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JAXA「はやぶさ2」が小惑星「トリフネ」のフライバイに成功 “地球防衛”に資する接近通過

JAXA(宇宙航空研究開発機構)は2026年7月6日午後に記者説明会を開催し、前日の7月5日に実施された小惑星探査機「はやぶさ2」による小惑星「トリフネ(Torifune)」のフライバイ(接近通過)結果を発表しました。

JAXAによると、フライバイ後のはやぶさ2は正常な状態であることが確認されており、最接近直前に撮影したトリフネの画像もあわせて公開されています。

トリフネは“雪だるま”のような姿をしていた

JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」の「ONC-T(光学航法望遠カメラ)」で撮影した小惑星「トリフネ」(Credit: JAXA、東京大学、千葉工業大学、東京科学大学、産業技術総合研究所、パリ天文台、カナリア天体物理研究所)
【▲ JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」の「ONC-T(光学航法望遠カメラ)」で撮影した小惑星「トリフネ」(Credit: JAXA、東京大学、千葉工業大学、東京科学大学、産業技術総合研究所、パリ天文台、カナリア天体物理研究所)】

こちらが公開されたトリフネの画像です。計画された最接近時刻の1秒前となる日本時間2026年7月5日18時29分59秒に、はやぶさ2の「ONC-T(光学航法望遠カメラ)」で撮影されました。はやぶさ2とトリフネの相対速度や、はやぶさ2からトリフネの各部分までの距離の違いによって、手前側はブレて写っています。

2つの小惑星がくっついたようなトリフネの姿は、くびれた接触部分がより深いものの、初代「はやぶさ」が探査した小惑星「イトカワ(Itokawa)」にどこか似ています。記者説明会に登壇したJAXAはやぶさ2拡張ミッションチームの三桝裕也さんは、トリフネの形を「雪だるま」にたとえていました。

2026年7月6日の記者説明会に登壇したJAXAはやぶさ2拡張ミッションチームの吉川真さん(左)と三桝裕也さん(右)。記者説明会の公式ライブ配信から引用(Credit: JAXA)
【▲ 2026年7月6日の記者説明会に登壇したJAXAはやぶさ2拡張ミッションチームの吉川真さん(左)と三桝裕也さん(右)。記者説明会の公式ライブ配信から引用(Credit: JAXA)】

また、同じく記者説明会に登壇したJAXAはやぶさ2拡張ミッションチームの吉川真さんは、詳細は今後議論されていくと前置きした上で、トリフネは形成されてからまだ若い段階であり、くびれた部分が埋まっていくことでイトカワのような姿になっていく可能性に言及していました。

こうした形態の小惑星は「接触二重小惑星(contact binary)」と呼ばれています。近年フライバイが行われた小惑星などとしては、NASA(アメリカ航空宇宙局)の探査機「ルーシー(Lucy)」がフライバイを行った小惑星「ディンキネシュ(Dinkinesh)」の衛星「セラム(Selam)」や小惑星「ドナルドジョハンソン(Donaldjohanson)」、それに探査機「ニュー・ホライズンズ(New Horizons)」がフライバイを行った太陽系外縁天体「アロコス(Arrokoth)」などが挙げられます。

4つの科学機器でデータ取得に成功

トリフネに対して毎秒約5.3kmの相対速度で接近したはやぶさ2は、日本時間2026年7月5日18時30分頃(誤差±1秒)に最接近したとみられています。最接近距離は7月6日午後の時点では発表されておらず、事後解析で求めるとされています。

JAXAによると、最接近直前の軌道制御によってはやぶさ2の姿勢が安定せず、カメラでの撮影などはできたものの、小惑星の情報を探査機側で取得することができなかったため、リアルタイムで最接近距離を推定できなかったということです。

科学観測については前出のONC-Tをはじめ、「TIR(中間赤外カメラ)」「NIRS3(近赤外分光計)」「LIDAR(レーザー高度計)」の4つで観測を行い、すべての機器でデータの取得に成功しています。

フライバイから丸1日が経つ前に開催された記者説明会の時点では、まだ一部のデータが地球に伝送されただけの状況ですが、冒頭の画像の他にもTIRで取得したトリフネのサーモグラフィー画像や、ONC-TとTIRで連続取得した画像を使ったアニメーション画像も公開されています。

JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」の「ONC-T(光学航法望遠カメラ)」で撮影した小惑星「トリフネ」のアニメーション画像(Credit: JAXA、東京大学、千葉工業大学、東京科学大学、産業技術総合研究所、パリ天文台、カナリア天体物理研究所)
【▲ JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」の「ONC-T(光学航法望遠カメラ)」で撮影した小惑星「トリフネ」のアニメーション画像(Credit: JAXA、東京大学、千葉工業大学、東京科学大学、産業技術総合研究所、パリ天文台、カナリア天体物理研究所)】
JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」の「TIR(中間赤外カメラ)」で撮影した小惑星「トリフネ」(Credit: JAXA、前橋工科大学、千葉工業大学、会津大学、北海道教育大学、産業技術総合研究所)
【▲ JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」の「TIR(中間赤外カメラ)」で撮影した小惑星「トリフネ」(Credit: JAXA、前橋工科大学、千葉工業大学、会津大学、北海道教育大学、産業技術総合研究所)】
JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」の「TIR(中間赤外カメラ)」で撮影した小惑星「トリフネ」のアニメーション画像(Credit: JAXA、前橋工科大学、千葉工業大学、会津大学、北海道教育大学、産業技術総合研究所)
【▲ JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」の「TIR(中間赤外カメラ)」で撮影した小惑星「トリフネ」のアニメーション画像(Credit: JAXA、前橋工科大学、千葉工業大学、会津大学、北海道教育大学、産業技術総合研究所)】

