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高エネルギーニュートリノの起源に迫る 約110億年前の銀河「シャドウ・ブラスター」とは

台湾・国立中央大学の研究者などからなる国際的な研究チームは、南極の観測施設が捉えた高エネルギーニュートリノの到来方向に、約110億年前の極めて明るい銀河を発見したとする研究成果を発表しました。

国立天文台などによると、この発見は長年の謎だった高エネルギーニュートリノの起源に迫るものであり、電磁波(光)と素粒子などの異なる情報を組み合わせる「マルチメッセンジャー天文学」の画期的な成果のひとつとして注目を集めています。研究チームの成果をまとめた論文は、学術誌「Nature Astronomy」に掲載されています。

アルマ望遠鏡(ALMA)が観測した約110億年前の銀河「JCMT0402-0424」、通称「シャドウ・ブラスター(Shadow Blaster)」。重力レンズ効果によって像が弧状にゆがんでいる(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); Image Processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab), D. de Martin & M. Zamani (NSF NOIRLab))
【▲ アルマ望遠鏡(ALMA)が観測した約110億年前の銀河「JCMT0402-0424」、通称「シャドウ・ブラスター(Shadow Blaster)」。重力レンズ効果によって像が弧状にゆがんでいる(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); Image Processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab), D. de Martin & M. Zamani (NSF NOIRLab))】

ニュートリノの「見えない発生源」

宇宙空間を飛び交う高エネルギーニュートリノの放射源を特定することは、現代天文学における最重要課題のひとつです。

これまでに、銀河中心の超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)が活発に活動する活動銀河のいくつかが、ニュートリノの放射源として特定されてきました。しかし、地球に届く高エネルギーニュートリノの総量を既知の天体だけで説明するには数が足りず、未知の主要な発生源が宇宙のどこかに隠されていると考えられてきました。

理論研究の分野では、新たな星を生み出す星形成活動が激しかった今から100億年ほど前の「宇宙の正午(Cosmic Noon)」と呼ばれる時代の星形成銀河が、その有力候補に挙げられていました。星形成にともなって生成された大量の宇宙線が、高エネルギーニュートリノの主要な供給源になる可能性が予測されていたのです。ただ、こうした銀河は宇宙論的な遠距離にあり、分厚い塵(ダスト)に隠されていたことから、個別のニュートリノ観測事象と結びつけることはきわめて困難でした。

重力レンズ効果が明らかにした「天然の粒子加速器」

今回、研究チームが注目したのは、南極のニュートリノ観測装置「IceCube(アイスキューブ)」が2021年に検出した高エネルギーニュートリノ事象「IC 210922A」です。

この信号を生成したニュートリノの到来方向を様々な望遠鏡で追跡観測した結果、約110億年前に存在した「JCMT0402-0424」と呼ばれる天体が発見されました。この天体は分厚い塵に包まれており、可視光線ではほとんど見えないことから「シャドウ・ブラスター(Shadow Blaster)」という愛称が付けられています。

アルマ望遠鏡(ALMA)とジェミニ北望遠鏡が観測した、約110億年前の銀河「JCMT0402-0424」、通称「シャドウ・ブラスター(Shadow Blaster)」とその周辺の様子。アルマ望遠鏡が捉えたシャドウ・ブラスターの像(オレンジ色)と重なるようにして、ジェミニ北望遠鏡が捉えた銀河が赤色で示されている。この銀河がもたらす重力レンズ効果によって、シャドウ・ブラスターの詳細な解析が可能となった(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); Image Processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab), D. de Martin & M. Zamani (NSF NOIRLab); Acknowledgment: PI: Yuji Urata (MITOS Science Co., LTD.))
【▲ アルマ望遠鏡(ALMA)とジェミニ北望遠鏡が観測した、約110億年前の銀河「JCMT0402-0424」、通称「シャドウ・ブラスター(Shadow Blaster)」とその周辺の様子。アルマ望遠鏡が捉えたシャドウ・ブラスターの像(オレンジ色)と重なるようにして、ジェミニ北望遠鏡が捉えた銀河が赤色で示されている。この銀河がもたらす重力レンズ効果によって、シャドウ・ブラスターの詳細な解析が可能となった(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); Image Processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab), D. de Martin & M. Zamani (NSF NOIRLab); Acknowledgment: PI: Yuji Urata (MITOS Science Co., LTD.))】

研究チームは電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」などを用いて、シャドウ・ブラスターの詳細な観測を行いました。この銀河は、手前にある巨大な楕円銀河が引き起こす重力レンズ効果(※)によって光が増幅され、4つの像に分かれています。「自然のレンズ」といえる重力レンズ効果のおかげで、通常では観測できない初期宇宙の銀河であるシャドウ・ブラスターの内部構造を、詳細に解析することが可能になりました。

※…手前にある天体の大きな質量によって周囲の時空間がゆがみ、その背後にある遠方の天体から発せられた光の経路が曲げられることで、遠方天体の像がゆがんだり拡大して見えたりする現象。

これほど強力なエネルギーを放つ天体の場合、巨大なブラックホールを動力源とする活動銀河核や、恒星がブラックホールに引き裂かれる潮汐破壊現象などがエネルギー源として疑われます。しかし、NASA(アメリカ航空宇宙局)のガンマ線観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト(Neil Gehrels Swift)」によるX線観測データなどからは、ブラックホール活動に特有の高エネルギー放射は確認されませんでした。

さらに、アルマ望遠鏡による分子ガスの観測データを解析した結果、この銀河の中心部には約1500光年という非常に狭い領域に、太陽の数千億倍という膨大な質量のガスと塵が押し込まれた「コンパクトコア」が存在することが判明しました。

コンパクトコアにはブラックホールによる加熱の兆候はなく、猛烈な星形成活動によってガスが温められている可能性が高いといいます。この極端な高密度環境こそが、粒子が衝突を繰り返して高エネルギーニュートリノを生成する「天然の粒子加速器」として機能していたとみられています。

重力レンズ効果の概念図。地球(左端)と遠方の天体(左から3番目)の間にある天体(左から2番目)の重力によって時空間がゆがみ、遠方の天体からの光の進む向きが曲がることで、地球からはゆがんだ像(左から4番目)として観測される(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/R. Proctor)
【▲ 重力レンズ効果の概念図。地球(左端)と遠方の天体(左から3番目)の間にある天体(左から2番目)の重力によって時空間がゆがみ、遠方の天体からの光の進む向きが曲がることで、地球からはゆがんだ像(左から4番目)として観測される(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/R. Proctor)】

宇宙の星形成の歴史と“幽霊粒子”のつながり

今回の成果は、ブラックホールの活動をともなわない純粋な星形成銀河であっても、極端に高密度な環境を有することで、高エネルギーニュートリノの発生源になり得ることを観測的に示したものとなります。

国立天文台によれば、シャドウ・ブラスターのような単一の銀河から届くニュートリノは微弱なものですが、圧倒的な密度で星形成を行う銀河が数多く存在したことで、宇宙全体から降り注ぐ高エネルギーニュートリノの総量のうち、最大で約20%をこのような銀河が占めていた可能性が示唆されています。

電磁波だけでは見通すことのできない分厚い塵の奥底で、何が起きているのか。他の物質とほとんど相互作用しないことから“幽霊粒子”とも呼ばれるニュートリノと、最新の電波望遠鏡による観測を組み合わせたマルチメッセンジャー天文学は、初期宇宙における星形成の歴史や高エネルギー現象の謎を解き明かす上で、今後さらに重要な役割を担っていくことが期待されます。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典