「宇宙の距離はしご」とは?【後編】
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無数の星々や銀河、あるいは謎めいた天体までの距離を測る、それは個々の天体の性質を探るだけでなく、宇宙の真の姿を知るための最初のステップとなります。

しかしもちろん天体までの距離は、地球上のように定規やメジャーを持ち込んで測定することはできません。われわれはいまのところ地球とその周辺から宇宙を観測し、距離を推測するしかないのです。

そこで天文学者や天体物理学者は、宇宙の時空の性質や特徴的な天体、激烈な天体現象などを利用して天体までの距離を測定しています。

本稿の前編では天の川銀河内の天体の距離を測定する方法を取り上げます。後編では天の川銀河を離れ、その近傍にある天体や数億~数十億光年離れた天体、さらにははるか100億光年以上も離れた彼方の天体までの距離を測定する手法について紹介します。


〈4〉天の川銀河の近傍:標準光源①~"宇宙の灯台”セファイド型変光星~

光度が周期的に変化する星(変光星)を利用して距離を求める方法です。

かつて北極星(ポラリス)は旅をする人々の“道しるべ”であり、船乗りたちが航路を決定するための“夜空の灯台”でした。現在ではこの星は天文学者にとっては別の意味で“灯台”となっています。北極星は地球からもっとも近い「セファイド型変光星(ケフェウス座δ型変光星、セファイド)」であり、このタイプの星は天の川銀河の外部にある天体の距離測定に役立てられているのです。

セファイドは明るさが周期的に変化しますが、これは星がまるで心臓のように膨張と収縮をくり返すためとみられています。後述するセファイドのユニークな特徴にはじめて気付いたのは、アメリカの天文学者ヘンリエッタ・リーヴィット(図6)でした。

図6:ハーバード大学天文台で計算手として働いたリーヴィットは、セファイド型変光星は光度変化の周期が長いほど明るいことに気付きました。(Credit: Wikimedia Commons/Popular Astronomy, vol.3, No.4(1922)
【▲ 図6:ハーバード大学天文台で計算手として働いたリーヴィットは、セファイド型変光星は光度変化の周期が長いほど明るいことに気付きました。(Credit: Wikimedia Commons/Popular Astronomy, vol.3, No.4(1922)】

名門大学で教育を受けたリーヴィットは病気で聴覚に障害を負いましたが、19世紀末からハーバード大学天文台で“計算手(コンピューター)”のひとりとして働きはじめました。これは星々を映した感光板を調べて個々の星の特性を記録する作業です。当時の女性たちはたとえ高等教育を受けていても(その機会もまれでしたが)、こうした単純で几帳面さが必要な仕事にしかつけませんでした。

しかし感光板を調べるこの根気の要る作業を通じて、リーヴィットは1907~21年に2400個もの変光星を発見しました。このとき彼女が注目したのがセファイド型変光星です。このタイプの変光星は変光周期が長いほど絶対光度が高い(明るい)ことに気付いたリーヴィットは、この特性を利用すれば天体までの距離を測定できると考えました。

というのも、観測対象のセファイドが地球のごく近傍にあっても遠方にあっても、天文学者はその変光周期を正確に測定できるためです。周期がわかれば、そのセファイドの絶対光度がおのずから判明します。そこでセファイドの見かけの光度と絶対光度の違いから地球からの距離を見積もることができるのです。

セファイドのように、何らかの方法で絶対光度を知ることのできる天体は「標準光源」、別名を”宇宙の灯台”と呼ばれています。英語では「スタンダード・キャンドル(standard candle)」です。天体の距離を測定するための有力な指標である標準光源はたしかに、遠方では薄明るく、近づくにしたがって力強く輝く灯台やキャンドルに似通っています。

ハッブル定数で知られるアメリカの天文学者エドウィン・ハッブルは1924年、このセファイドを目安にして、当時は正体がはっきりしていなかった“星雲”の一部は天の川銀河の外にあり、独立した銀河であることを明らかにしました。さらに数年後、この方法を利用して遠方の銀河ほど高速で遠ざかっている証拠を示したのです(〈6〉で詳述)。