今後は次の目標である地球スイングバイ(2027年12月)に向けての運用がすぐに始まるため、残りのデータは運用の合間にダウンロードを進めていき、すべてのデータが揃うのは2026年末になる見込みだということです。

「地球防衛」に資するトリフネのフライバイ

JAXAのはやぶさ2は、2019年2月と7月に小惑星「リュウグウ(Ryugu)」で採取したサンプルを2020年12月に地球へ持ち帰った後、次の小惑星を目指して拡張ミッション「はやぶさ2#(ツーシャープ)」を続けています。

拡張ミッションの探査対象となる小惑星は2つあります。1つは、今回フライバイを行ったトリフネ。もう1つは、2031年7月に到着予定の小惑星「1998 KY26」です。1998 KY26は、2025年9月発表の研究では幅約11mと見積もられている小さな小惑星で、はやぶさ2はその周囲を飛行しながら観測を行う予定です。

小惑星「1998 KY26」にタッチダウンする小惑星探査機「はやぶさ2」のCGイメージ。ESO(ヨーロッパ南天天文台)のプレスリリースから引用(Credit: ESO/M. Kornmesser. Asteroid: T. Santana-Ros et al. Hayabusa2 model: SuperTKG (CC-BY-SA))
【▲ 小惑星「1998 KY26」にタッチダウンする小惑星探査機「はやぶさ2」のCGイメージ。ESO(ヨーロッパ南天天文台)のプレスリリースから引用(Credit: ESO/M. Kornmesser. Asteroid: T. Santana-Ros et al. Hayabusa2 model: SuperTKG (CC-BY-SA))】

トリフネは言ってみれば「最終目的地へ向かう途中に立ち寄った場所」ですが、今回のフライバイには大きな意味があります。それは、「プラネタリーディフェンス」と呼ばれる取り組みに関係しています。

プラネタリーディフェンスとは、地球に接近する小惑星などの天体を早期に発見し、軌道を精密に計算して衝突の可能性を評価するとともに、万が一衝突の恐れがある場合にはその影響を回避・軽減する対策を実行する国際的な取り組みのこと。地球防衛や惑星防衛とも呼ばれます。

2022年9月にはNASAがプラネタリーディフェンスの一環として、「DART」ミッションの無人探査機を小惑星「ディディモス(Didymos)」の衛星「ディモルフォス(Dimorphos)」に意図的に衝突させる実験が行われました。

DARTは小惑星の軌道を探査機の衝突によって変更する「キネティックインパクト」と呼ばれる技術を実証するミッションでしたが、ディモルフォスがディディモスを周回する周期は、衝突前の約11時間55分から約33分短縮したことが確認されています。

NASAの探査機「DART」の光学カメラ「DRACO」で撮影された小惑星ディモルフォス。衝突の11秒前、68km手前から撮影されたもので、ディモルフォスの全体を捉えた最後の画像(Credit: NASA/Johns Hopkins APL)
【▲ NASAの探査機「DART」の光学カメラ「DRACO」で撮影された小惑星ディモルフォス。衝突の11秒前、68km手前から撮影されたもので、ディモルフォスの全体を捉えた最後の画像(Credit: NASA/Johns Hopkins APL)】
衝突前にDART探査機から放出されたASI(イタリア宇宙機関)の小型探査機「LICIACube」によって撮影された、DART探査機のディモルフォス衝突時の様子(Credit: ASI/NASA)
【▲ 衝突前にDART探査機から放出されたASI(イタリア宇宙機関)の小型探査機「LICIACube」によって撮影された、DART探査機のディモルフォス衝突時の様子(Credit: ASI/NASA)】

今回、はやぶさ2はトリフネのすぐ近くを通過するフライバイを行いましたが、「小惑星に対して毎秒数kmの相対速度で飛行する無人探査機を精密に誘導する」という意味では、ディモルフォスに探査機を衝突させたDARTミッションと同様の技術が求められます。

また、最初からキネティックインパクトの実証実験のために開発されたDART探査機とは異なり、はやぶさ2はもともと小惑星「リュウグウ(Ryugu)」の周回探査とサンプル採取を目的に開発された探査機です。今回のトリフネのフライバイは、すでに稼働中の探査機を使って早急に観測を行う緊急調査(ファーストレコン)の実証実験にもなりました。

1908年6月に起きたいわゆる「ツングースカ大爆発」や、2013年2月に1000名以上が負傷したチェリャビンスク隕石のように、小惑星の衝突は現実に起こり得る災害です。はやぶさ2のミッションを通じて得られた知見は、将来多くの人命を救うことにつながるかもしれません。

 

文・編集/sorae編集部

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参考文献・出典