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直径約32億光年の超大規模構造「ジャイアント・リング」を発見 従来の理論では説明がつかず

私たちの宇宙に関する従来の理論では、数十億光年以上のスケールで見渡すと、宇宙は概ね均一であるという考えが主流でした。このため、宇宙に存在する構造には、大きさの上限があるとされていました。

しかし近年、上限をはるかに超える構造「超大規模構造(uLSS; ultra-large-scale structure)」がいくつか見つかっています。ただし、夜空にある星が偶然図形を作るように、超大規模構造は見かけ上の存在であり、実在しない構造ではないかとする批判も根強くあります。

セントラル・ランカシャー大学のAlexia Lopez氏とRoger G. Clowes氏の研究チームは、直径約32億光年にも達する超大規模構造「ジャイアント・リング(Giant Ring)」を発見したと報告しました。このジャイアント・リングの内側には、直径約13億光年の「ビッグ・リング」が存在しますが、ジャイアント・リングとビッグ・リングは、共に地球からの距離が約92億光年です。これは2つのリングが、見た目の位置だけでなく、実際に同じような位置にあることを意味します。

ジャイアント・リングの発見は、従来の宇宙論の限界を示しています。また今回の発見手法は「超大規模構造は実在するのか?」という疑問に対して一石を投じるものとなっています。

従来の理論に反する存在「超大規模構造」

図1: DESI(ダークエネルギー分光装置)の観測で示された、銀河の立体配置を示した宇宙の地図。銀河の密度が濃い部分と薄い部分が見えるものの、広く見れば概ね均一であることがわかります。(Credit: Claire Lamman & DESI collaboration)
【▲ 図1: DESI(ダークエネルギー分光装置)の観測で示された、銀河の立体配置を示した宇宙の地図。銀河の密度が濃い部分と薄い部分が見えるものの、広く見れば概ね均一であることがわかります。(Credit: Claire Lamman & DESI collaboration)】

私たちの宇宙は、非常に巨大なスケールで見ると概ね均一であり、特別な場所はないと一般的に考えられています。「宇宙原理」と呼ばれるこの考え方は、現在の宇宙物理学の基礎的な考え方であり、近年まであまり疑問を持たれることはありませんでした。

確かに、宇宙には「泡構造」と呼ばれる、銀河が密集した3次元的な編み目構造があることは分かっていますが、これは初期宇宙のごくわずかな密度揺らぎによって発生するものとされており、起源が特殊です。むしろ、数億光年スケールではこれらの大規模構造同士は重力で縛られておらず、お互いに独立していると考えられています。こう見なせば、重力というパラメーターに縛られることなく、現在の宇宙から初期宇宙の様子を復元する手がかりになります。

しかしながら、近年ではこのような考えに反し、約12億光年(約3億7000万パーセク)を超えるような「超大規模構造」と呼ばれるものが見つかっており、宇宙はほぼ均一であるとする現代の宇宙物理学の考えに疑問が突き付けられています。超大規模構造の存在を許せば、宇宙は均一ではないことになります。一方で宇宙が均一であるという仮定に立つと、超大規模構造がどのように作られたのかが謎になってしまいます。

ただし、これまでに発見されている超大規模構造が、本当に構造として存在するのかは意見が分かれています。文字通り宇宙は広いため、あちこち探せば銀河の並びが構造のようなものが偶然現れることがあり得るからです。これは「どこでも効果」と呼ばれています。たとえるならば、古代の人々が星々を結んで星座を作ったように、本来は無関係である天体同士に意味を見出してしまったようなものです。

直径約32億光年の巨大な環を発見!?

図2: 最大直径約32億光年のジャイアント・リングと呼ばれる構造は、厳密に言えば環であると証明されたわけではありません。下側のジャイアント・アークと、上側のノーザン・アークが、実際には1の環の一部分であるとするのがジャイアント・リングの考え方です。内側にある緑色の点は直径約13億光年のビッグ・リングですが、内側に収まっているように見えます。(Credit: Alexia Lopez & Roger G. Clowes)
【▲ 図2: 最大直径約32億光年のジャイアント・リングと呼ばれる構造は、厳密に言えば環であると証明されたわけではありません。下側のジャイアント・アークと、上側のノーザン・アークが、実際には1つの環の一部分であるとするのがジャイアント・リングの考え方です。内側にある緑色の点は直径約13億光年のビッグ・リングですが、内側に収まっているように見えます。(Credit: Alexia Lopez & Roger G. Clowes)】