セファイドの一部は星としてはきわだって明るいため(あるセファイドの光度は太陽の20万倍!)、天の川銀河から少し離れた銀河でも発見されています。たとえば「ハッブル宇宙望遠鏡」は約1億光年彼方にあるセファイドを撮影しています。

〈5〉天の川銀河の近傍から遠方へ:標準光源②~暗黒エネルギーをもたらしたIa型超新星~

星の大爆発を標準光源として距離測定に利用します。

前項のセファイド型変光星の観測限界は現在は約1億光年ですが、宇宙全体を考えればそれもごく近傍といえます。何しろ宇宙は観測可能な範囲だけでも、半径138億光年とされているのですから。しかし、セファイドよりはるかに強力でより遠方まで光を到達させる“宇宙の灯台”もあります。それは「Ia型超新星」です。

新星や超新星はこれまで見えなかった天体が突如として強く輝く現象で、かつては新しい星と考える人もいました。日本や中国の史書には彗星なども含めて「客星」という名で登場します。

記録に残る過去最大の超新星は、藤原定家の『明月記』にも記された1006年の大客星とされています(図7)。これは定家本人の観測ではなく陰陽師の記録にもとづくものですが、それによればこの大客星は南天の地平線近くで半月ほども明るく輝いたといいます。もっとも明るいときの実視等級(見かけの明るさ)は推定-7.5~-9等、中国の記録によればその後3~4か月も観測されたそうです。

実際には超新星(超新星爆発)は新しい星ではなく、むしろ星の最後ともなる大爆発です。これは宇宙でもっともエネルギーの高い現象のひとつとされ、そのために非常に遠方からでも、たとえば50億~100億光年離れていても観測が可能です。

あいにく超新星は爆発現象なので、灯台としての輝きはいちどきりです。またすべての超新星が標準光源として利用できるわけではなく、Ia型というタイプの超新星のみです。ちなみに前出の1006年の超新星もIa型とみられています。記録に残る強い輝きを放ったのは、この超新星が天の川銀河内、つまり非常に近くで爆発したものだからです。

図7:1006年に出現した超新星から放出されたガスやチリは、いまでも超新星残骸(SN 1006)として観測できます。地球から約7000光年離れたこの天体はさしわたし60光年ほど。映像の青は「チャンドラ衛星」のX線データで、高いエネルギーを放出していることがわかります。(Credit: NASA, ESA, Zolt Levay (STScI)
【▲ 図7:1006年に出現した超新星から放出されたガスやチリは、いまでも超新星残骸(SN 1006)として観測できます。地球から約7000光年離れたこの天体はさしわたし60光年ほど。映像の青は「チャンドラ衛星」のX線データで、高いエネルギーを放出していることがわかります。(Credit: NASA, ESA, Zolt Levay (STScI)】

超新星が“宇宙の灯台”になる理由

Ia型超新星爆発のくわしいメカニズムはいまもはっきりしていません。わかっているのはIa型では、多少の違いはあるものの爆発規模がほぼ一定で、そのために絶対光度がおおむね等しいということ。というのも、この爆発は「白色矮星」(※1)という天体の質量がある限界(チャンドラセカール限界※2)を超えたときに起こるとみられているためです。

白色矮星は非常に密度が高く、太陽ほどの質量をもちながら地球と同じくらいの大きさしかない天体です。他の恒星と連星をなしている白色矮星は、強い重力により相手から物質を少しずつ奪っていきます。その結果、ついには質量が限界に達してIa型超新星として爆発するとされています。また白色矮星どうしが合体して爆発するケースも知られています。

Ia型超新星は、観測開始(発見)時から急激に光度が増し、その後は数か月から1年以上もかけてしだいに暗くなっていきます。近年、絶対光度が高いほど光度の減衰がゆるやかであることが明らかになり、光度の減衰率からより精確な絶対光度を求められるようになりました。

Ia型超新星は「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」(※3)という概念を生み出したことでも知られています。1990年代、アメリカの天文学者のグループは多数のIa型超新星について距離と後述の赤方偏移を測定しました。その結果、宇宙の膨張が加速している証拠を見いだし、宇宙が誕生時から一定に膨張しているという従来の見方をくつがえしました。そこで、この予想外の加速を引き起こしているのは暗黒エネルギーという謎の存在ではないかという仮説が提唱されたのです。

