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ふらつく小惑星「ドナルドジョハンソン」 NASAルーシー探査機の観測で判明した複雑な自転

SwRI(サウスウエスト研究所)のSimone Marchi氏を筆頭とする研究チームは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の小惑星探査ミッション「ルーシー(Lucy)」の探査機によるフライバイ(接近通過)探査時の観測のデータをもとに、小惑星「ドナルドジョハンソン(Donaldjohanson)」の形状や自転、表面組成に関する新たな研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Science」に掲載されています。

ルーシー探査機の望遠カメラ「L’LORRI」で撮影された小惑星「ドナルドジョハンソン」(Credit: NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOIRLab)
【▲ ルーシー探査機の望遠カメラ「L’LORRI」で撮影された小惑星「ドナルドジョハンソン」(Credit: NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOIRLab)】

衝突で生まれた「ピーナッツ形」の若い小惑星

ドナルドジョハンソンは、火星と木星の公転軌道の間にある小惑星帯(アステロイドベルトやメインベルトとも)に位置する炭素質のC型小惑星です。2025年4月20日、ルーシー探査機はドナルドジョハンソンから961.4km(※数値は論文から引用)まで接近し、通過しながら詳細な観測を行いました。

研究チームによると、ドナルドジョハンソンは約1億5500万年前に起きた大規模な衝突によって母天体が破壊され、その破片が集まって形成された「エリゴネ(Erigone)族」と呼ばれる小惑星グループの一員である可能性が高いとされています。

NASAによれば、地球からの観測ではドナルドジョハンソンが細長い形状をしていることが示唆されていましたが、このフライバイ探査の結果、2つの塊状の構造が首のようなくびれでなめらかに繋がった、ピーナッツや生姜(しょうが)のような形であることが確認されました。全体の大きさは、およそ8.8km×4.4km×3.1kmと推定されています。

小惑星ドナルドジョハンソンの形状と三軸を示した図。白は自転軸で、長軸(赤)を中心にふらつくように回転していることが今回の研究で示された(Credit: NASA SVS, DLR)
【▲ 小惑星ドナルドジョハンソンの形状と三軸を示した図。白は自転軸で、長軸(赤)を中心にふらつくように回転していることが今回の研究で示された(Credit: NASA SVS, DLR)】

「ふらつく自転」と表面に残された「水の痕跡」

研究チームがルーシー探査機の観測データを分析した結果、ドナルドジョハンソンは複雑な自転運動をしていることが判明しました。多くの小惑星は単一の軸を中心に規則的に回転していますが、ドナルドジョハンソンの場合はコマのようにふらつきながら回転する非主軸自転をしており、短軸に近い自転軸を中心に約10.5日で1回転しつつ、約26.5日ごとに長軸を中心にふらついているといいます。

論文によれば、形成当初のドナルドジョハンソンはもっと高速で自転していたものの、過去数千万年のあいだにYORP効果(※太陽光の反射や熱放射の不均一性によって小惑星の自転速度や自転軸が変化する効果)によって徐々に回転速度が減速するとともに、現在の複雑な回転状態に至ったと考えられています。

【▲ 小惑星ドナルドジョハンソンの自転の様子を示したアニメーションCG(英語)(Credit: SwRI, DLR)】

さらに、ドナルドジョハンソンの表面には鉄を含む粘土鉱物(フィロケイ酸塩)が存在していることもわかりました。これは、ドナルドジョハンソンの母天体の内部に、かつて液体の水が存在していたことを示す証拠です。ただし、長期間にわたって水に触れていた場合に生じるマグネシウムへの置換が見られないことから、水との接触期間は比較的短かったと推測されています。

また、ドナルドジョハンソンの表面には多数のクレーターが存在しますが、直径0.4km未満の小さなクレーターは極端に少ないことも明らかになりました。研究チームは、過去に起きた天体衝突にともなって地震動などが発生した結果、小さなクレーターが優先的に平滑化された可能性を指摘しています。

