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天の川銀河中心の過剰なガンマ線放出「GCE」の起源に「ダークマター説」が再浮上

通常の物質(バリオン)の5~6倍も存在するのに、電磁波では観測できないとされる謎の存在「ダークマター(暗黒物質)」。その正体に関わる新たな研究成果を、ウィーン大学などの国際的な研究チームが発表しました。

研究チームは、天の川銀河の中心部で観測されるガンマ線の過剰な放射について、近年否定的な結果が示されていた「ダークマター起源説」を再び後押しする結果を示しました。研究チームの成果をまとめた論文は、学術誌「Physical Review Letters」に掲載されています。

機械学習で探る天の川銀河中心のガンマ線起源

天の川銀河の中心部では、「GCE(Galactic Center Excess、銀河中心過剰)」と呼ばれる、球状に広がるガンマ線の放出が長年観測されてきました。

このガンマ線の起源に関しては、「ダークマターの対消滅によるもの」とする説と「高速で自転する中性子星(ミリ秒パルサー)などの多数の天体(暗い点源)によるもの」とする説が長らく対立しており、これまでの統計的分析ではパルサーなどの点源説が支持される傾向にありました。

NASAのガンマ線観測衛星「フェルミ(Fermi)」のデータで作成した天の川銀河のガンマ線全天マップ(背景)と、銀河中心のGCE(銀河中心過剰)付近を拡大した画像(右下)(Credit: NASA/DOE/Fermi LAT Collaboration and T. Linden (Univ. of Chicago))
【▲ NASAのガンマ線観測衛星「Fermi(フェルミ)」のデータで作成した天の川銀河のガンマ線全天マップ(背景)と、銀河中心のGCE(銀河中心過剰)付近を拡大した画像(右下)(Credit: NASA/DOE/Fermi LAT Collaboration and T. Linden (Univ. of Chicago))】

しかし、ウィーン大学のFlorian List氏やローレンス・バークレー国立研究所のNick Rodd氏らの研究チームは、従来の解析手法では光子ひとつひとつのエネルギーについての情報が活用されていなかった点を指摘。100万以上のシミュレーションデータを用いて機械学習(ニューラルネットワーク)モデルを訓練し、空間情報とガンマ線のスペクトル(電磁波の波長ごとの強さの分布)の情報を初めて同時に評価しました。

その結果、もしも観測されているガンマ線が点源に由来するものであるならば、天の川銀河の中心には従来の想定(数百個~数千個)をはるかに上回る、3万5000個以上もの極めて暗い点源が必要となることが明らかになったといいます。

Rodd氏によれば、これほどまでに暗い点源の集まりが放つガンマ線は、暗黒物質の対消滅によって予測されるガンマ線放射の広がり方と、ほぼ区別がつかないといいます。研究チームはこの結果をもとに「ダークマター説を除外するにはまだ早すぎる」と結論づけ、ダークマターがGCEの起源として依然有力な候補であることを示しました。

2つの研究が示す「ダークマター粒子」の異なる性質

一方、この天の川銀河中心方向のガンマ線については、対比を描くような別の研究が存在します。東京大学の戸谷友則教授が2025年に発表した、NASA(アメリカ航空宇宙局)のガンマ線観測衛星「Fermi(フェルミ)」による天の川銀河中心方向のガンマ線解析結果です。

戸谷氏の研究では、天の川銀河の中心部や天体が密集する銀河面をあえて避けたうえで、観測データから天体起源のガンマ線を取り除いたところ、天の川銀河の中心から球対称に広がるぼんやりとしたハロー状の放射成分が存在することが明らかになりました。

戸谷友則教授の研究で示されたガンマ線放射の強度マップ。天の川銀河の中心からハロー状に放射されている。中央の灰色の帯は天体起源の放射を避けるために除外された部分(Credit: 東京大学 大学院理学系研究科・理学部)
【▲ 戸谷友則教授の研究で示されたガンマ線放射の強度マップ。天の川銀河の中心からハロー状に放射されている。中央の灰色の帯は天体起源の放射を避けるために除外された部分(Credit: 東京大学 大学院理学系研究科・理学部)】

このガンマ線は20GeV(ギガ電子ボルト)付近にエネルギーのピークがあり、500GeV程度(陽子の約500倍の質量)のダークマター粒子が対消滅した際に放出されるガンマ線の理論予測と合致するといいます。

2つの研究で注目すべきは、ガンマ線のエネルギー帯の違いです。今回List氏らが研究したGCEのピークは2~3GeV付近であり、戸谷氏が示したハロー状放射のピークとは一桁も違います。戸谷氏もまた、自らが示したハロー状放射とGCEの間には想定される密度分布などの差異があることから、起源は異なる可能性が高いと言及しています。

まとめると、GCEとハロー状放射の双方がダークマターの痕跡であると仮定した場合、想定されるダークマター粒子の質量や、粒子どうしの反応のしやすさ(対消滅断面積)に大きな隔たりが生じることになるのです。

それぞれの起源をめぐる今後の見通しは?

今回のList氏らの成果は、ノイズの多い天の川銀河中心の解析に機械学習を活用し、近年否定的な結果が示されていたGCEのダークマター起源説を再び支持するものとなりました。一方で、戸谷氏が示したハロー状放射の起源と推定されるダークマター粒子とは想定される質量が異なるなど、新たな“緊張”ももたらしています。

どちらの研究もガンマ線の観測データを精緻に分析した成果ですが、理論的には「どちらかの起源がダークマター粒子で、どちらかが天体現象」なのか、あるいは「ダークマター粒子は単一ではなく、はるかに複雑な性質を持っている」のかという、新たな疑問を提示しています。

今後はさらなる観測データの蓄積や、独立した研究チームによる検証が進むことで、宇宙最大の謎であるダークマターの正体にまた一歩近づくことが期待されます。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典