惑星の外観について、「天王星は空のような薄い青色」「海王星は海のような深い青色」というイメージが一般的と思われます。しかし、公開されている天体の画像は様々な事情で補正がかけられていることもあるため、実際に人間の目で見た状況を正確に反映しているとは限りません。
オックスフォード大学のPatrick Irwin氏などの研究チームは、独自開発した惑星の色モデルに「ハッブル宇宙望遠鏡(HST)」と「超大型望遠鏡(VLT)」の観測データを適用し、天王星と海王星の肉眼的に最も正確な“真の色” を確定しました。その結果、天王星と海王星の “真の色” は緑色を帯びた淡い青色であり、海王星のほうがわずかに青色が強いことを除けばほとんど区別できないほどそっくりであることがわかりました。
今回の研究は、長年の天王星と海王星のイメージを変えるだけに留まらず、天王星の極地と赤道の環境の違いといった、観測が難しい遠方の惑星の環境についても重要な洞察を与えています。
■「天王星」と「海王星」は本当は違う色?
「天王星」と「海王星」は2つとも太陽系の最も外側を公転する惑星で、どちらも巨大氷惑星という同じ分類に属します。両惑星は概ね青色の惑星と言えますが、天王星は空のように淡い青色、海王星は海のように深い青色、というイメージが一般的ではないでしょうか。この青色は、両惑星の大気中に含まれている数%のメタンが主に赤色、次いで緑色の光を吸収するために発生します。
天王星と海王星の名前は色に因んで命名されましたが(※1)、外観のイメージを決定付けたのはNASA(アメリカ航空宇宙局)が打ち上げた惑星探査機「ボイジャー2号」の撮影画像でしょう。ボイジャー2号は天王星には1986年、海王星には1989年に接近し、それぞれ写真を撮影しています。現在でも両惑星に接近した探査機は、ボイジャー2号が唯一です。
※1…天王星と海王星は望遠鏡で青く見える星であることから、その名称はそれぞれギリシア神話の天空の神「ウーラノス」とローマ神話の海の神「ネプトゥーヌス」に因んでおり、日本語での名称はこれらを翻訳した中国語名に直接由来しています。天王星と海王星は近代天文学の発展後に発見された惑星であるため、発見を主張する人々から様々な名称が提案され、現在の名称は発見から数十年後に定着しました。
実は、ボイジャー2号が撮影した天王星と海王星の写真として一般的に出回っている画像は、両惑星を肉眼で見た “真の色” を忠実に反映していません。海王星の画像はコントラストが強調されており、実際よりも青色が強すぎることが天文学者の間では知られていました。一方で天王星はあまりコントラストが調整されていないため、海王星と比べれば比較的真の色に近いものです。
撮影画像から得られる情報を強調するために色を変更することは、天文学に限らず一般的な科学研究の場でよく行われます。海王星の場合、表面の雲、風、帯状の構造を強調するためにコントラスト補正がかけられ、その結果として実際よりも深すぎる青色が現れました。
補正がかけられた画像には、その内容を示す注釈が必要であり、実際に当初は、海王星の画像も色の変更に関する注釈付きで公開されました。ところがいつごろからか、注釈が付かない画像が掲載されることが多くなり、現在では海王星の真の色は深い青色であるかのようにイメージが定着したと考えられます。これは一般向けの天文系サイトでも同様であり、例えばNASAの海王星に関するページでは “Big blue” や “rich blue color” と表現する一方で、画像補正については触れていません。
■天王星と海王星の “真の色” を特定
Irwin氏らの研究チームは、肉眼で見た場合の色に最も近い天王星と海王星の画像の出力を試みました。今回の研究では、ハッブル宇宙望遠鏡の「STIS(宇宙望遠鏡撮像分光器)」、および超大型望遠鏡(チリ、パラナル天文台)の「MUSE(マルチユニット分光エクスプローラー)」によって取得された観測データが使用されました。
ただし、これらの観測データから得られる色(光の波長)は複数の情報が混ざっているため、そのままでは画像として出力することはできません。また、目の細胞は光の波長によって感度が大きく異なるため、単純計算で得られる画像が、肉眼で見る実際の色を反映しているとは限りません。