※1…白色矮星:恒星の最終的な姿のひとつ。太陽ほどの大きさの恒星が核融合の燃料を使い果たした後にその中心部分が白色矮星となるとみられている。白色矮星は地球ほどの直径でも太陽ほどの質量をもち、その密度は1立方cm(角砂糖1個分)あたり約1トンに達するという。

※2…チャンドラセカール限界:白色矮星の質量の上限で、太陽質量の約1.4倍とされる。すでに核融合を終えた白色矮星は、量子力学的な“反発力”(縮退圧)によって自らの強い重力に抗しているが、この限界より質量の大きな天体では重力が縮退圧に勝る。そのため、さらに収縮して(重力崩壊を起こして)中性子星やブラックホールとなるとみられている。名称はこの限界を見いだしたインド出身の天文学者スブラマニヤン・チャンドラセカールに由来する。

※3…暗黒エネルギー(ダークエネルギー):重力に抗する斥力として働く時空の性質で、宇宙の膨張を加速させているとされる。かつてアインシュタインが予言した「宇宙定数」に相当するともされ、そのエネルギー量は宇宙の膨張とともに増大するという。

〈6〉天の川銀河の近傍から宇宙論的遠方へ:スペクトル②(赤方偏移)~宇宙の膨張がもたらすスペクトルの変化~

われわれの宇宙は誕生以来、とどまることなく膨張しつづけているとされています。これを利用するのが「赤方偏移」による距離測定です。

1929年、アメリカの天文学者エドウィン・ハッブルは、天の川銀河周辺の複数の銀河がわれわれから遠ざかっていることを見いだしました。

彼は前出のセファイド型変光星を距離の目安として用い、天の川銀河の近傍の20以上の銀河の距離とその移動速度を求めました。すると、銀河が遠いほど後退速度が大きいことがわかったのです。後にこれは宇宙が膨張している様子を示すとされ、ビッグバン宇宙論を支える根拠のひとつにもなっています。この観測で後退速度を求めるためにハッブルが利用したのが天体スペクトルの赤方偏移です。

パトカーや救急車が近くを通り過ぎるとき、サイレンはまず高音になってついで低音へと変化します。これは車が近づくときにはサイレン音の波長が押しつぶされて短くなって音が高くなり、逆に遠ざかるときには波長が伸びて音が低くなるためです。この現象は「ドップラー効果」と呼ばれています。

同様の現象は光(電磁波)でも起こります。可視光では波長の短い側が青、長い側が赤なので、電磁波の波長が短くなるときは青方偏移、長くなるときは赤方偏移と呼ばれています。ただし天体の赤方偏移は、天体が時空の内部で動きまわるために生じるというより、おもに宇宙が膨張しているために観測される現象とみなされています(※4)。一般に、宇宙の膨張による赤方偏移に比べれば、天体の運動による赤方偏移は小さいためです。そこでとくに遠方の天体までの距離を知るには、宇宙の膨張によって生じる赤方偏移が利用されます。

宇宙はまるでパンがふくらむときのように時空全体が伸びているとされています。そのため、そこを通る電磁波も時空の膨張にともなってしだいに波長が長くなっていきます。地球から遠方にある天体が放出する電磁波ほど長期にわたって時空を移動するので、結果としてスペクトルは大きく“赤側”にずれることになります。

例外的に地球近傍の天体のスペクトルは、時空の膨張の影響をあまり受けないため、その赤方偏移や青方偏移はおもに天体自身の運動の様子を反映しているとみられています。

図8:宇宙の時空は膨張しているため、そこを通過する光の波長もしだいに伸びていきます。遠方にある天体が放出した光ほど“時空の旅”は長く続くため、赤方偏移も大きくなります。(Credit: NASA/JPL-Caltech//R. Hurt (Caltech-IPAC))
【▲ 図8:宇宙の時空は膨張しているため、そこを通過する光の波長もしだいに伸びていきます。遠方にある天体が放出した光ほど“時空の旅”は長く続くため、赤方偏移も大きくなります。(Credit: NASA/JPL-Caltech//R. Hurt (Caltech-IPAC))】

