死せる恒星が紡いだ天空のベール ハッブル宇宙望遠鏡が観測した“はくちょう座”の超新星残骸

こちらは「はくちょう座(白鳥座)」の方向約2400光年先にある超新星残骸のごく一部を捉えたもの。風にそよぐカラフルなベールを透かして星空を見ているような、幻想的な印象を受ける光景です。

ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の広視野カメラ3(WFC3)で観測された「網状星雲(Veil Nebula)」の一部(Credit: ESA/Hubble & NASA, R. Sankrit)
【▲ ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の広視野カメラ3(WFC3)で観測された「網状星雲(Veil Nebula)」の一部(Credit: ESA/Hubble & NASA, R. Sankrit)】

超新星残骸の繊細な構造をハッブル宇宙望遠鏡が捉えた

この画像は「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」の「広視野カメラ3(WFC3)」を使って2024年に取得した観測データを使って作成されました。画像を公開したESA=ヨーロッパ宇宙機関(欧州宇宙機関)によると、画像の色は超新星残骸の高温ガスに含まれる原子から放射された光の波長に応じて着色されています(シアン:酸素、オレンジ:硫黄、赤:水素)。

ハッブル宇宙望遠鏡が観測したこの超新星残骸は、複数の星雲が弧状に連なっていることから「網状星雲(Veil Nebula)」と呼ばれています。冒頭に掲載した画像は、地球からは満月を6個並べたのと同じくらいの大きさに見えるという超新星残骸全体のうち、南東部分のごく狭い部分をクローズアップしたものになります。

2007年に公開されたハッブル宇宙望遠鏡(HST)による「網状星雲(Veil Nebula)」の画像3つの範囲を示した図。背景は地上の望遠鏡で撮影された網状星雲。2025年2月24日付で公開された画像は、左側に2つ示されている画像のうち下側の画像と同じ辺りを捉えたものとなる(Credit: NASA, ESA, the Hubble Heritage (STScI/AURA)-ESA/Hubble Collaboration, and the Digitized Sky Survey 2. Acknowledgment: J. Hester (Arizona State University) and Davide De Martin (ESA/Hubble))
【▲ 2007年に公開されたハッブル宇宙望遠鏡(HST)による「網状星雲(Veil Nebula)」の画像3つの範囲を示した図。背景は地上の望遠鏡で撮影された網状星雲。2025年2月24日付で公開された画像は、左側に2つ示されている画像のうち下側の画像と同じ辺りを捉えたものとなる(Credit: NASA, ESA, the Hubble Heritage (STScI/AURA)-ESA/Hubble Collaboration, and the Digitized Sky Survey 2. Acknowledgment: J. Hester (Arizona State University) and Davide De Martin (ESA/Hubble))】

網状星雲は太陽と比べて約20倍重い大質量星が超新星爆発を起こした後に残された残骸で、私たちが観測しているのは爆発から約1万年後の様子だと考えられています。ハッブル宇宙望遠鏡は30年ほど前からこの超新星残骸を観測しており、過去に取得されたデータと最近取得されたデータを比較してガスの塊やフィラメント(ひも)といった繊細な構造の動きを明らかにすることで、網状星雲の理解がより深まると期待されています。

30年の時を経てデータを比較できるというところに、間もなく打ち上げから35周年を迎えるハッブル宇宙望遠鏡の素晴らしさの一端を改めて垣間見た思いです。冒頭の画像は“ハッブル宇宙望遠鏡の今週の画像”として、ESAから2025年2月24日付で公開されています。

 

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文/ソラノサキ 編集/sorae編集部