広告
広告
NASA火星探査「スカイフォール」用の地中レーダーアンテナが着陸200回相当の負荷に耐える

NASA(アメリカ航空宇宙局)は2026年8月6日付で、2028年後半の打ち上げが予定されている火星探査ミッション「SkyFall(スカイフォール)」で使用される地中レーダー用の新型アンテナが、2026年7月に実施された試験で大きな節目を迎えたと発表しました。

小型ヘリコプターに搭載されるこのアンテナは、着陸時の衝撃で壊れないように軽量かつ柔軟な布状になっており、地下浅いところの氷(水の氷)を探るうえで鍵となる部品です。

地下浅い場所の氷を探すほうが難しい?

SkyFallミッションでは、史上初の火星ヘリコプターとなった「Ingenuity(インジェニュイティ)」の技術を受け継いだ小型ヘリコプター3機を使用して、地下の氷を地中レーダーで探索します。将来の有人火星探査ミッションにおいて、水の氷は宇宙飛行士の生命維持や推進剤の原料として欠かせない資源であることから、得られたデータは着陸地点や探査地点を選定する上で重要な情報になる可能性があります。

実は、採掘して利用できるほど浅い場所に埋蔵されている氷を探し出すのは、簡単なことではないといいます。NASAによれば、火星を周回する探査機は地下数十mに存在する厚い氷の層を捉えられますが、より浅い地下数mの氷を捉えるほうが難しいからです。

SkyFallミッションで地中レーダーの主任科学者を務めるJPL(NASAジェット推進研究所)のAdrian Tang氏は、「地下浅いところの氷を遠隔で検知する唯一の方法は、地表の近くを飛行することです」と述べています。低空を低速で飛行することで、乾いた土壌の層から氷の層へと変化する地下の様子を細かく捉え、氷の存在と広がりを把握できるといいます。

地中レーダーを使って地下浅くの氷を探索する「SkyFall」ミッションの小型ヘリコプターのイメージ図(Credit: NASA/JPL-Caltech)
【▲ 地中レーダーを使って地下浅くの氷を探索する「SkyFall」ミッションの小型ヘリコプターのイメージ図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

着陸の衝撃に耐えられる布状のアンテナ

SkyFallの地中レーダーは波長約12~60cmに相当する、500〜2500MHzの周波数帯を使用します。NASAによると、この帯域に対応するアンテナは全長48.3cm(19インチ)が必要になるものの、着陸時のヘリコプター底部と火星表面の最小間隔はわずか15.2cm(6インチ)しかありません。

そこで採用されたのが「Vivaldi(ビバルディ)アンテナ」です。このアンテナは薄い平面状の構造をしていることが特徴で、柔軟な布状の素材で作成することも可能です。着陸のたびにアンテナを折りたたむような複雑な機構を設けるのではなく、地面に接触しても布地のようにたわむ素材でアンテナを作ることにしたのです。

ただ、繊維状とはいえ金属を使用する以上、繰り返される変形に耐えられるのか、レーダーとして機能する形状を保持できるのかといった懸念が生じます。SkyFallミッションで地中レーダーの機構設計を担うJPLのChristine Gebara氏は、「着陸のたびにアンテナはたわみ、岩に接触すればさらに大きくたわみます。しかし離陸後は、データ収集のために元の形状へ戻らなければなりません」と説明しています。

こうした課題に対応するため、アンテナの表面はNASAの火星探査車「スピリット(Spirit)」と「オポチュニティ(Opportunity)」の着陸時に衝撃を吸収するために展開されたエアバッグの素材と同じ「ベクトラン」で何層にも覆われています。また、飛行中にアンテナとしての形状を保持するためにグラスファイバーも使用されています。

さらに、乾燥している火星の表土(レゴリス)が電波を減衰させにくい性質を利用し、地下5m以内という浅い場所の探査に特化させることで、SkyFall用のアンテナは標準的なVivaldiアンテナよりもさらに小型化されました。アンテナの重量は約150gに抑えられているといいます。

SkyFallミッションの地中レーダー用に開発された試験用のVivaldiアンテナ(Credit: NASA/JPL-Caltech)
【▲ SkyFallミッションの地中レーダー用に開発された試験用のVivaldiアンテナ(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

要求性能の2倍に耐えた試験結果

JPLで実施された環境試験では、温度差が最大94℃にも達する火星の昼夜を再現した温度サイクル試験に加え、着陸を模した負荷を繰り返し加える屈曲試験を実施。その合間にはレーダー信号の受発信能力も6回確認されています。さらに、火星表面の重力(地球の約3分の1)よりも大きな負荷がかかる、アンテナを逆さまにした状態での信号性能の検証も行われました。

一連の試験を通じて、開発されたアンテナは性能を低下させることなく、着陸200回分に相当する負荷に耐えることができました。この回数はミッションで想定される着陸回数の2倍を超えているといいます。今後は振動試験や火星の模擬環境での展開試験を経て、屋外試験場での実地試験を行うエンジニアリングモデルの製作に移るということです。

【▲ SkyFallミッションの地中レーダー用に開発されたアンテナについて解説した動画(英語)(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

関連記事

参考文献・出典