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【▲ 図1: ペットボトルにも使われるPET樹脂とレーザーを使い、天王星や海王星の内部を再現する実験が行われました。 (Image Credit: Blaurock / HZDR) 】
【▲ 図1: ペットボトルにも使われるPET樹脂とレーザーを使い、天王星や海王星の内部を再現する実験が行われました。 (Image Credit: Blaurock / HZDR) 】

太陽系には4つの巨大な惑星である木星、土星、天王星、海王星があります。かつてはこれらをまとめて「ガス惑星」と称していましたが、現在では木星と土星を巨大ガス惑星 (木星型惑星・Gas Giant)」、天王星と海王星を巨大氷惑星 (天王星型惑星・Ice Giant)」と別々に分けています。

惑星科学では、宇宙でもめったに液体や固体にならない気体である水素とヘリウムのみを “ガス” と称します。これに対し、室温では液体や気体の形態であるものの、概ね-200℃以内で固体となる物質を “” と称します。巨大氷惑星は巨大ガス惑星と比べて “氷” に当たる物質、つまり水、メタン、アンモニアなどを多く含むため、このように別の分類とされているのです。

“氷” の存在は、巨大氷惑星の性質に影響していると言われています。最たる例は、天王星や海王星が青色に見えることでしょう。これは、メタンによって青色以外の光が吸収されたことによる影響です。しかしながら、天王星と海王星の内部はもっと劇的です。巨大氷惑星の内部は高温・高圧になっており、 “氷” は液体の “海” を形成しています。この海でメタンは分解されて、ダイヤモンドの結晶になると考えられています。

ダイヤモンドは大きくなると沈んでいくため、その様子は「ダイヤモンドの雨」と呼ばれています。なんともロマンチックですがそれだけでなく、ダイヤモンドが沈み込むことによって位置エネルギーが熱エネルギーへと変換され、巨大氷惑星の内部における熱の発生や熱の循環に影響を与えている可能性も指摘されています。天王星や海王星は太陽から受け取るエネルギーよりもはるかに多い熱を放射していることが知られているため、巨大氷惑星の内部の現象は興味深く研究されています。

ダイヤモンドの雨が理論的に示された1981年ごろは、巨大氷惑星の内部環境を実験室で再現することは困難でしたが、現在では世界のいくつかの施設で実験が行えるようになってきました。強力なレーザーを四方八方からターゲットとなる物質に照射すると、瞬間的に高温・高圧の状態が作り出されます。その時間は極めて短いものの、材料に当たったX線を調べることで、高温・高圧の条件下における物質の性質を調べることも技術的に可能となっています。

しかしながら、これまでは主にポリスチレン ([C8H8]n) などの炭化水素 (炭素と水素のみでできた物質) を材料に実験を行っている、という問題がありました。巨大氷惑星の内部には酸素を含む水などの物質があるため、酸素を含まないポリスチレンを使った実験では、実際の惑星内部の環境を完全に再現しているとはいいがたい状況です。巨大氷惑星の性質を調べるには、酸素の存在がダイヤモンドの形成に影響を与えるかどうかを知る必要があります。

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ドレスデン・ロッセンドルフ研究所のZhiyu He氏を筆頭とする国際研究チームは、スタンフォード大学のSLAC国立加速器研究所と理化学研究所のSPring-8の2か所にある強力なX線自由電子レーザー装置を使用して、巨大氷惑星の内部環境を再現する実験を行いました。

今回の実験がこれまでと大きく異なるのは、ペットボトルなどに使われる「PET樹脂 (ポリエチレンテレフタレート)」をポリスチレンに代わるターゲットとして使用したという点です。PET樹脂は化学組成的には炭素と水に完全に分解することが可能なため (※) 、水とメタンが混ざり合った巨大氷惑星の内部環境によく似ているとみなすことができます。

※…ポリエチレンテレフタレートを化学組成のみで考えると、[C10H8O4]n⇆n(10C+4H2O)と元素の種類と数が一致します。このように、細かい化学反応を省略して元素の比率で考えることを化学量論と呼びます。

【▲ 図2: 今回の実験の概要図。瞬間的にレーザーを照射し、ターゲットのPET樹脂フィルムを8ナノ秒間 (125万分の1秒間) だけ照射し、ナノダイヤモンドが生成されるかどうかを実験しました。 (Image Credit: He, et.al.) 】
【▲ 図2: 今回の実験の概要図。瞬間的にレーザーを照射し、ターゲットのPET樹脂フィルムを8ナノ秒間 (125万分の1秒間) だけ照射し、ナノダイヤモンドが生成されるかどうかを実験しました。 (Image Credit: He, et.al.) 】

厚さ0.1mmという薄いPET樹脂フィルムを含むターゲットは、レーザー照射によって瞬間的に高温・高圧となります。ここにX線を当てることで、ターゲットにどんな物質が生じたのかを調べることができます。

