
国際的な研究チーム「XRISM Collaboration」は、宇宙航空研究開発機構のX線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」を用いた観測の結果、高速で動く高温ガスの流れが「ケンタウルス座銀河団(Centaurus Cluster)」の中心部に存在することを世界で初めて発見したとする研究成果を発表しました。
銀河の集まりである銀河団には数千万℃という高温の銀河団ガスが存在していますが、高温が保たれている仕組みは未解明とされています。今回発見された高温ガスの運動は過去に起きた銀河団どうしの衝突・合体を直接的に示す痕跡とみられており、銀河団の中心部でガスを高温に保つ仕組みの解明につながると期待されています。
XRISMとは

XRISMは2016年に打ち上げられた「ひとみ」(運用終了)の後継機として、JAXAがアメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)などと協力して開発したX線天文衛星です。小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」とともに「H-IIA」ロケット47号機で日本時間2023年9月7日に打ち上げられたXRISMは、高度約550kmの低軌道を周回しながら様々な天体の観測を行っています。
XRISMには観測装置として軟X線分光装置「Resolve」と軟X線撮像装置「Xtend」が搭載されています。JAXA宇宙科学研究所(ISAS)によると、ResolveとXtendは星間空間や銀河間空間を吹き渡るプラズマに含まれる元素やプラズマの速度を画期的な精度で測定可能とされており、観測を通じて星や銀河だけでなく、銀河の集団が形作る大規模構造の成り立ちに迫ることが期待されています。
高い分光能力でケンタウルス座銀河団中心部のX線スペクトルを観測
XRISMの観測対象である銀河団には前述の通り高温のガスが存在していて、X線を放射しています。そのままでは放射冷却によって冷えていくはずですが、これまでの観測から、ガスの温度は何らかの仕組みで高温に保たれていることがわかっていました。
そこで研究チームは2023年12月~2024年1月にかけて、地球に比較的近い約1億光年先のケンタウルス座銀河団をXRISMのResolveで観測し、X線のスペクトル(X線のエネルギーごとの強さの分布)を取得する分光観測を行いました。次の画像に示されたグラフがResolveで得られたケンタウルス座銀河団のX線スペクトルです。

高温ガスの動きを知るには、スペクトルに現れる輝線(グラフでスパイク状に突出している部分)のエネルギーを正確に測定しなければなりません。従来の観測装置の分光能力では測定が困難だったものの、これまでの装置よりも約30倍の分光能力を持つResolveの観測データから、ケンタウルス座銀河団の中心部では高温ガスが秒速130km~310kmで地球の方向へ流れていることが明らかになったといいます。
観測データとコンピュータシミュレーションの結果を比較した研究チームは、高温ガスの運動はケンタウルス座銀河団が過去に小さな銀河団と衝突・合体した際の影響で生じた“揺れ”だと判断しました。この揺れによってガスが撹拌されることで、銀河団中心部の温度が高温に保たれていると考えられています。


ガスという言葉にはどことなく軽さを感じるかもしれませんが、銀河が集まってできた宇宙最大規模の天体である銀河団、その内部を満たすガスの質量ともなると、銀河の総質量をはるかに上回るといいます。銀河団は暗黒物質(ダークマター)の重力によって形成されたと考えられていますが、その力学的な進化を理解する上で、高温ガスのX線観測は欠かせないものとなっています。
XRISM Collaborationによる今回の研究は、銀河団内部の高温ガスの動きをこれまでにない精度で明らかにすることで、衝突・合体を通じて銀河団が進化していく過程の直接的な証拠を示すものとなりました。この研究成果は銀河団の高温ガスが加熱される仕組みを理解する上で重要な手がかりになるだけでなく、銀河団をはじめとした様々な天体の形成と進化の理解を前進させることにもつながると期待されています。

天体の組成や運動を探る上で欠かせない分光観測で貢献したXRISM、今後もその高い分光能力がもたらす成果に注目です!
- JAXA/ISASのX線観測衛星「XRISM」が過去最高の精度で「はくちょう座X-3」を観測(2024年12月12日)
Source
- JAXA - X線分光撮像衛星(XRISM)観測成果の科学誌「Nature」論文掲載
- XRISM Collaboration - The bulk motion of gas in the core of the Centaurus galaxy cluster (Nature)
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部