セントラル・ランカシャー大学のAlexia Lopez氏とRoger G. Clowes氏の研究チームは、新たな超大規模構造である「ジャイアント・リング」の発見を報告しました。

ただし、ジャイアント・リングの性質は別の超大規模構造と密接であるため、まずはこの超大規模構造について軽く振り返りましょう。当時のsoraeの解説記事『直径約13億光年の巨大構造物「ビッグ・リング」を発見 宇宙原理に反する構造か』も合わせてご覧ください。

Lopez氏らは2021年に「ジャイアント・アーク」、2024年に「ビッグ・リング」という超大規模構造を発見しています。ジャイアント・アークは長さ約33億光年の弧、ジャイアント・リングは直径約13億光年、周長約41億光年という超大規模構造です。特に重要なのは、単独でも巨大な存在であるものが、地球から見て「うしかい座」の方向にあるという具合に、非常に接近していることです。1個でも偶然にこのような構造が生じる可能性は低いですが、2個が接近して存在するという状況は、偶然である可能性がますます低くなります。

しかし、Lopez氏らは2024年時点で、2つの構造のうちジャイアント・アークのほうは、もっと巨大な構造なのではないかと予想していました。なぜかといえば、ジャイアント・リングを挟む形で、ジャイアント・アークとよく似た別の弧が存在することが示唆されていたからです。この弧は仮の名前として “ノーザン・アーク(北方弧)” と名付けられています。

このノーザン・アークとジャイアント・アークのカーブを延長してみると、ちょうど環のような構造になります。まるでビッグリングを取り囲むように、しかしさらに巨大な構造であることから、Lopez氏らはこれを「ジャイアント・リング」と名付けました。

ジャイアント・リングは、その名の通りの巨大さがあります。推定される直径は、最大で約32億光年(直径約1Gpc以下)にも達します。内側に収まるビッグ・リングが直径約13億光年であることと比べれば、ジャイアント・リングがいかに巨大かが分かるでしょう。しかもジャイアント・リングとビッグ・リングは、単に夜空での見た目の位置だけでなく、地球からの距離も約92億光年(共動距離)と一致しています。このため、宇宙空間の同じような場所に、環状の超巨大構造物が存在することになります。

ただし厳密に言うと、ジャイアント・アークとノーザン・アークが繋がって、ジャイアント・リングという “リング(環)” を作っているかについては、現時点では未確定です。なぜなら、あまりにも巨大すぎて、分析対象となる夜空から一部がはみ出しているからです。

しかしLopez氏らは、天体の配列に関する統計分析やシミュレーションを通じた分析を行うことで、ジャイアント・リングは存在し、ビッグ・リングとの二重構造になっている可能性があると考えてます。

「超大規模構造は実在するのか?」に一石を投ずる研究

仮にジャイアント・リングが実在する構造ならば、明らかに現在の宇宙論では説明することが困難です。Lopez氏は、このジャイアント・リングが存在することを、ロジャー・ペンローズ氏が2020年に提唱した「共形サイクリック宇宙論(CCC; Conformal Cyclic Cosmology)」によって説明できると考えています。

共形サイクリック宇宙論とは、簡単に言えば、「今いる私たちの宇宙は、前の宇宙が潰れた後に反発し、膨張して生まれたもの」という考え方です。現在の宇宙に存在する、説明のつかない巨大構造は、前の宇宙で巨大なブラックホール同士が衝突し、その痕跡が私たちの宇宙で超大規模構造を作る源になっている、という考え方です。今のところ、共形サイクリック宇宙論が正しいかどうかは分かっていません。

いずれにしても、超大規模構造が続々と発見されている以上、現在の宇宙論は正しくない可能性があります。それが理論の修正で済むのかどうか、それとも新しい宇宙論を作る必要があるのかは確定していません。

Lopez氏が公表したプレプリントでは、その結論を見る限り、ジャイアント・リングの発見そのものは主題ではありません。むしろ、ジャイアント・リングを1つの事例として、「超大規模構造が実在することを証明する方法」を提示するのが主題であるようです。

超大規模構造の存在に否定的な研究者は、その統計分析手法に誤りを指摘しています。Lopez氏も、単純な分析では “存在しない幻の構造” を拾うことがあるのを認めた上で、複数の観点から分析することで超大規模構造が実在することを示しています。Lopez氏は、超大規模構造が実在するかどうかの評価には、慎重な分析が必要であることを、論文の結論で強調しています。

ひとことコメント

大きいことをよく「天文学的」と呼ぶけど、これは研究者にとっても予想外の天文学的スケールの構造になるのよ。(筆者)

 

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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参考文献・出典