
JAXA(宇宙航空研究開発機構)は2026年2月25日に開催された第60回宇宙開発利用部会 調査・安全小委員会にて、「H3」ロケット8号機打ち上げ失敗の原因究明について、最新の状況を報告しました。
これまでの大まかな経緯
準天頂衛星システム(QZSS)「みちびき」5号機を搭載したH3ロケット8号機は、種子島宇宙センターから日本時間2025年12月22日10時51分30秒に打ち上げられました。
しかし、1段目と2段目の分離後に2回予定されていた2段目エンジン燃焼のうち、第2回燃焼が早期に停止してしまったことで、打ち上げは失敗しました。打ち上げまでの経緯や打ち上げ当日の模様については、以下の記事をご参照下さい。
- 【更新】H3ロケット8号機打ち上げ失敗 「みちびき」5号機を予定の軌道へ投入できず(2025年12月22日)

また、打ち上げから約1か月後の2026年1月20日に開催された前回の第59回宇宙開発利用部会 調査・安全小委員会では、異常発生から衛星離脱までの飛行状況の推定などが報告されました。前回の会合については以下の記事をご参照下さい。
- H3ロケット8号機の2段目は「みちびき」5号機を喪失したまま飛行か JAXAが原因究明状況を報告(2026年1月20日)
前回から約1か月後の2月25日に開催された今回の会合では、JAXAでH3プロジェクトチームのプロジェクトマネージャー(PM)を務める有田誠さんが、原因究明についての最新状況を報告しました。データ分析の進展により、異常が発生したタイミングや破壊箇所が詳細に絞り込まれたことに加えて、新たな有力要因として部材の剥離(はくり)が関わった可能性が浮上しています。
異常発生のタイミングと損傷箇所を絞り込み
まずは、異常発生のタイミングについて。H3ロケット8号機では1段目での飛行中に実施されるフェアリング(ロケットの先端で衛星を保護するカバー)を分離するタイミングで、2段目と「みちびき」5号機をつなぐ衛星搭載構造(※)の破壊が始まったと判断されています。
※…2段目上部に取り付けられた「衛星搭載アダプタ(PSS)」と、その上部に取り付けられた「衛星分離部(PAF)」からなる円錐形の構造。
ロケット各部に搭載されたセンサーのフライトデータを詳細に分析した結果、衛星搭載構造の破壊は、フェアリングを分離するための火工品(火薬を用いた分離装置)のスイッチがオンになってから約62ミリ秒(0.062秒)以内という極めて短い時間内に始まったと判断されました。
また、破壊された箇所の特定も進んでいます。JAXAの分析によれば、衛星分離部のテレメトリ(遠隔測定)データが事象発生後も一部正常に取得できていたことや、衛星搭載アダプタの下部に取り付けられていたカメラの映像の画角に大きな変化がなかったことなどから、損傷したのは衛星搭載アダプタの上部である可能性が高いと判断されました。


フェアリングの衝突や推進薬の爆発は原因から排除
前回の会合の時点では、展開されたFTA(故障の木解析:発生した事象から逆算してあらゆる要因を洗い出す手法)を通じて、異常な加速度が発生した原因となり得る複数の可能性が挙げられていました。しかし今回の報告では、試験や解析の結果をもとに、いくつかの要因が「直接の原因ではない」として排除されています。
例えば、「分離中のフェアリングが衛星や搭載構造に衝突した」というシナリオについては、仮にヒンジの損傷にともなうフェアリングの異常な動きが生じたとしても、フェアリングの下部が衛星搭載構造に衝突するまでに、最短でも約0.4秒かかることが判明しました。前述の通り0.062秒以内とみられる異常発生とはタイミングが合わず、直接の要因にはなり得ないと判断されました。
また、「衛星側の推進薬が漏れ出して爆発・燃焼した」という可能性についても、フェアリング分離時に生じる衝撃や熱を地上で再現する要素試験が行われました。その結果、構造体を破壊するような爆発的な反応は起きないことが確認されたとして、こちらも要因から外されています。
新たな有力要因「内部構造の剥離」
一方で、新たな直接要因の可能性として浮上したのが、衛星搭載アダプタの「内部構造の剥離」です。
JAXAによれば、製造済みの複数の衛星搭載アダプタを調査したところ、4分割されている部材のパネルどうしを結合する箇所の付近で、表面のCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製スキンと内部のアルミニウム製ハニカムコア(ハチの巣状の軽量な構造材)の間に、想定を越える剥離が生じている箇所が発見されました。
8号機の衛星搭載アダプタでも剥離が生じていたかどうかはわかっていませんが、同様の状態で飛行した可能性が高いとみられており、剥離箇所が破壊の起点となった可能性があるとされています。

想定される5つのシナリオと今後の展望
現在、JAXAは原因を特定するために、客観的なデータと整合する、以下の5つのシナリオを設定しています。
・フェアリング分離用の火工品の破裂
・フェアリング内に漏洩したガスの爆発
・液体水素の漏洩による衛星搭載構造の低温化(冷却)
・フェアリング内外の圧力差(差圧)による荷重
・衛星搭載アダプタ内部構造の剥離
特に有力だとして評価が進められているのが、衛星搭載アダプタ内部構造の剥離を起点とする5番目のシナリオです。これは、製造工程で生じた剥離がパネル内外の圧力差(パネル内部に残留した最大1気圧の空気と、パネル外部の真空環境との差)によって進展し、フェアリング分離時の衝撃をきっかけとして一気に座屈(構造が折れ曲がって潰れる現象)を起こし、構造の破壊に至ったとするものです。
ただし、直接要因として特定するためには、剥離が飛行中にどのように進展して最終的な破壊につながったのか、どうして過去の打ち上げではなく8号機の打ち上げでこの事象が発現したのかというメカニズムの解明に加えて、飛行中に取得されたカメラ画像などのデータとの整合性も説明する必要があります。
JAXAは今後、設定した5つのシナリオに対する再現試験や詳細な解析を実施して、各シナリオの評価を行う方針です。

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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