米民間企業の月着陸機「ブルーゴースト」14日間のミッション完了 月で日食の撮影も実施

アメリカ企業のFirefly Aerospace(ファイアフライ・エアロスペース)は2025年3月17日付で、同社の月着陸機「Blue Ghost(ブルーゴースト)」による月着陸ミッション「Blue Ghost Mission 1」の14日間にわたる月面での運用が完了したことを発表しました。Blue Ghost Mission 1は同社にとって初めての月着陸ミッションでしたが、ミッション目標を100%達成したということです。

14日間にわたって10のペイロードが月面で稼働

Firefly Aerospaceの月着陸機「Blue Ghost(ブルーゴースト)」(Credit: Firefly Aerospace)
【▲ Firefly Aerospaceの月着陸機「Blue Ghost(ブルーゴースト)」(Credit: Firefly Aerospace)】

Blue Ghostは日本企業の株式会社ispaceの月着陸機「RESILIENCE(レジリエンス)」とともに、日本時間2025年1月15日にSpaceX(スペースX)の「Falcon 9(ファルコン9)」ロケットで打ち上げられた後、日本時間2025年3月2日17時34分に危難の海(危機の海、Mare Crisium)にあるラトレイユ山(Mons Latreille)の近くへ軟着陸することに成功していました。

Blue Ghost Mission 1はNASAの商業月輸送サービス(CLPS)の下で実施されたミッションで、機体には全部で10のペイロードを搭載。Firefly Aerospaceによると、日本時間2025年3月17日8時15分に最後のデータを受信するまでの間、Blue Ghostは月の日照時間で14日と10時間、夜に入ってからも5時間強にわたって稼働し、ミッション全体で合計119GB以上のデータが地球に送信されました。

各ペイロードの成果についてもFirefly Aerospaceから発表されています。Blue Ghostのロボットアームに取り付けられたNASAの「Lunar PlanetVac」は、窒素ガスを使ってレゴリス(月の土壌)を採取し、サイズごとに粒子を分類する能力を実証。機体下部に取り付けられたNASAの「LISTER(Lunar Instrumentation for Subsurface Thermal Exploration with Rapidity)」はガス圧駆動のドリルを使って、月では最深記録となる表面下約1mまでの掘削と熱流量測定に成功しました。

同じく機体下部に取り付けられたNASAのステレオカメラ「SCALPSS(Stereo Cameras for Lunar Plume-Surface Studies)」は、着陸時のエンジン噴射が月面に及ぼす影響を高い解像度で詳細に記録。ロボットアームに取り付けられたNASAの「EDS(Electrodynamic Dust Shield)」は、静電気を利用して付着したレゴリスを除去する実験を行いました。これらのペイロードがもたらした成果は将来の月や火星における有人探査などで役立てられることになります。

月から見た日食や日没時の散乱光も撮影

また、日本時間2025年3月14日にはアメリカなどで皆既月食が観測されましたが、Blue Ghostはこの時に月面で日食を観測することに成功しました。月食は月が地球の影に入る現象ですが、月から見れば太陽が地球に隠される日食が起こることになるからです。日食の様子は高解像度で撮影された他に、磁気探査装置の「LMS(Lunar Magnetotelluric Sounder)」、レゴリスの付着実験装置「RAC(Regolith Adherence Characterization)」、前述のSCALPSSが稼働し、日食中のレゴリスの挙動や放射線環境の変化が測定されました。

そしてミッションの最終盤となるアメリカの現地時間2025年3月16日には、着陸地点から見た日没の光景が撮影されています。Firefly Aerospaceが公開した画像(記事後半に掲載)には地平線上に散乱光(グロー)が写っていますが、これについてNASAは過去の月探査機や「アポロ17号」ミッションでも観測された「Horizon Glow(ホライゾングロー、地平線グロー)」と関連があるかもしれないと言及。太陽光の紫外線にさらされたレゴリスが帯電・浮遊することで生じる可能性が考えられるといい、月面での日没を初めて高解像度で捉えた今回の画像は重要な研究材料になると期待を示しています。

なお、初の月着陸ミッションで大きな成功を収めたFirefly Aerospaceは毎年のミッション実施を目指しています。次のミッション「Blue Ghost Mission 2」は2026年の打ち上げが計画されており、Blue Ghostは月の裏側に着陸する予定です。

関連画像・映像

月面での活動開始時にBlue Ghostのカメラで撮影された月の日の出(Credit: Firefly Aerospace)
【▲ 月面での活動開始時にBlue Ghostのカメラで撮影された月の日の出(Credit: Firefly Aerospace)】
Blue Ghostのカメラで撮影された着陸機の影と地球(Credit: Firefly Aerospace)
【▲ Blue Ghostのカメラで撮影された着陸機の影と地球(Credit: Firefly Aerospace)】
Blue Ghostのカメラで撮影された地球(Credit: Firefly Aerospace)
【▲ Blue Ghostのカメラで撮影された地球(Credit: Firefly Aerospace)】
Blue Ghostのカメラで日本時間2025年3月14日17時30分頃に撮影された日食の様子。太陽を隠しているのは地球(Credit: Firefly Aerospace)
【▲ Blue Ghostのカメラで日本時間2025年3月14日17時30分頃に撮影された日食の様子。太陽を隠しているのは地球(Credit: Firefly Aerospace)】
Blue Ghostのカメラで撮影された日没の様子。地平線上に散乱光(グロー)が見えている(Credit: Firefly Aerospace)
【▲ Blue Ghostのカメラで撮影された日没の様子。地平線上に散乱光(グロー)が見えている(Credit: Firefly Aerospace)】

【▲ Blue Ghost着陸時の高解像度映像】
(Credit: Firefly Aerospace)

【▲ NASAのステレオカメラ「SCALPSS」で撮影した月面着陸時の様子】
(Credit: NASA/Olivia Tyrrell)

【▲ NASAのペイロード「LISTER」のドリルで月面を掘削する様子】
(Credit: Firefly Aerospace)

【▲ Blue Ghostのカメラで捉えた日食の様子】
(Credit: Firefly Aerospace)

【▲ Blue Ghostのカメラで捉えた日没の様子】
(Credit: Firefly Aerospace)

 

文・編集/sorae編集部

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参考文献・出典

  • Firefly Aerospace - Firefly Aerospace Successfully Completes 14 Days of Surface Operations on the Moon
  • Firefly Aerospace - Blue Ghost Mission 1
  • NASA - NASA and Firefly Final Update on Blue Ghost Moon Mission (YouTube)