赤方偏移による距離測定は、天体のスペクトルさえ測定できれば、比較的近い距離から遠方まで利用できる非常に便利な手法です。しかし、正確性の点で課題があります。というのも、赤方偏移を使うには宇宙の膨張速度、つまり「ハッブル定数」を知る必要がありますが、その値が正確にはわかっていないためです。

ハッブル定数を求めるには、①宇宙初期の光(宇宙背景放射※5)の観測から理論的に求める手法、また②前出のセファイドや超新星などの標準光源を多数観測した結果から算出する手法があります。

ハッブル定数は当初1メガパーセク(約326万光年)あたり秒速約500kmとされたものが、観測技術の進展とともに変化し、最近では1メガパーセクあたりの秒速は65~75kmで落ち着いています。しかし、上記の①により求めた値は約65km、②では70~75kmとかなり開きがあります。この食い違いは“ハッブルテンション”と呼ばれ、われわれの宇宙の理解に何かしら間違いがあるのではないかという疑問も投げかけています。

※4…運動による赤方偏移は小さいものの、それぞれの天体について回転運動などを解析するために利用されている。また宇宙ではほかに、大質量の天体が放出する光(電磁波)の波長が、重力によって長くなる現象(重力赤方偏移)も見られる。

※5…宇宙背景放射:宇宙誕生(ビッグバン)の約38万年後、それまで他の粒子と相互作用していた光が直進するようになったとされる(宇宙の晴れ上がり)。このとき宇宙空間全域に広がった放射が宇宙背景放射。放射が示すスペクトルの絶対温度が約3K(約-270℃)なので、3K放射ともいう。

〈7〉宇宙論的遠方:重力波、ガンマ線バースト、重力レンズetc. ~アインシュタインの重力波が教えてくれるもの~

宇宙論的遠方、すなわち数十億~100億光年以上の距離を測定する方法は十分に確立したとはいえません。しかし後述するように、たとえば重力波の周波数や振幅を調べることによって距離を求めることもできます。

Ia型超新星は100億光年彼方まで観測できるため、距離測定に非常に有効な手段となります。しかしそれより遠方、あるいはIa型超新星が観測されていない銀河などでは、現在は赤方偏移に頼らざるを得ません。前述したとおり、赤方偏移による距離測定は仮定に仮定を重ねるような危うさがあります。しかし、近年になって宇宙論的距離に対しても、より確実性の高い距離はしごになり得る有望な手段が複数提唱されています。

たとえば、重力レンズによる光の経路の差を利用する(※6)、“電磁波の乱れ”(スニヤエフ=ゼルドヴィッチ効果)を標準光源代わりに用いる(※7)などの手法です。

さらに最近注目されているのは、1916年にアインシュタインがその存在を予言し(しかし発見はおそらく不可能とみていた)、100年後にはじめて検出された「重力波」です。

アインシュタインは一般相対性理論によって、質量のある物体のまわりではまるでゴムシートのように時空が歪むことを示しました。時空の歪みは重い物質が急激に動くと大きく変化するため、それはまわりに時空の伸び縮みとして伝わっていくことになります。これが“時空のさざ波”とも呼ばれる「重力波」です。

重力波は非常に微弱なので、地球でも確認できるほど強い重力波は、宇宙でも“大事件”が起こったときにしか発生しません。現時点で唯一の検出例は「コンパクト天体」の衝突です。

コンパクト天体とは中性子星やブラックホールなどの小さくて質量の大きな天体ですが、このような天体どうしの連星も見つかっています。強い重力をもつこれらの天体は、たがいを周回するうちに接近し、ついには衝突・合体することがあるのです。

ブラックホールどうしの衝突で重力波発生

距離はしごとしての重力波は、きわだって特異な存在といえます。というのも、重力波を使えば“前段のはしご”を使わずに直接距離を求めることができるためです。

コンパクト天体の連星は接近しながら、ときには1秒間に100回(!)もの速さでたがいを周回します。このようにとほうもなく質量の大きなものが超スピードで回転するため、周囲には重力波が広がっていきます(図9)。さらに衝突したときにはまわりの時空の歪みがいっきに変動し、強い重力波が発生します。