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ポイントは、X線の照射時間が500兆分の1秒と極めて短いことです。X線の照射時間を短くすると、ターゲットの中で起きた変化を時間ごとに細かく見ることができます。今回のように極端な実験環境で連続的な変化を見るには、極めて強力なX線を短時間で連続照射する必要があります。SLAC国立加速器研究所とSPring-8は、このような実験が可能な世界でも数少ない施設です。

【▲ 図3: 様々な温度や圧力の状態で現れる炭化水素の状態。真ん中の紫色に塗られた領域が、理論的に示されたダイヤモンドの生成される温度と圧力の範囲であり、今回の実験結果と合致しています。 (Image Credit: He, et.al.) 】
【▲ 図3: 様々な温度や圧力の状態で現れる炭化水素の状態。真ん中の紫色に塗られた領域が、理論的に示されたダイヤモンドの生成される温度と圧力の範囲であり、今回の実験結果と合致しています。 (Image Credit: He, et.al.) 】

実験の結果、炭化水素ではないPET樹脂でも数億分の1mという極小のナノダイヤモンドが生成されることが分かりましたが、それ以外にも様々な新しいことが判明しました。

まず、74ギガパスカル以下と125ギガパスカル以上 (1ギガパスカル=大気圧の1万倍) では、ダイヤモンドが生成されませんでした。前者はダイヤモンドが生成されるには圧力が不足しており、後者は約6000K (約5700℃) の高温によってダイヤモンドが融けてしまったと考えられます。

一方、74~125ギガパスカルの範囲内では、圧力が上がるほどダイヤモンドの粒は大きくなることが分かりました。また、PET樹脂はポリスチレンと比べてダイヤモンドができやすいことも判明しました。この点は理論的にはすでに示されていましたが、今回初めて実験的に確認された形です。

これらのことから、酸素原子の存在はダイヤモンドの生成を助けることが判明しました。巨大氷惑星の内部では、これまでの推定より更に多くのダイヤモンドが生成されている可能性もあります。それ以外にも、分解したPET樹脂から生じた水が、高温・高圧の条件下で絶縁体から導体になる理論的な境目とも一致する実験結果が得られました。

巨大ガス惑星と岩石惑星の中間に位置する巨大氷惑星は、かつて珍しい存在であると考えられてきましたが、太陽系外惑星が多数観測されるようになった現代では、巨大氷惑星は惑星の多数派を占めていることが判明しています。今回の実験結果は、巨大氷惑星の物理的性質に迫る研究であることから、この宇宙における多数派の惑星の形成や進化を知る手掛かりとなります。

また、今回の実験で、単発のレーザーを当てることでもナノダイヤモンドが生成できることが分かりました。レーザーで高圧を与える実験では、これまで四方八方から強力なレーザーを照射する必要があり、極めて高度な制御が求められてきました。しかし、今回の実験では、それほど高度なレーザー制御をせずともナノダイヤモンドを生成できることがわかりました。

さらに、レーザーのエネルギーや照射時間を調整することで、ダイヤモンドの大きさを調整することもできます。ナノダイヤモンドは医学・触媒化学・電子産業で注目されている材料でもあるため、今回の実験手法はナノダイヤモンド産業に一石を投じる可能性もあります。

 

Source

  • Zhiyu He, et.al. “Diamond formation kinetics in shock-compressed C─H─O samples recorded by small-angle x-ray scattering and x-ray diffraction”. (Science Advances)
  • Dominik Kraus. (Sep 2, 2022) “Nanodiamanten aus Flaschenplastik”. (Helmholtz-Zentrum Dresden-Rossendorf)
  • Marvin Ross. “The ice layer in Uranus and Neptune—diamonds in the sky?”. (Nature)
  • M. A. Barrios, et.al. “High-precision measurements of the equation of state of hydrocarbons at 1–10 Mbar using laser-driven shock waves”. (American Institute of Physics, Physics of Plasmas)
  • Tristan Guillot & Daniel Gautier. “Giant Planets”. (arXiv)
  • R. Stewart McWilliams, et.al. “Optical Properties of Fluid Hydrogen at the Transition to a Conducting State”. (Physical Review Letters)
  • D. Kraus, et.al. “Formation of diamonds in laser-compressed hydrocarbons at planetary interior conditions”. (Nature Astronomy)
  • M. Bethkenhagen, et.al. “Planetary Ices and the Linear Mixing Approximation”. (The Astrophysical Journal)
  • D. Kraus, et.al. “High-pressure chemistry of hydrocarbons relevant to planetary interiors and inertial confinement fusion”. (American Institute of Physics, Physics of Plasmas)
  • Ludwig Scheibe, Nadine Nettelmann & Ronald Redmer. “Thermal evolution of Uranus and Neptune”. (Astronomy & Astrophysics)
  • A. K. Schuster, et.al. “Measurement of diamond nucleation rates from hydrocarbons at conditions comparable to the interiors of icy giant planets”. (Physical Review B)
  • J. Lütgert, et.al. “Measuring the structure and equation of state of polyethylene terephthalate at megabar pressures”. (Scientific Reports)
  • N. Nettelmann, et.al. “Theory of Figures to the 7th order and the interiors of Jupiter and Saturn”. (arXiv)

文/彩恵りり

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