
太陽系には4つの巨大な惑星である木星、土星、天王星、海王星があります。かつてはこれらをまとめて「ガス惑星」と称していましたが、現在では木星と土星を「巨大ガス惑星 (木星型惑星・Gas Giant)」、天王星と海王星を「巨大氷惑星 (天王星型惑星・Ice Giant)」と別々に分けています。

惑星科学では、宇宙でもめったに液体や固体にならない気体である水素とヘリウムのみを “ガス” と称します。これに対し、室温では液体や気体の形態であるものの、概ね-200℃以内で固体となる物質を “氷” と称します。巨大氷惑星は巨大ガス惑星と比べて “氷” に当たる物質、つまり水、メタン、アンモニアなどを多く含むため、このように別の分類とされているのです。
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海王星と天王星の「ダイヤモンドの雨」
“氷” の存在は、巨大氷惑星の性質に影響していると言われています。最たる例は、天王星や海王星が青色に見えることでしょう。これは、メタンによって青色以外の光が吸収されたことによる影響です。しかしながら、天王星と海王星の内部はもっと劇的です。巨大氷惑星の内部は高温・高圧になっており、 “氷” は液体の “海” を形成しています。この海でメタンは分解されて、ダイヤモンドの結晶になると考えられています。
ダイヤモンドは大きくなると沈んでいくため、その様子は「ダイヤモンドの雨」と呼ばれています。なんともロマンチックですがそれだけでなく、ダイヤモンドが沈み込むことによって位置エネルギーが熱エネルギーへと変換され、巨大氷惑星の内部における熱の発生や熱の循環に影響を与えている可能性も指摘されています。天王星や海王星は太陽から受け取るエネルギーよりもはるかに多い熱を放射していることが知られているため、巨大氷惑星の内部の現象は興味深く研究されています。
ダイヤモンドの雨が理論的に示された1981年ごろは、巨大氷惑星の内部環境を実験室で再現することは困難でしたが、現在では世界のいくつかの施設で実験が行えるようになってきました。強力なレーザーを四方八方からターゲットとなる物質に照射すると、瞬間的に高温・高圧の状態が作り出されます。その時間は極めて短いものの、材料に当たったX線を調べることで、高温・高圧の条件下における物質の性質を調べることも技術的に可能となっています。
しかしながら、これまでは主にポリスチレン ([C8H8]n) などの炭化水素 (炭素と水素のみでできた物質) を材料に実験を行っている、という問題がありました。巨大氷惑星の内部には酸素を含む水などの物質があるため、酸素を含まないポリスチレンを使った実験では、実際の惑星内部の環境を完全に再現しているとはいいがたい状況です。巨大氷惑星の性質を調べるには、酸素の存在がダイヤモンドの形成に影響を与えるかどうかを知る必要があります。
ドレスデン・ロッセンドルフ研究所のZhiyu He氏を筆頭とする国際研究チームは、スタンフォード大学のSLAC国立加速器研究所と理化学研究所のSPring-8の2か所にある強力なX線自由電子レーザー装置を使用して、巨大氷惑星の内部環境を再現する実験を行いました。