リュウグウやベンヌとの比較から見えてくるもの

今回の成果は、探査機が訪れたことのある他の小惑星との比較において非常に重要な意味を持ちます。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)の小惑星探査機「はやぶさ2」が探査した「リュウグウ(Ryugu)」や、NASAの小惑星探査ミッション「OSIRIS-REx」で探査が行われた「ベンヌ(Bennu)」もドナルドジョハンソンと同様に炭素質の小惑星ですが、これらは形成から10億〜20億年が経過しており、表面からは長期間の水との接触を示すマグネシウムが豊富な粘土が見つかっています。

Marchi氏はNASAのリリースを通じて、「一見似ているベンヌやリュウグウのような小惑星とドナルドジョハンソンを比較することは、科学者にとって有益です。なぜなら、私たちの太陽系の起源を知るうえで、あらゆる微妙な違いが新たな手がかりとなるからです」と述べています。

ルーシー探査機にとって、2025年のドナルドジョハンソンのフライバイ探査は、本来の目的地である木星トロヤ群小惑星の探査に向けた機器や手順のテストも兼ねていました。全く異なる歴史を持つ未知の小惑星群に探査機が到達し、観測を行うことで、太陽系の形成に関する私たちの理解がさらに深まることが期待されます。

ルーシーとは

木星のトロヤ群小惑星をフライバイ探査するNASAの小惑星探査ミッション「ルーシー(Lucy)」の探査機の想像図(Credit: Southwest Research Institute)
【▲ 木星のトロヤ群小惑星をフライバイ探査するNASAの小惑星探査ミッション「ルーシー(Lucy)」の探査機の想像図(Credit: Southwest Research Institute)】

ルーシーは木星のトロヤ群に属する小惑星の探査を主な目的としたミッションで、2021年10月に探査機が打ち上げられました。ミッションの期間は2033年までの12年間という長期間で、探査対象の小惑星は合計11個に上ります。

木星のトロヤ群とは太陽を周回する小惑星のグループのひとつで、太陽と木星の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にあるL4点付近(公転する木星の前方)とL5点付近(同・後方)に分かれて小惑星が分布しています。幾つもの小惑星を一度のミッションで観測するために、ルーシー探査機は小惑星を周回する軌道には入らず、小惑星の近くを通過しながら観測するフライバイ探査を繰り返し行います。

ルーシーのミッション期間における水星~木星までの惑星(白)と木星のトロヤ群小惑星(緑)の位置を示したアニメーション。トロヤ群小惑星は木星(Jupiter)に先行するグループと後続するグループに分かれている(Credit: Astronomical Institute of CAS/Petr Scheirich (used with permission))
【▲ ルーシーのミッション期間における水星~木星までの惑星(白)と木星のトロヤ群小惑星(緑)の位置を示したアニメーション。トロヤ群小惑星は木星(Jupiter)に先行するグループと後続するグループに分かれている(Credit: Astronomical Institute of CAS/Petr Scheirich (used with permission))】

木星のトロヤ群小惑星は初期の太陽系における惑星の形成・進化に関する情報が残された「化石」のような天体とみなされています。これらの天体を間近で探査することから、ミッションと探査機の名前はエチオピアで見つかった有名な化石人骨の「ルーシー」(約320万年前に生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスの一固体)にちなんで名付けられました。なお、2025年にフライバイ探査が行われた小惑星ドナルドジョハンソンの名前の由来は、化石人骨のルーシーを発見した古人類学者ドナルド・ジョハンソン氏です。

2022年10月に第1回地球スイングバイ、2024年12月に第2回地球スイングバイを行ったルーシー探査機は、小惑星帯を通過して木星の前方トロヤ群へと向かう公転周期6年の軌道に乗っています。2027年8月には、前方トロヤ群の小惑星「エウリュバテス(Eurybates)」とその衛星「ケータ(Queta)」を皮切りに、ミッションの主目標である木星トロヤ群小惑星のフライバイ探査が始まる予定です。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典