづく)。画像中央から下側へと生じた低温ガスの円錐状の空洞を、高温ガスが満たしている(Credit: X-ray: NASA/CXC/UMass/D. Wang et al.; radio: ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/S. Longmore et al. Background: ESO/D. Minniti et al.)】

見えないはずのブラックホールはどうやって観測されている?

光さえも脱出できない天体であるブラックホールを光(電磁波)で直接観測することはできませんが、間接的に観測することは可能です。

たとえば、ブラックホールの重力にとらえられた物質は、らせんを描きながら落下していく過程で、降着円盤と呼ばれる構造をブラックホールの周囲に形成します。降着円盤は落下する物質どうしの摩擦によって非常に熱くなり、可視光線やX線などを強く放出すると考えられています。銀河中心の超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)の場合、活動銀河核(強い電磁波が観測される銀河中心部の狭い領域、AGN)の観測を通じて、ブラックホールの存在や活動の様子を探ることができます。

また、ブラックホールに引き寄せられた物質はすべてが落下してしまうわけではなく、その一部は強力なアウトフローやジェット(細く絞られたガスの高速な流れ)として、外側へ向かって放出されるとも考えられています。おとめ座の楕円銀河「M87」のように、長さ数千光年にわたるジェットを噴出しているものもあります。

ジェットを噴出させているブラックホールの想像図。周囲には降着円盤が形成されている(Credit: NASA/JPL-Caltech)
【▲ ジェットを噴出させているブラックホールの想像図。周囲には降着円盤が形成されている(Credit: NASA/JPL-Caltech)】
Hubble(ハッブル)宇宙望遠鏡が観測した楕円銀河「M87」。中心からジェットが噴出している(Credit: NASA, ESA and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Cote (Herzberg Institute of Astrophysics) and E. Baltz (Stanford University))
【▲ Hubble(ハッブル)宇宙望遠鏡が観測した楕円銀河「M87」。中心からジェットが噴出している(Credit: NASA, ESA and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Cote (Herzberg Institute of Astrophysics) and E. Baltz (Stanford University))】

いて座A*は「風」を吹かせているか?

地球から約2万6000光年離れた天の川銀河の中心にも、いて座A*と呼ばれる超大質量ブラックホールが存在しています。いて座A*の場合は、巨大なブラックホールとしては近いところにあるため、周囲の恒星やガス雲の動きを通じて研究が進められており、質量は太陽の約430万倍と推定されています。

ただ、いて座A*が過去に爆発的な活動をしていた痕跡は確認されているものの、現在進行形で放出されているアウトフローの証拠はこれまで明確には捉えられておらず、天文学者にとって50年以上にわたる謎となっていたといいます。論文ではその理由について、現在観測されているいて座A*は静穏期にあたり、活動の微弱な痕跡を観測するのがきわめて困難だったと述べられています。

アルマ望遠鏡が捉えた冷たいガスの「空洞」

Gorski氏とMurchikova氏はこの謎を解明するため、チリの電波望遠鏡群ALMA(アルマ望遠鏡)で5年間にわたって取得された観測データを利用しました。両名はいて座A*から約1パーセク(約3.26光年)以内という狭い領域に存在する一酸化炭素(CO)が放出した特定の波長の電磁波(輝線)をもとに、低温の分子ガスの詳細なマップを作成したのです。

いて座A*の活動を考慮した新しい処理技術を使用し、従来と比べて100倍の高感度・80倍の高解像度を達成したというマップから、両名はいて座A*を頂点とする長さ約1パーセクの円錐状の空洞を発見しました。

さらに、NASA(アメリカ航空宇宙局)のChandra(チャンドラ)X線宇宙望遠鏡で観測した高温ガスからのX線データをこのマップに重ね合わせたところ、低温ガスが欠けている円錐状の空洞部分を、高温ガスが満たしていることも明らかになりました。

このことから両名は、いて座A*から吹き出した高温・高エネルギーのアウトフローが、進行方向の低温ガスを吹き飛ばすか、あるいは加熱したことで、低温ガスに円錐状の空洞が形成されたと結論づけています。

ALMA(アルマ望遠鏡)とChandra(チャンドラ)X線宇宙望遠鏡で観測された「いて座A*」周辺の様子、注釈付きバージョン。中央の白い点はいて座A*、オレンジはALMAが捉えた低温ガスの分布(一酸化炭素の輝線にもとづく)、青はChandraが捉えた高温ガスの分布(X線データにもとづく)。画像中央から下側へと生じた低温ガスの円錐状の空洞を、高温ガスが満たしている。論文から引用(Credit: Gorski and Murchikova, 2026)
【▲ ALMA(アルマ望遠鏡)とChandra(チャンドラ)X線宇宙望遠鏡で観測された「いて座A*」周辺の様子、注釈付きバージョン。中央の白い点はいて座A*、オレンジはALMAが捉えた低温ガスの分布(一酸化炭素の輝線にもとづく)、青はChandraが捉えた高温ガスの分布(X線データにもとづく)。画像中央から下側へと生じた低温ガスの円錐状の空洞を、高温ガスが満たしている。論文から引用(Credit: Gorski and Murchikova, 2026)】

穏やかなれども確実に吹いている いて座A*の「風」

Gorski氏とMurchikova氏の見積もりによると、いて座A*からのアウトフローは、少なくとも2万年間は吹き続けているとみられています。他の銀河で見られる強力なジェットに比べれば穏やかではあるものの、天の川銀河の超大質量ブラックホールであるいて座A*もまた、周囲の環境に影響を及ぼしながら物質を放出していることが示されたことになります。

今回の発見は、天文学における長年の謎のひとつを解き明かしただけでなく、巨大なブラックホールが銀河の中でどのように風を吹かせ、周囲の環境と相互作用しながら進化していくのかを理解するうえで、重要な一歩となることが期待されます。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典