図9:2個の中性子星がたがいを高速で周回しながら接近したため、重力による時空の歪みが変動し、まわりに重力波が広がっていきます(イメージ)。(Credit: R. Hurt/Caltech-JPL)
【▲ 図9:2個の中性子星がたがいを高速で周回しながら接近したため、重力による時空の歪みが変動し、まわりに重力波が広がっていきます(イメージ)。(Credit: R. Hurt/Caltech-JPL)】

こうした重力波の波長を継続して追えば、衝突前の各コンパクト天体の質量や速度、さらには衝突時の重力波について理論上の大きさ(振幅)も計算できます。すると、重力波の振幅がある種の“標準光源”となるため、重力波の発生源までの距離も見積もることができるのです。

コンパクト天体の衝突ではガンマ線バーストが発生することも知られていますが、これもまた標準光源になり得ます(※8)

問題はこうして距離を求めても、必ずしも発生源の正確な方向(天球上の位置)がわからない点です。重力波やガンマ線バーストを検出する観測機器は、可視光などを視覚的にとらえる望遠鏡とは違って、信号がやってくるおおよその方向しか示せません。ちょうど花火の音が聞こえても、打ち上げられている場所はあまり正確にはわからないようなものです。

しかし現在では、「放出した天体がどれか」を突き止めるための国際的な天文ネットワークが構築されています。重力波やガンマ線バーストが検出されると、世界各国の天文台や観測衛星が即座にそれらが発せられた方向に向けられ、発生源となる天体の候補を探しはじめます。

こうした研究が積み重ねられれば、コンパクト天体の衝突は“宇宙の果て”まで届く距離はしごになるかもしれません。

※6…重力レンズ:大質量の天体(巨大銀河など)が重力によってレンズのように背後の天体の光を曲げる現象。これにより“レンズ”背後の天体が複数の像に見えることがある。仮に背後の天体の光度が周期的に変化する場合、各像の光度変化のタイミングの微小なずれから、各像について天体から地球までの光路差がわかる。ここから背後の天体や“レンズ”までの距離を測定できる。

※7…スニヤエフ=ゼルドヴィッチ効果(SZ効果):宇宙全体に満たされている宇宙背景放射が、銀河団内で乱される現象をこう呼ぶ。SZ効果は銀河団が巨大なほど大きくなるため、他の観測と合わせると銀河団の実際の大きさを計算できる。これを銀河団の見かけの大きさと比較すれば銀河団までの距離が求められる。

※8…ガンマ線バーストは短時間(1秒以下~数十分)に大量のガンマ線が放出される現象。コンパクト天体の衝突によっても発生し、バーストが終了した後にもX線や可視光などの光(アフターグロー:残光)が放出される。このアフターグローの変化のしかたをもとに、ガンマ線バーストの規模を推測することができる。


 

天体までの距離を求める。それはまた、われわれが観測している瞬間の天体が、宇宙史のどこに位置しているかを知ることでもあります。これまでに観測された最古の星は、まさにわれわれの天の川銀河内にあります。約70億光年先の宇宙にはもしかすると宇宙史の半ば頃の天の川銀河にそっくりの銀河が存在し、約130億光年の彼方には誕生してまもない宇宙の姿が見え隠れしているかもしれません。

宇宙の距離はしごは宇宙の3次元的な姿を克明に描き出すだけではなく、宇宙の歴史を語る一助ともなるのです。

 

文/新海裕美子 編集/sorae編集部

参考文献・出典

  • Manahel AR Thabet - Measuring Distances in Space (SSRN Electronic Journal)
  • The University of Western Australia - Explanation of the Cosmic Distance Ladder
  • NASA/JPL - Apollo 11 Experiment Still Going Strong after 35 Years
  • ESA - Gaia’s new data takes us to the Milky Way’s anticentre and beyond
  • Space.com - Henrietta Swan Leavitt: Discovered How to Measure Stellar Distances
  • Nature Japan - 前田 啓一氏:「Ia型超新星」は、やはり没個性的!宇宙の距離を測る「標準光源」であり続ける ― 宇宙論研究や暗黒エネルギーの解明に期待