小さな銀河に秘められた価値 ダークエネルギーカメラが撮影した銀河「NGC 3109」

こちらは「うみへび座(海蛇座)」の方向約400万光年先の銀河「NGC 3109」。NSF NOIRLab=アメリカ国立科学財団の国立光学・赤外天文学研究所は、不規則な形態の矮小銀河として紹介しています。

セロ・トロロ汎米天文台(チリ)のブランコ4m望遠鏡に設置された「ダークエネルギーカメラ(DECam)」で観測された銀河「NGC 3109」(Credit: Dark Energy Survey/DOE/FNAL/DECam/CTIO/NOIRLab/NSF/AURA; Image processing: R. Colombari & M. Zamani (NSF NOIRLab))
【▲ セロ・トロロ汎米天文台(チリ)のブランコ4m望遠鏡に設置された「ダークエネルギーカメラ(DECam)」で観測された銀河「NGC 3109」(Credit: Dark Energy Survey/DOE/FNAL/DECam/CTIO/NOIRLab/NSF/AURA; Image processing: R. Colombari & M. Zamani (NSF NOIRLab))】

“金属”の少なさが初期宇宙の理解を助ける?

矮小銀河は数千~数十億個の恒星が集まっている小規模な銀河の総称です。NOIRLabによれば、NGC 3109の直径は天の川銀河の半分以下となる約4万光年です。

分光観測(※1)の結果から、局部銀河群(局所銀河群)と呼ばれる天の川銀河を含む銀河の集団の中でも、NGC 3109は“金属”の量が最も少ない銀河のひとつであることが判明しています。ここでいう金属とは、水素とヘリウムよりも重い元素の総称です。

誕生したばかりの宇宙にはほぼ水素とヘリウムしか存在しておらず、それよりも重い元素は恒星内部の核融合反応や超新星爆発などを通じて生成されることで、徐々にその量が増えてきたと考えられています。別の言い方をすれば、初期の宇宙は金属が少ない環境だったということになります。

初期宇宙の様子を探るには、画像の背景に点在するような遠方の銀河を観測しなければなりません。一方で、局部銀河群の仲間であるNGC 3109は(宇宙のスケールからすれば)すぐ近くにある銀河なので、遠方銀河よりも詳細な観測を行えます。金属が少ない環境であるNGC 3109を観測することで、初期宇宙の銀河の化学進化ついての知見が得られるかもしれないと期待されています。

宇宙の長い歴史を通じて生成された金属がなければ、様々な元素で構成されている私たち人間も誕生できなかったことになります。その金属が生み出され始めた初期の宇宙をより深く理解する上で、“わずか”数百万光年先の銀河がヒントになり得るところも、天文学の醍醐味のひとつだと思いませんか?

冒頭の画像はセロ・トロロ汎米天文台(チリ)のブランコ4m望遠鏡に設置された観測装置「ダークエネルギーカメラ(DECam ※2)」の観測データを使って作成されたもので、NOIRLabの“今週の画像”として2025年2月19日付で公開されています。

脚注

※1…分光観測:電磁波の波長ごとの強さの分布を示すスペクトルを取得するための観測方法。スペクトルを分析すると天体の組成や運動などを知ることができます。

※2…ダークエネルギーカメラ:暗黒エネルギー(ダークエネルギー)の研究を主な目的として開発された観測装置で、画素数は約520メガピクセル、満月約14個分の広さ(3平方度)を1回の観測で捉えることができます。当初の目的である暗黒エネルギー研究のための観測は2013年から2019年にかけて実施されました。

 

Source

  • NOIRLab - The Value of Being Metal-Poor

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部