JAXA(宇宙航空研究開発機構)は2026年4月13日に開催された第62回宇宙開発利用部会 調査・安全小委員会にて、「H3」 ロケット8号機打ち上げ失敗の原因究明について、最新の状況を報告しました。
これまでの大まかな経緯
準天頂衛星システム (QZSS) 「みちびき」 5号機を搭載したH3ロケット8号機は、種子島宇宙センターから日本時間2025年12月22日10時51分30秒に打ち上げられました。
しかし、1段目と2段目の分離後に2回予定されていた2段目エンジン燃焼のうち、第2回燃焼が早期に停止してしまったことで、打ち上げは失敗しました。打ち上げまでの経緯や打ち上げ当日の模様については、以下の記事をご参照下さい。
- 【更新】 H3ロケット8号機打ち上げ失敗「みちびき」 5号機を予定の軌道へ投入できず(2025年12月22日)

また、2026年1月以降の宇宙開発利用部会 調査・安全小委員会では、8号機打ち上げ失敗の原因究明状況が毎回報告されています。過去の会合については以下の記事をご参照ください。
- H3ロケット8号機の2段目は「みちびき」5号機を喪失したまま飛行か JAXAが原因究明状況を報告(2026年1月20日)
- 衛星搭載構造内部の部材剥離を有力視 JAXAがH3ロケット8号機打ち上げ失敗原因究明状況を報告(2026年2月25日)
- 衛星搭載アダプタの部材剥離が原因となった可能性高まる JAXAがH3ロケット8号機打ち上げ失敗原因究明状況を報告(2026年3月24日)
2026年4月13日に開催された今回の会合では、JAXAでH3プロジェクトチームのプロジェクトマネージャー (PM) を務める有田誠さんが、原因究明についての最新状況を報告しました。
これまで有力視されていた衛星搭載アダプタ(PSS)内部の剥離について発生から全体破壊に至るまでのメカニズムが特定され、打ち上げ失敗の主要因である可能性が極めて高いと特定されたことや、飛行再開に向けた具体的な対策方針を決定したことなどが報告されています。
製造時の過加熱が主要因の可能性大と結論
3月24日に開催された前回(第61回)の会合では、試験や解析の結果をもとに、衛星搭載アダプタの剥離が発生・進展したメカニズムの全体像がすでに示されていました。今回(第62回)の報告では、このメカニズムが打ち上げ失敗の主要因である可能性が極めて高いことが判ったと結論付けられています。
これまでの調査で特定されたメカニズムは、以下の通りです。
まず、製造工程でパネルの結合部(スプライス)をヒーターで加熱した際、一部の温度が想定以上に上昇し、ハニカムコア内に密閉されていた空気が膨張してパネル表面のスキンを外側へと押し上げる力(荷重)が発生するとともに、この過加熱自体によって接着強度が低下していました。これが主な要因となって、膨張する空気の荷重により、スキンとハニカムコアの剥離が生じていたと特定されました。


飛行中のロケットが宇宙空間へ上昇して周囲が真空になると、衛星搭載アダプタの内部に閉じ込められた空気と真空環境との圧力差が生じます。この差圧や飛行中の静荷重だけでは大規模な剥離の進展はありませんでしたが、引き金になったとみられるのがフェアリング分離時の衝撃です。
打ち上げ前から生じていた複数の大きめの剥離が衝撃によって瞬時につながり、数ミリ秒というわずかな間に広範囲の座屈(構造が折れ曲がって潰れる現象)へと一気に進展した結果、衛星搭載アダプタ全体の破壊が引き起こされたとみられています。


なお、同様のスプライス接着はフェアリングでも用いられていますが、フェアリングは海面への落下後に水没させる仕様になっているため、ハニカムコアの大部分から空気が抜ける仕様になっています。そのため、製造時の加熱で剥離を引き起こす荷重は発生しにくい構造になっており、一部で小規模な剥離は確認されたものの、標準的な手順の補修で使用可能と判断されています。
フェアリング早期分離検知の原因は「衝撃によるコネクタのロック外れ」
また、今回の会合では、8号機のデータに残されていた「フェアリング分離の検知が通常よりも早かった」という特異な事象の原因も解明されました。
解析の結果、衛星搭載アダプタの構造が破壊された際、分離を検知するためのコネクタ(QDコネクタ)を取り付けているブラケット部分が、瞬間的に約12mm変位したことが判明しました。この変位量だけではコネクタが引き抜かれることはありませんが、衝撃試験を行ったところ、コネクタをロックする機構(カップリングリング)が急激な動きに追従しきれずにロックが外れ、結果的にコネクタが抜けてしまうことが実証されました。想定よりも早いタイミングでの分離検知は、このようなメカニズムで発生したとみられています。

標準ミッションの衛星搭載アダプタは「ファスナ結合」方式へ
8号機打ち上げ失敗の原因が衛星搭載アダプタの部材剥離である可能性が極めて高くなったことを受け、JAXAはH3ロケットの打ち上げ再開に向けた対策方針を正式に決定しました。
実用衛星を搭載する標準の打ち上げでの衛星搭載アダプタの設計では、H3ロケットで導入された接着方式から、運用を終えた「H-IIA」ロケットでも採用されていた、ボルトを用いる「ファスナ結合方式」に変更されます。この変更によって、スプライス接着時の熱負荷という剥離リスクの根本原因が排除されるとともに、安定した品質が確保可能とされています。

一方で、固体ロケットブースター(SRB)を使用しない形態(30形態)の試験機として打ち上げが予定されている6号機については、設計変更に時間を要するファスナ結合ではなく、剥離部分を除去して樹脂とCFRPで補強する「補修方式」の衛星搭載アダプタを採用することが決まりました。
6号機に搭載されるペイロード(性能確認用ペイロードと超小型衛星6機)は比較的軽く、衛星搭載アダプタにかかる荷重が標準の3分の1程度にとどまるため、補修方式でも強度マージンを十分に確保できることが理由として挙げられています。

なお、6号機は2026年3月に2回目の1段目実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)を終えたばかりです。JAXAは30形態試験機である6号機の打ち上げにて実際のフライトデータを追加取得することで、原因究明の裏付けと今後のミッションの確実性向上を目指すとしています。
また、新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」の打ち上げ時に用いられる衛星搭載アダプタとフェアリングについては、標準の打ち上げで用いられるものとは設計・製造プロセスが異なり、同じような問題が生じるリスクは有していないことが確認されていることから、追加の点検などは不要と評価したということです。
今後は低コスト化が期待される30形態の初飛行としてだけでなく、H3ロケットの本格的な打ち上げ再開に向けた期待も背負うことになった、6号機の打ち上げ実施が注目されます。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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