Irwin氏らは、目の細胞が光の波長に対してどのように反応するのかを調べた2019年の研究を元に、ヒトの目において惑星の色がどのように感じられるのかを忠実に再現するモデルを独自に開発し、ボイジャー2号とハッブル宇宙望遠鏡の「WFC3(広視野カメラ3)」で撮影された画像を元に色を適用しました。
Irwin氏らは、肉眼で見た場合に最も近い天王星と海王星の “真の色” は、どちらもわずかに緑色を帯びた淡い青色であると確定しました。海王星は天王星と比べてやや青色が強いものの、一般的に知られている深い青色とは程遠い色味です。それでも現れたわずかな青色の違いは、天王星と比べて海王星の方が大気中に含まれるもや(ヘイズ)の層が薄く、それだけ大気の深部まで入り込みやすい光から赤色や緑色の波長が吸収されていることを示しています。もやの影響は、今回のモデルでも盛り込まれています。
■天王星の色の変化から見る大気の様子
今回の研究は、天王星と海王星の色にまつわる長年の誤解を解く側面もありますが、研究の主題はそれではありません。この研究は、天王星の色が長年に渡ってわずかに変化する理由に迫るものです。
天王星は約84年かけて太陽の周りを公転します。ローウェル天文台(アメリカ、アリゾナ州)による1950年から2016年にかけて得られた天王星の青色と緑色の光の観測データは、天王星が数十年かけて少しずつ変色していることを示しています。具体的には、天王星は夏至と冬至の時期に緑色が濃くなる傾向にある一方で、春分と秋分の時期には青色が濃くなる傾向にあります。これは天王星の自転軸の傾きが理由であると考えられます。
天王星の自転軸は公転面に対して約98度と横倒しとなっているため、文字通り “転がって” 太陽の周りを公転します。地球から観察すると、天王星が夏至や冬至の時期には主に極地が見えるのに対し、春分や秋分の時期には主に赤道が見えることになります。天王星の “1年” は地球の84倍であり、季節も84倍長く続くことから、天王星の季節の変化は長期的な色の変化として観察されます。
Irwin氏らは観測データとモデルを比較することで、天王星の極地付近と赤道付近のそれぞれの色を分離することに成功し、極地は赤道と比べて緑色や赤色の光の反射が多く、その分だけ緑色を帯びて見えることを明らかにしました。地球上の私たちは反射光を通じて天王星を観察していますが、天王星の極地が多くの太陽光に照らされるのは夏至と冬至の時期であり、極地が赤道よりも緑色であることは、夏至と冬至の天王星が春分や秋分の時期よりも緑色に見える理由となります。
Irwin氏らは天王星の極地が赤道と比べてより多くの赤色や緑色の光を反射する理由として、極地の大気中に含まれるメタン (赤色や緑色の光を吸収する) が赤道の約半分と少ないこと、低温で固体の粒となったメタンの結晶が追加で赤色や緑色の光を反射するためであることも突き止めました。
天王星や海王星は太陽から遠く離れた場所を公転しているため、その変化は非常にゆっくりと現れますし、地球から遠いので詳細な観測も困難です。今回の研究は天王星の極地と赤道の環境の違いという取得が難しいデータを知ることにつながりましたが、それは長年の観測データがあってこその成果です。この研究は、長年に渡る基礎的なデータの蓄積がいかに重要であるかを示す1つの結果ともいえるでしょう。
Source
- Patrick G. J. Irwin. “Modelling the seasonal cycle of Uranus’s colour and magnitude, and comparison with Neptune”. (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)
- Caroline Wood. “New images reveal what Neptune and Uranus really look like”. (University of Oxford) (EurekAlert!)
文/彩恵りり