こちらはアメリカ航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機「Lucy(ルーシー)」に搭載されている望遠カメラ「L’LORRI」で撮影された小惑星「Dinkinesh(ディンキネシュ)」とその衛星です。LucyによるDinkineshのフライバイ探査が行われた日本時間2023年11月2日の2時頃、小惑星から約1630km離れた位置で撮影されたもので、NASAが2023年11月7日付で公開しました。
画像の左側にはDinkineshが、右側にはLucyのフライバイ探査で存在が判明したDinkineshの衛星が写っているのですが、衛星は2つの物体が接触したような形をしていることがわかります。NASAによると、この画像はDinkineshの衛星それ自身が接触二重小惑星(Contact binary)、つまりお互いに接触した2つの小惑星で構成されていることを示しています。
Lucyミッションの主任研究員を務めるサウスウエスト研究所(SwRI)のHal Levisonさんは、Dinkineshの衛星を構成する2つの部分がなぜ同じような大きさなのかが理解できないと指摘しており、その理由の解明は科学界にとって楽しいものになるだろうとコメントしています。
Dinkineshの衛星を捉えた画像は2023年11月2日付ですでに公開されていましたが、先に公開された画像は探査機との位置関係上、衛星が接触二重小惑星であることまではわかりませんでした。7日に公開された冒頭の画像は先に公開された画像の約5分後に撮影されたもので、探査機が約1500km移動したことで小惑星との位置関係が変化し、衛星の真の性質を伝える一枚となりました。
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2021年10月に探査機が打ち上げられたLucyは「木星のトロヤ群」に属する小惑星の探査を主な目的としたミッションです。ミッションの期間は2021年から2033年までの12年間で、その間に小惑星帯を公転しているものも含めて合計10個の小惑星を訪問する予定でしたが、Dinkineshの衛星が見つかったことで探査対象の小惑星は合計11個になりました。
木星のトロヤ群とは太陽を周回する小惑星のグループのひとつで、太陽と木星の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にあるL4点付近(公転する木星の前方)とL5点付近(同・後方)に分かれて小惑星が分布しています。幾つもの小惑星を一度のミッションで観測するために、Lucyの探査機は小惑星を周回する軌道には入らず、小惑星の近くを通過しながら観測するフライバイ探査を繰り返し行います。
木星のトロヤ群小惑星は初期の太陽系における惑星の形成・進化に関する情報が残された「化石」のような天体とみなされています。これらの天体を間近で探査することから、ミッションと探査機の名前はエチオピアで見つかった有名な化石人骨の「ルーシー」(約320万年前に生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスの一体)にちなんで名付けられました。
Lucy探査機は今後、2024年12月に地球フライバイを行って軌道を修正し、2025年には2つ目の探査対象である小惑星帯の小惑星「Donaldjohanson(ドナルドジョハンソン)」のフライバイ探査を行います。その後は2027年の「Eurybates(エウリュバテス)」とその衛星「Queta(ケータ)」をはじめ、ミッションの主目標である木星のトロヤ群の小惑星探査が行われる予定です。【2023年11月9日15時】
Source
- NASA - NASA’s Lucy Surprises Again, Observes 1st-ever Contact Binary Orbiting Asteroid
文/sorae編集部