
3月、身を切るような冬の冷気も緩み、春の訪れを感じられる季節です。
この時期に南を正面にして空を見上げると、右手と左手で大きく星空の様子が違うように感じられるかもしれません。
右手(西)は明るい星が多く華やかですが、左手(東)はやや控えめな印象を受けます。西に見られるのは冬の星座と惑星、東は春の星座です。
西の空高い場所に、木星があります。明るさは-2.2等級と非常に明るく、またたきが少ないため、ひときわ目立つ存在です。
木星のそばにはオレンジ色の1等星アルデバランがあります。アルデバランは「おうし座」の目に当たる星です。
おうし座の東側には、リボンを縦にしたような星の並びがあります。冬の星座の王者「オリオン座」の目印です。赤色のベテルギウスと、青白色のリゲルという2つの1等星を持ち、形も美しいオリオン座は、冬の星座の王者と呼ばれています。
さらに東へ目を移すと、「おおいぬ座」のシリウス、「こいぬ座」のプロキオンが見つかります。シリウスは1等星中最も明るい星です。明るさは-1.46等級と、木星には及びませんが、激しくまたたく白い輝きは、木星とは違った美しさです。
プロキオンは黄白色の1等星で、シリウスより柔らかな光を放っています。
ベテルギウス、シリウス、プロキオンを結ぶと、「冬の大三角」が描けます。
冬の大三角から上方へ目を移すと、オレンジ色の星が目に入ります。「火星」です。明るさは0.1等級で、リゲルと同程度です。2025年1月12日の最接近時には-1.4等級とシリウス並みの明るさでしたが、現在はだいぶ暗くなっています。
しかし、その独特なオレンジの光は、冬のあでやかな1等星の中でも良く目立つでしょう。
火星のそばには「ふたご座」のポルックスがあります。ポルックスはオレンジ色の1等星で、西側には白い2等星カストルがあります。カストル、ポルックスはふたご座のモデルとなった双子の兄弟の名前です。この2つの星からオリオン座の方へ向かって並ぶ漢字の「北」のような形がふたご座です。
ふたご座から東へ目を移すと、「しし座」の白い1等星レグルスがあります。レグルスから空高い方へ向かって「?」マークを逆さまにしたような形が描けます。これは「ししのおおがま」と呼ばれる、しし座の頭から胸に当たる星の並びです。
ししのおおがまから背中、しっぽ、足と星を結ぶとしし座が描けます。
しし座は春の星座の王者です。西を向いて駆けていくようなその姿は、冬の星座を追い立てているようにも見えます。
南の空の高いところには「かに座」が浮かびます。ふたご座のポルックスと、しし座のレグルスを結んだ中間辺りにある、歪んだ小さな四角い星の並びが目印です。しかし、一番明るい星でも4等星と暗いため、街中で探すのは難しいでしょう。
町明かりのない澄み切った空では、かに座の中央にぼんやりと煙のようなものが見られます。「プレセペ星団」という星の集まりです。
プレセペ星団は、中国では「積尸気(せきしき)」と呼ばれ、亡くなった人の魂が集まる場所とされていました。また、古代ギリシャでは人間の霊魂が天上と地上を行き来するための門であると考えられていました。
古代の人々はプレセペ星団の神秘的な輝きに、人の命の儚さや不思議さを感じていたのかもしれません。
春の始め、プレセペ星団は空高くに輝いて、冬の星座を見送り、春の星座を導きます。
間もなく春分、本格的な春が訪れようとしています。

2025年3月8日 水星が東方最大離角
2025年3月8日は水星が東方最大離角となる日です。この場合の「最大離角」とは、水星のような内惑星(地球の内側を周る惑星)が地球から見て太陽から最も離れる時を指します。
東方最大離角時には、水星は夕方西の空で見られます。見かけの位置が太陽から大きく離れるため、観測するのに良い時期です。
水星の光度は-0.3等級とかなり明るくなりますが、日没頃には低空にありますので、探すのは少し難しいかもしれません。ただし、今回の東方最大離角時には金星が良い目印になります。金星の左下に水星がありますので、まず西の空で金星を見つけ、そこから水星を探してみてください。

注釈
※…木星、火星の等級は日本時間2025年3月15日0:00時点のもの(国立天文台暦計算室 今日のほしぞら参照)
※…星座や天体の見える方角や位置関係は2025年3月15日21時頃のものです
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編集/sorae編集部